しんぴのビスチェ

ふと、ベルガラックの街中で見かけたショーウィンドウに映った自分の姿。
見慣れたドレス。お小遣いをためて自分で買った、お気に入りのもの。
それに重なるようにガラスに映りこんでいたのは、女の子らしいヒラミニのワンピースだった。
それにニーハイを組み合わせるのが今年の流行りみたい。どこの店にも同じようなのが並んでて…かわいい。
なんとなく、自分の身体を見下ろした。
………自惚れるわけじゃないけど、似合うんじゃないかな、私、あんなのも。
動きやすそうで戦闘にも向いてるし…なんて言い訳がましく考えてみたりして。
離れた所でヤンガスとエイトに呼ばれて、後ろ髪を引かれながらも私はひとまずその店をあとにした。

「ククールは?」
「どこかな、見かけてないけど…。……あ、いた」
エイトが指さした先には、飽きもせずいつものように女の子とイチャつくバカ男の姿があった。
「ねぇねぇククール見てぇ、この白のドレス、今日買ったのよ。素敵でしょ、似合う~?」
「あぁアリア…まるで天使そのものだよ。こんな天使なら例え神様と言えども手を出さずにはいられない」
「例え敬虔な修道士サマでも…でしょ?」
「オレは所詮堕天使さ。よく似合ってるよ。…でも、それをすぐに脱がしちまうのは少々勿体ないかな…」
「うふふ…」
聞こえてくる会話も、バカ以外のなにものでもない。
こめかみが引きつるのを我慢しつつ、私は眉間にしわをよせてため息を吐いた。
私達に気付いたククールは、すり寄る女の子に何事か囁いてキスをすると、あとは振り返りもせずに
ご満悦な様子でこちらに向かってきた。さりげなく私の横に並んで歩き出す。
「………いいの?天使ちゃんを置いてきて」
「天使は神の御使い。堕ちた不良僧侶には、はねっ返りのオテンバお嬢さんあたりが丁度良いぜ」
「私は女たらしな生臭坊主なんかお断りよ」
「誰もゼシカのことなんて言ってないけど?」
「!!」
一気に血が昇り、顔が真っ赤になる。この男、最低ッッ!!!!
ニヤニヤしたまま先に行った背中にメラを投げつけそうになって、エイトとヤンガスに止められた。

     チーーーーーン!!

「できたよゼシカ。さすがに時間かかったね」
エイトが渡してくれたのは、錬金で出来上がった しんぴのビスチェ っていう装備だった。
今まであったいくつかのお気に入りの装備と比べても、なんだかとても女の子らしくて可愛い。
ちゃんとニーハイにガーターベルトもお揃いで、背中には羽根までついてるの。
この前見たショーウィンドウのワンピースに感じが似てるわ。…どうしよう、嬉しい!
「ありがとうエイト!…ねぇ、少し待っててくれないかな?今すぐ着てみたいの」
「いいよ。僕らはここで待ってるから、ゆっくり着替えてきなよ」
「うん!」
優しく言ってくれたエイトの隣でヤンガスはボケーッとしていたけど、ククールは…
…チラッと見ただけだけど、なんだか不機嫌そうだった…?
どうしてだろう。こんなことに時間割いちゃったからかしら…早く着替えて戻ろう。
ククールのことは気にかかったけど、私はウキウキしてビスチェにそでを通した。
似合う、かしら?アイツ、なんて言うかな…
まぁ、適当に…どこぞの女に言ってたみたいに、歯の浮くようなセリフを並べ立てるんでしょうね。

ーーーかわいいよ、ゼシカ。まるで天使そのものだ…

………脳裏に浮かんだアイツの姿に少し顔が熱くなった気がしたけど、気付かないフリをした。

                     *

大きく開いた胸元に、限界ギリギリな短さのヒラヒラしたスカート。
抜群のスタイルをこれでもかと強調するかのように全体的にピッチリとしたデザイン。
胸からへそあたりと側面の編み込みからは素肌が垣間見えていて、指を突っ込んでみたくなる。
眩しいふとももに食い込むニーハイはガーターで釣られていてそこはかとなくエロい。
そして背中には、白い羽根。

確実に女の子らしい可愛らしさを追求したデザインのはずなのに、こうも男の欲望をくすぐるのは
なぜだ。ていうか軽く犯罪だろ、コレ。しかも着てるのがゼシカときた。
最高の顔とスタイルを持ちながら、最凶に無防備で無邪気なゼシカお嬢様だ。

「こういうの、着てみたかったの!ねぇククール、似合う?」
少し紅潮した頬で嬉しそうに、オレの前でクルリと一回転してみせる彼女。
当然のように揺れる胸。翻るスカート、チラリとのぞくその中身。………オイオイオイオイオイ!!

ブチ。

「………お前なぁ、似合うとか似合わねぇとかいう以前の問題だろ?
 そんな服、もっと自分自身のこと自覚してから着ろよ、バカじゃねーの!?」
ゼシカが一瞬ポカンとしたのち、みるみる表情と身体を固くしていくのがわかった。
オレも多少ひどいこと言っちまったのはわかってるが、もう余裕がなかったんだよ。
仕方ない。これで少しは己の無知っぷりに気付いていただきたい。
でもさすがに彼女の顔はまともに見れなくて、プイと顔を背けてしまう。すると。
「………………何よ、いきなりッ!!似合わないもの着て、見たくもないもの見せちゃって、
 悪かったわねッッ!!!!…………ッ、私、先に行ってる!!!!」
驚いて振り返った時には、ゼシカは遠くの路地に姿を消していた。
「ちょ…っオイ!んなカッコで一人でどこ行く…!」
今忠告したの何聞いてたんだよ!?
慌てて追いかけようとしたオレの背中に、じっとりとした視線と声がからみついてきた。
「………なに今の、最低だよククール…」
「まったくでガス…さすがのアッシにもそれぐらいはわかるでガスよ…」
「は。何がだよ。オレはそんなカッコするならもうちょっと周囲の視線を警戒しろって注意して」
2人は顔を見合わせて、わざとらしく大きなため息を吐いた。
「……ぼくには、”そんな服着るならもっと鏡で自分のこと見て自覚してからにしろよブス”
 …って言ってるようにしか聞こえなかった」
「アッシもでゲス」
「……………」


………………………………って、ええええぇええ!?なんだよソレ!?
動揺するオレにエイトが改めて心底からの呆れたため息をつく。
「………いいから早く連れ戻してきなよ。”あんな”格好の彼女こんな広い街で一人にして、
 何かあったらキミの責任だからね」
何かあってたまるか!オレは速攻できびすを返しゼシカを追いかけた。

ゼシカがどこに行ったのか皆目見当はつかなかったが、大変に目立つ彼女のこと、
人に聞いて回ったら案外と早く向かった方向を知ることができた。
というか、途中から道の端のそこかしこに丸焦げの男共が転がっていて、いい道しるべになっている。
苦笑を抑えきれないと共に、やっぱり油断ならねぇと腹立たしい気持ちになった。
小さな井戸の側で柵にもたれて外を眺めている背中を見つけて、改めてかける言葉を探した。
正直自覚したくないんだが、レディにかける言葉に悩むなんて、オレにとっちゃ
彼女以外にはあり得ないんだよな。さっきの失言だってそうだ。余裕をなくすからこんなことになる。
そーいうことちゃんとわかってんのかねぇ、このお嬢さんは…。
「…ゼシカ」
ビクッと細い肩が震える。
「悪かった。ごめんな」
「………何がよ」
「似合ってないなんて、言ったつもりじゃないんだ。ただ…」
「いいわよもうっ!アンタのお好みじゃなくて悪かったわね!!何よ、バカみたい…!!」
「ゼシカ」
「バカみたい、似合いもしないもの着て、一人ではしゃいで、私…っ」
「ゼシカ」
素早く近づいて、背中からぎゅっと強く彼女を抱きしめた。
「違うって。ここ来るまでに、バカな男達にいっぱい声かけられただろ?
 それだけその服が似合ってるってこと。ゼシカが魅力的だってことさ」
「知らないわよあんな連中!私は、わたしは、ククールに…っ」
オレの腕の中で、涙を帯びた声音が少しずつ小さくなっていく。

「………ッ。…………他の女には似合うだのカワイイだのいくらでも言うくせに…」
「他の男にやっても惜しくない女の子なら、いくらでも褒めていい気分にさせてあげるのが
 色男のつとめさ。でもゼシカは、他の男になんか指一本触れさせたくないからな」
抱きしめた身体が小さく反応するのがわかった。
「だから本当はそんな格好してほしくないんだ」
「……意味がわかんないわ…」
「いいよ、じゃあわかんないままで」
どこまでも無防備な彼女に小さな笑いをもらすと、そっと身体を正面に向けて、尋ねる。
「許してくれる?」
すると戸惑いがちに見上げてくる、少し困ったような、怒ったような、複雑な表情。
瞳にたまった涙をそっと拭って微笑みかける。
「………ちゃんと言ってよ」
駄々をこねる子供のような言い方に、脱力するほどの愛しさを感じた。ああ、もう。
「………よく似合ってる。かわいい。世界で一番かわいいよ、ゼシカ」
「あの天使ちゃんよりも?」
「オレにとっての天使はゼシカ一人さ。ホラ、ここにちゃんと本物の…」
背中から生えるそれを触ってみせる。
「羽根があるしな」
ようやく、彼女が笑った。
改めて見るしんぴのビスチェ装備のゼシカは、本当に可愛らしかった。参ったね、これからしばらく
この姿の彼女と過ごすのか。自覚の薄い無垢な彼女のままでいることを望んだからには
今まで以上に徹底的に、不埒な野郎共は排除しなきゃならねぇな。
メラの餌食になった連中の屍の山を見るに、まぁそんな必要もないのが、このお嬢さんなんだけど。
「神の道を踏み外した生臭坊主には、自分でムチを振り回すオテンバ天使の加護がちょうどいいぜ」
「……ふふっ」

どこかで言ったような台詞を呟くと、彼女が楽しそうに笑った。










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最終更新:2008年10月26日 03:32
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