荷造りをしていたら、子供の頃に書いた恥ずかしいノートを見つけてしまった。
私はつい手を止めて、それを読み耽ってしまう。
どうしてかそういうものって、片付けの途中で読むのが一番面白いのよね。
『パパのお嫁さんになる・大作戦!』
これは確か十歳になる直前の頃。我ながら、センスのかけらもない題名だ。
『私はパパが大好きです。村の中を見回しても、トロデーン城へ遊びに行った時も、サザンビークのバザーでたくさんの人を見た時も、パパよりもキレイな男の人はいませんでした。私は将来、絶対にパパのお嫁さんになるって決めました』
私って、面食いだったのね。一体誰に似たのかしら。
『それをパパに言ったら、パパは大喜びしてくれたけど、おばあちゃんに怒られました。親子では結婚できないそうです。
どうして親子で結婚できないのかと聞いたら、血の繋がりが濃すぎる同士で子供を生んだら、元気な赤ちゃんが生まれないかもしれないと言われました。
私はいいことを思いつきました。赤ちゃんを生まなきゃいいんです。
私って、あったまいい!』
子供の頃の事とはいえ、頭の悪い自分の文章に頭痛がしてきた。
希代の大魔道士と言われる両親から生まれて、どうしてこんなにバカだったんだろう。
『それを言ったら、今度はママに怒られました。
パパはもうママと結婚してるから、私とは結婚できないんだって言われました。
教会で神様にそう約束したから、私とも結婚したら、神様との約束を破ることになっちゃうんだって。
でも私は知ってます。
パパは昔は女神様のおムコさんだったのに、それをやめてママと結婚したって。
それにパパはいつも言っています。神様はそんなに細かく人間のことなんて見てないから、たまにウソつくぐらいなら、問題ないって』
……こうして見ると、子供になんてこと教える父親かしら。
『今度こそと思ってそれを言ったら、今度はパパが優しくこう言いました。
結婚っていうのは、一番好きな人とするんだって。
パパが一番好きなのはママだから、ママ以外の人とは結婚できないんだって。
私は、やっぱりパパと結婚できないってことよりも、パパが私よりもママが好きなんだってことの方がショックでした。
いつも、私が一番可愛いって言ってたのに、パパのウソつき!
もうパパなんて、大っキライ!
後で泣いてあやまってきても、絶対お嫁さんになんて、なってあげない!』
そこでノートは終わっていた。
「あら、全然片付いてないじゃないの。一人で大丈夫だっていうから任せたのに、こんなことで本当にお嫁になんて行けるのかしら」
お母さんが、散らかり放題の部屋に入ってきて小言を言い始めた。
お母さんも昔、おばあちゃんは小言ばかりでうるさかったって言ってたけど、人の事は言えないと思う。
「嫁になんか、やらなきゃいいんだ」
お父さんは、子供みたいな不機嫌顔をしている。
もう四十歳をとうに越えているのに、私はまだお父さんよりもキレイな人を見つけられずにいるほど、その美貌には衰えが無い。
「明後日には結婚式って段階で何バカ言ってるのよ。もういい加減に諦めなさい」
お母さんの冷静なツッコミも聞かず、お父さんは私をギュッと抱き締めた。
「あ~あ。娘なんてつまらないよな。どんなに大事に育てたって、結局最後は他所の男に持っていかれるんだ。しかも、よりによって、ヤンガスの息子なんかに」
「お父さん、私の旦那様になる人にケチつけないでよ」
「言いたくもなるさ。中身はいいんだ、中身は。だけどどうしてあいつ、ほんのちょっとだけでいいから、外見は母親のゲルダに似てくれなかったんだ」
そう。私の旦那様になる人は、外見も中身も父親のヤンガスおじさんに瓜二つの、とっても素敵な人なの。
「仕方ないわよ。美人は三日見たら飽きるっていうでしょ? 私の場合、家族全員美形の中で育ったから、もう美形はおなか一杯なのよ」
まあ、自分でそれが正解だと思うわ。
美男子を探したところで、お父さん以上の男性は絶対に見つけられないだろうから。
「ゼシカ~。やっぱりオレにはお前だけだ」
お父さんは、今度はお母さんに抱き着いた。
「何よ、今まで散々に娘べったりだったくせに。フラれてから私の方に来たって遅いのよ」
お父さんもいつまでも子供みたいだけど、お母さんも実の娘にヤキモチ妬く程度には大人気ない。
あ~あ。結局最後まで、あてられっぱなしでお嫁に行くことになっちゃった。
ま、いっかあ。
子供の私に、『お前よりもママが好き』なんて言う父親のおかげで、ちゃんと親離れ出来たし、私もこれから、この両親に負けないくらい、いつまでも仲の良い夫婦を目指そうっと。
終
最終更新:2008年10月24日 22:56