クローン病の治療

クローン病治療指針(平成22年度改訂)より

治療原則

未だクローン病を完治させる治療法はない。治療の鷺的はクローン病の活動性をコントロールし、患者のQOLを高めることにある。

活動期の治療

初発・診断時や活動期には寛解導入を目的とした治療を行い、いったん寛解が導入されたら長期に寛解を維持する治療を行なう。
多くの患者では外来治療により日常生活や就学・就労が可能であるが、重症あるいは頻回に再燃し、外来治療で症状の改善が得られない場合には入院や外科的治療を考慮する。

(1) 軽症~中等症

重篤な副作用が少なく投与しやすいことから5-ASA(5-アミノサルチル)製剤(ペンタサ®〔3gまで保険適応〕、大腸型ではサラゾピリン®〔4gまで保険適応〕でも良い)が第一選択薬として用いられる。また、患者の受容性がある場合には、栄養療法も有用で通常900Kcal/日程度が使用される。

(2) 中等症~重症

  • 薬物療法を中心とする場合
上記(1)の治療の他、経口ステロイド(プレドニゾロン40mg/日程度(重症例では40-60mg/日))を投与する。また、メトロニダゾール(フラジール®)1日750mgやシプロフロキサシン(シプロキサン®)1日400mg~800mgを試みる方法もある。ステロイドは強力な抗炎症作用を有し寛解導入効果に優れるがとくに長期投与で副作用が問題となるため、寛解導入を目的として投与したのち漸減中止する。
ステロイドや栄養療法(詳細は後記)等の寛解導入療法が無効な場合はインフリキシマブ(レミケード®)あるいはアダリムマブ(ヒュミラ®)の投与を考慮する。インフリキシマブやアダリムマブにはステロイドの減量・離脱効果もある。インフリキシマブは初回投与後2週、6週に投与し、寛解維持療法として以後8週間の間隔で投与を行う。効果発現は迅速で、2週間後に炎症所見の軽減や症状の改善がみられ、数週間持続する。投与時反応に対する処置が可能な状態で5mg/kgを2時間以上かけて点滴静注し、副作用の発現に注意する。一方、アダリムマブは初回160mgの皮下注射を行い、2週間後に80mgの皮下注射を行う。その後は40mgの皮下注射を2週間ごとに寛解維持療法として行う。条件が満たされれば、患者自身による自己注射も可能である。

  • 栄養療法を中心とする場合
経腸栄養療法を行う。経腸栄養剤は成分栄養剤(エレンタール®)でも消化態栄養剤(ツインライン®等)でもよい。経鼻チューブを用いて十二指腸~空腸に投与する。副作用としての下痢に注意しながら投与量を漸増し、数日で維持量に移行する。1日の維持投与量として理想体重1kgあたり30kcal以上を投与する。病状と患者の受容性やQOLに配慮して適宜投与量の増減や経口法の併用を行っても良い。
成分栄養剤を用いる場合には10-20%脂肪乳剤200-500mLを週1-2回点滴静注する。
小児では原則として、栄養療法を先行して行い,治療効果が不十分な症例においてステロイド、免疫調節薬などの投与を検討することが望ましい。

  • 血球成分除去療法の併用
栄養療法及び既存の薬物療法が無効又は適用できない、大腸の病変に起因する明らかな臨床症状が残る中等症から重症の症例に対しては、寛解導入を目的としてアダカラム®による顆粒球吸着療法(GMA)を、一連の治療につき基本的に週1回×5週を1クールとして、2クールを限度に施行できる。尚、劇症潰瘍性大腸炎で認可されている第1週目の2回施行は現状では認められていない。

(3) 重症(病勢が重篤、高度な合併症を有する場合)

外科的治療の適応の有無を検討した上で下記の内科治療を行う。
  • 薬物療法を中心とする場合
感染症の合併がないことを確認したのちにステロイドの経口投与または静脈投与(プレドニゾロン40-60mg/日)を行う。ステロイド抵抗例ではインフリキシマブの投与を考慮する。

  • 栄養療法を中心とする場合
著しい栄養低下、頻回の下痢、広範な小腸病変の病勢が重篤な場合、腸管の高度狭窄、瘻孔、膿瘍形成、大量出血、高度の肛門部病変などを有する場合や通常の経腸栄養療法が困難あるいは効果不十分な場合は、絶食の上完全静脈栄養療法を行う。通過障害や膿瘍などがない場合は、インフリキシマブを併用してもよい。

寛解維持療法

活動期に対する治療によりいったん寛解が導入されたら、長期に寛解を維持する治療を行う。穿孔型あるいは肛門部病変を合併した患者、腸管切除を受けた患者、寛解導入時にステロイド投与が必要であった患者は再燃しやすいので注意が必要である。
寛解維持療法としては、在宅経腸栄養療法、薬物療法(5-ASA製剤、アザチオプリン、インフリキシマブ、アダリムマブ等)が用いられる。アザチオプリンは、腸管病変の他肛門部病変の寛解維持にも有効である。またインフリキシマブやアダリムマブにより寛解導入された後は、それぞれの定期的投与が寛解維持に有効である。寛解維持治療中に効果が減弱する症例があり、その場合は投与間隔の短縮や増量(10mg/kgまで海外のエビデンスがある)が有用である(保険適応外)。在宅栄養療法では、1日摂取カロリーの半分量以上に相当する成分栄養剤や消化態栄養剤の投与も寛解維持に有用であるが、栄養剤の投与や選択にあたっては患者個々のQOLやADL・受容性などを考慮すべきである。短腸症候群など、在宅経腸栄養法でも栄養管理が困難な症例では、在宅中心静脈栄養法を考慮する。
在宅経腸栄養療法は,小児の寛解維持にも有用である。

肛門部病変に対する治療

腸管病変の活動性を鎮め寛解導入すべく、内科的治療に努める。外科医・肛門科との連携の下に病態を把握し治療法を選択する。痔瘻・肛門周囲膿瘍に対しては、必要に応じドレナージなどを行い、さらにメトロニダゾールや抗菌剤・抗生物質等で治療する。インフリキシマブによる治療は、上記により膿瘍がコントロールされたことを画像検査で確認したうえで考慮する。裂肛、肛門潰瘍に対しては腸管病変に準じた内科的治療を選択する。肛門狭窄については、経肛門的拡張術を考慮する。難治例に関しては、経験の豊富な外科医・肛門科などの専門医との連携がのぞましい。

狭窄の治療

内視鏡が到達可能な箇所に通過障害症状の原因となる狭窄を認める場合は、内科的治療で炎症を鎮静化し、潰瘍が消失・縮小した時点で、内視鏡的バルーン拡張術を試みてもよい。改善がみられたら定期的に狭窄の程度をチェックして、本法を繰り返す。穿孔や出血などの偶発症には十分注意し、無効な場合は外科手術を考慮する。





薬剤

炎症性腸疾患治療薬

  • メサラジン(Mesalazine・5-aminosalicylic acid:5-ASA ペンタサ® Pentasa)

抗ヒトTNFαモノクローナル抗体製剤

  • インフリキシマブ(Infliximab レミケード® Remicade)
  • アダリムマブ(Adalimumab ヒュミラ® Humira)
  • セルトリズマブ(Certolizumab シムジア® Cimzia)日本では未承認

ビフィズス菌整腸剤


止しゃ剤


免疫抑制剤


合成副腎皮質ホルモン剤


顆粒球吸着除去療法

Crohn病におけるInfliximab・GCAPの位置づけと今後(鈴木 康夫: “II.Crohn病におけるInfliximab・GCAPの位置づけと今後”. 日本大腸肛門病学会雑誌, 63: 863-868, 2010 .)


外科的治療


1.手術適応


(1)絶対的適応

①穿孔、大量出血、中毒性巨大結腸症、内科的治療で改善しない腸閉塞、膿瘍(腹腔内膿瘍、後腹膜膿瘍)
②小腸癌、大腸癌(痔瘻癌を含む)
〈注〉①は(準)緊急手術の適応である。

(2)相対的手術適応

①難治性腸管狭窄、内瘻(腸管腸管瘻、腸管膀胱瘻など)、外瘻(腸管皮膚瘻)
②腸管外合併症:発育障害など(思春期発来前の手術が推奨される。成長障害の評価として成長曲線の作成や手根骨のX線撮影などによる骨年齢の評価が重要であり、小児科医と協力し評価することがのぞましい)
③内科治療無効例
④難治性肛門部病変(痔瘻、直腸膣瘻など)、直腸肛門病変による排便障害(頻便、失禁などQOL低下例)

2.術式の選択

外科治療の目的は内科治療に抵抗する合併症の除去であり、術式は短腸症候群の回避など長期的なQOLの向上を考慮して選択する。全身状態不良例では二期的吻合も考慮する。

(1)小腸病変

腸管温存を原則とし、合併症の原因となっている主病変部のみを対象とした小範囲切除術や限局性の線維性狭窄では狭窄形成術を行う、狭窄形成術では可能な限り、病変部の生検を行う。
〈注〉手術時には可能な限り、残存小腸長を記録する。

(2)大腸病変

病変部の小範囲切除術を原則とする。病変が広範囲、または多発し、直腸病変が比較的軽度で肛門機能が保たれている場合には大腸亜全摘、自然肛門温存術を行う。直腸の著しい狭窄、瘻孔には人工肛門造設術(直腸切断術を含む)を考慮する。

(3)胃十二指腸病変

内視鏡的拡張術が無効な十二指腸第1部から第2部にかけての線維性狭窄例には胃空腸吻合、または狭窄形成術を行う。狭窄形成術は手技上困難なことが多く、あまり行われない。

(4)肛門部病変

直腸肛門病変には「クローン病特有原発巣」(primary lesion:クローン病自体による深い潰瘍性病変)、「続発性難治性病変」(secondary lesion:原発巣から感染などによって生じた痔瘻などの2次的病変)、「通常型病変」(incidental lesion:クローン病と関連のない通常の病変)があり、クローン病特有原発巣の有無などで病変を的確に診断して病態に適した治療法を選択する。
最も多い難治性痔瘻には腸管病変に対し内科的、外科的治療を行い、seton法などの局所治療を行う。難治性肛門病変、保存的治療で改善しない直腸肛門狭窄例、直腸膣瘻には入工肛門造設術を考慮する。難治例は専門家による治療が望ましい。
〈注〉腸管腸管瘻では主病変の腸管切除と痩孔を形成した病変部でない腸管の瘻孔部楔状切除を行う。


最終更新:2011年07月17日 12:57
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