しょうがねぇ奴らだよな、まったく。
クソ寒いオークニス地方で、このおせっかいパーティーは今日も楽しく洞窟探検だ。
命の恩人のメディばあさんの頼みだから仕方ねえけどな。
それはいいんだが、ペース配分ての? 覚えろよ、いい加減。
エイトのヤツ、フィールドを歩いてる時は姫様気遣ってか、ちょこちょこ休憩入れるくせに、ダンジョンに潜った途端、道がある限り突き進む奴に変わっちまう。
好きなんだろうな、迷宮が。オレにはまったく理解できねえ。
すぐ前を歩いてるゼシカの足取りが重くなってる。体も前のめりになってきてるし、そろそろ体力が辛いか。
ゼシカはこういうことでは絶対に弱音吐かないからな。無理するといざという時キツくなるのに、しょうがないよな。
「おーい、エイト! どこまで歩くんだよ、もうかったるいぜ。足元滑るし、ツララは危ねえしで、肩凝っちまう、少し休もうぜ!」
先頭を歩くエイトに声をかけると、代わりにヤンガスが呆れた声を出す。
「またでがすか? ククールは少し根性ってやつが足りねえでがすよ」
「うるせぇよ、オレはおまえらみたいな体力バカと違って繊細なんだよ。知的な頭脳派なの。一緒にすんじゃねえよ」
エイトが苦笑しながら、休憩を承諾する。
ゼシカは小さく息を吐いて、手近な岩に腰をおろそうとする。
「ゼシカ、ストップ」
オレはマントを外して、その岩の上にかける。
「どうぞ」
ゼシカは少しいやそうな顔をしてる。
「いらないわよ、ちょっと休むだけなんだから」
「でも、そこ濡れてるぞ。後でスカート凍るかもしれないぜ?」
イメージしたんだろう。ゼシカは少し考えて、素直に腰をおろした。
「ありがとう……」
「どういたしまして」
お前は偉いよ、ゼシカ。
体力違う男の中に混じって、弱音も吐かずによくやってる。
欲をいうなら、もう少し頼って甘えてくれてもいいと思うけど、そうするとゼシカじゃなくなる気もするから、オレが気をつけるようにする。いつでも、お前を見てるから。
だから、あんまり無理すんなよ、ゼシカに倒れられるのは辛すぎる。
ヤロウ三人でライドンの塔に登った時はキツかった。
華がないのももちろんだけど、ゼシカの魔法がどれだけオレたちを助けてくれてたか、改めて思い知らされた。
……ホント、いろんな意味でキツかったよ。
出発の時間になった。
ゼシカは立ち上がり、大きく伸びをする。
「マント、ありがとう。少し濡れちゃったみたい、ゴメンね」
「いいよ、オレ厚着だから」
マントを装備して、ゼシカを促す。
「お先にどうぞ」
「ねえ、どうしてククールは、いつも一番後ろを歩くの?」
どうしたんだよ、突然。オレの思ってることでもわかったのか? 妙にカンの鋭いところあるからな。
「ゼシカをずっと見ていられるようにだけど?」
試しに、真面目に答えてみる。
ゼシカはまっすぐな瞳でオレの顔を見つめたあと、小さく溜め息をついた。
「バカじゃないの? そういうことばっかり考えてるから、すぐ疲れたとか言うのよ」
……キツいな。
お前のこと気遣ってるんだよ、なんて言ったらムキになって無茶するのは目に見えてるし、オレって報われないよな。ここまでくると笑い話だ。
まあいいさ。報われないのには慣れてる。
今は、ゼシカが元気でいてくれるだけでいい。
ゼシカは自分の信じた通りにやればいい。
いざという時には、オレがついてる。
だから、ゼシカ。……もう二度と、オレの目の届かないところに行ったりしないでくれよな。
<終>
最終更新:2008年10月23日 02:40