リレーSS?

868 :名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2005/08/05(金) 00:42:32 ID:G92JuEYl
「なぜこんなことをした!」 吼えるククールの目をゼシカはじっと見た。
青い虹彩に縁取られた深い穴のような瞳孔はこちらを向いたまま動こうとしない。
「ごめん…なさい」 その冷たい瞳に耐えられず、ゼシカは思わず顔を逸らす。
するとククールはゼシカの顎を掴み、自分の顔の方に向けた。きっちり固定され顔を逸らせなくなる。
「もう一度聞く」 ククールの語調が強まり、怒気が含まれているのが判る。
射られるように強い直視に、ゼシカの汗は引いていく。白い睫が二度三度瞬く。
「どうしてこんなことをした?」 もう目は逸らせそうにない。
「…あなたの、ためだったからよ」
ゼシカは不意に、距離の変わらないはずのククールが遠のいていく気分になる。
視点が崩れ、頭が揺れているような感覚に襲われる。音が、遠い。

870 :名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2005/08/05(金) 04:39:12 ID:kMXkHEbA

「俺の…ため…?」
 耳にざわつく単語を聞いた顔で、ククールが掠れた声を出した。
 『こいつは何を言っているのだ?』
 それがまず、理解出来なかった。
 俺の為にしたというその唇は、青ざめてはいたがみずみずしくて
 思わず奪いたくなるほど愛らしい。
 …俺が、望むことは『それ』だけだったはずだ。思いやりなど求めちゃいない。望んですらいない。
「…!!」
 不意に苦いものがこみ上げてきて、ククールはゼシカを掴んでいた手を離してしまった。
 今、『彼女』を側に置いておきたくなかった。
872 :名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2005/08/05(金) 12:31:29 ID:axS7PVBV

不思議な泉周辺で野営をしていた一行はゼシカの姿が見えないというエイトの言葉で目を覚まし、手分けしてゼシカを探していた。
そしてついさっき、崖から落ちて倒れているゼシカをククールが発見したのだった。
幸い下が柔らかい草だったので大きなケガはなく、ククールのべホイミで完全に回復したが、そんなところを魔物に襲われていたら一たまりもなかっただろう。
「これだけは言っておく。二度とこんなマネするな・・・どれだけ心配したと思ってるんだ・・・」
その言葉に込められた苦悩にゼシカも思わず叫ぶ。
「私だって、あなたが心配なのよ!」
ゼシカは続ける。敵の攻撃を受けても、ククールはいつも仲間の回復を優先し、自分自身は後回しだ。回復手段を持たないゼシカにはそれが苦しかった。
「せめて、一つでも多く薬草をって・・・」
薬草を探すために一人で危険な夜道を歩き回っていたのだと言う。
「・・・怒鳴って、悪かった」
ククールの胸の内は複雑だった。
875 :868[sage]2005/08/05(金) 22:37:38 ID:4OX4sqgQ

「私もほんとに、ほんとにごめん。もう…危ないことしないから」
「いい、わかった、俺も悪かった」 二人はしばし沈黙した。
だがククールとゼシカの複雑な思いをよそに、時間だけは過ぎようとする。
「…戻ろ、エイトもヤンガスも心配してる」 歩き出し、遠慮がちにこちらを見るゼシカの表情が辛かった。

 気づけば暁も消え去り、暗く静かな夜だった。先ほどから無言で二人は歩いている。
足元がふらふらするのは、果たして打身の痛みだけだろうか?ゼシカはククールの一喝に痺れたような感覚を覚えていた。
腰の袋に詰め込まれた薬草も、この痛みは癒せないかしらね、とぼんやり考えながら黒い木立を見つめる。
「行くなよ」 不意にククールが言った。
「え?」 ゼシカは立ち止まる。
「もう一人で…行くなよ」 ゼシカが振り返ると、腕組をしたククールが立っている。
その表情は先ほどまでの険しさは微塵も感じない、穏やかだが限りなく無に近い表情だった。
「俺のためとか言われても、お前が怪我したらシャレになんねぇし…その」 じっとゼシカの目を見た。
「青ざめたゼシカなんて呪われてる間だけで十分だし、なんつーの?
 決して嬉しくないわけじゃないけど、心配してもらってありがたいけど、…俺なんかのためにもういいよ」
「やめてよ、そういう顔するの」 ゼシカの前に立つククールは、穏やかだが悲しそうな顔をしている。
「私のお節介がいけなかったって思ってる…でももうそんなこと言わないで?」 ゼシカの胸で悲しみが湧き起こる。
「いつもそんな風に一人で諦めたようにして、自分は捨て鉢みたいなくせにみんなばっかり心配して、
 見てて苦しくなるの。だから、だから…」 ゼシカは俯いて、泣いてしまった。

876 :868[sage]2005/08/05(金) 22:39:38 ID:4OX4sqgQ
 「…俺、あなたのためとか言われたことなかったんだ」 ポツリとククールは言った。
「ゼシカを心配してたのに何言ってんだかわかんなくて、理解が追っつかなくて、混乱した。
 俺が心配するのは慣れてる。でも思いやられるとか、慣れてないんだ。
 いつもみたいに軽口も叩けない。なあ、俺どうすればいい?
 俺のために何かしてくれるゼシカになんて言ったらいい?」
「ククール」 うつろにこちらをみるククールがゼシカには泣きそうに見えた。
「薬草ありがとう、ほんとにありがとう。ゼシカにお礼まだ言ってなかった」
手袋を外して、ゼシカの涙をぬぐった。だが、荒れる気持ちは一向に収まらなかった。



最終更新:2008年10月23日 02:37
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