家政婦は見た!part1

アルバート家はご先祖に偉大なる賢者兼彫刻家を持ち、また、このリーザス村と港町ポルトリンクを興した名士の家系で、近隣にその名が響く由緒あるオウチです。
私は大沢家政婦紹介所から派遣されて、ここ、リーザスの名士、アルバート家でメイドをしているナナシーといいます。
趣味は他人の家の秘密を暴くこと…なんて、そんなワケないじゃない~ホホ…。
この家にはお子様が二人いらして---上のぼっちゃまはサーベルト様、下のお嬢様はゼシカ様というお名前なんだけれど---それはもう、見目麗しくも仲の良いご兄妹だったわ。
サーベルト様は外見の美しさもさることながら、武術や魔法にも優れ、社交的で私達みたいな使用人に対しても人当たりが良くて、それこそ村中の人間から尊敬と愛情を一身に受けていたの。
一方のゼシカ様もお兄様に負けず劣らずの綺麗な方だったんだけど、気が強い上に人見知りの激しい、ガードの固い子でね。
サーベルト様と村の子供以外は、男であろうと女であろうと、決して寄せ付けないようにしていたわ。
お母様に対してさえそうだったんだから、ブラコンとしては筋金入りよね。
当然そういうのを面白くない、と感じる人は---特に女は、何人もいたわ。
いつもニコリともしないで淡々と接してくる美人って、どうしても嫌われちゃうのよ。
本当は愛くるしく笑う女の子だって皆知っていただけにね。
かく言う私も正直、ゼシカ様のことはあんまり好きじゃなかったのよ。相手に寄り態度を変えるあのコはなんなのよって思ってた。

サーベルト様が亡くなったあの日までは、ね。

リーザス塔でサーベルト様が亡くなられて、村中の人間が嘆き悲しんだわ。
あそこは私達にとっては聖地だったのに、今や魔物の巣窟になっているんだって…。
しかもそれが変死だったものだから、いつまでも皆の心にやりきれない影を落としていてね。
それは時間が解決してくれる様な類の不幸ではなかったのよね。
私達ですらそうだったんだから、ゼシカ様の悲しみたるや、想像するにあまりあるものだったわ。
サーベルト様の存在って、彼女にとっては世界そのものだったんでしょうね。
彼女は明かりもつけず、食事もとらず、ずっと部屋に閉じこもっていたの。
そりゃあ、同情したわ。このコはこのまま悲しみの余り死んじゃうんじゃないかって、心配だった。
ところが彼女は単身、リーザス塔に向かったの。それこそ死ぬ覚悟で。サーベルト様の死に納得のいく理由が一つでも欲しかったんでしょうね。

結論を言うと、ゼシカ様は無事にリーザス村に帰ってきた。---妙な二人組に助けられたって事だったけど…。
彼女の顔からは少しも曇りがとれていなかったけれど、目には本来の強さが戻っていて、何かしら決意を感じさせるものがみなぎっていた。
そして彼女は初めてこの村を出ていったの。兄の仇を討つのだといって。

それから何ヵ月も経って、ゼシカ様はリーザスに帰ってきた。三人も仲間を連れて。
お帰りなさい、と私が言うと、自分はまだ旅の途中で、七賢者のオーブを集めていて、これからラプソーンを倒すのだと言って笑いかけてくれた。
七賢者とかラプソーンとかワケがわからなかったけど、私はとにかく嬉しくてね。ゼシカ様が自分の足でしっかりと地を踏んでいるって感じがしたからね。それに、ゼシカ様がすごく綺麗になっていたからさ。こんな風に零れるように笑う彼女を見るのは初めてだった。
あのブラコンのお嬢様が、仇も討たないうちに、憑き物が落ちたかのように晴れやかな顔をしている。これはどうしたことだろうと、ゼシカ様の視線を追っている内に、ピンときた。
たぶんあの人のおかげなんだろうな。
ゼシカ様が連れて来た仲間のひとり、赤い騎士用の服を着た、プラチナブロンドの恐ろしく綺麗なあの男の人。
その人は綺麗な顔に似合わず、皮肉めいた事や品の無いことを言ったり、メイドを口説いたりしては、ゼシカ様につっこまれたり叱られたりしていた。
赤くなったり青くなったり慌てたり怒鳴ったりしてるゼシカ様。今までの流麗で孤高なイメージは壊れそうだけれど、 私はそんなゼシカ様の方が好感がもてた。
---恋、なのかしら?
私の元来の好奇心が頭をもたげてきて、ゼシカ様と、あのひとクセもふたクセもありそうな紳士---ククール様の今後の動向が、ものすごく気になってきちゃった。
そんなわけで、持ち前の覗き家政婦根性を総動員して時々皆さんにご報告したいと思います。




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最終更新:2008年10月22日 19:23
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