これは中盤

ククールが原因不明の病で倒れた。きっとこのままでは死んでしまう。
治せるのは洞窟深くに隠されていると言われる、幻のパデキアの種だけ。


「お願い、行かせて。私ならレリミトも使えるし、万が一の時も安全だわ。じっとしてるなんてイヤなの」
「回復の使えるぼくと…そうだね、確かにレリミトは大きいかもしれない」
「あ、兄貴ぃ!あっしを見捨てるんでがすか!?大体あっしだってホイミの1つや2つお茶の子さいさいでげすよ!
 しのびばしりも使えるし、あっしの方が断然兄貴のお役に立てるでがす!!」
「ヤンガス落ち着いて。わかってるよ、ぼくも悩んでるとこなんだ」
考え込むエイトの姿にジリジリと胸の奥が焼ける。悩んでないで早くして、お願い。じゃないとククールが。

あんなに苦しんでるのよ。かわいそうに。ろくに食べられず意識も戻らないで、何日も寝たままなのよ。
焦燥で心が締め付けられる。無意識に身体のどこかに力が入り、スカートや拳を握りしめている。

………あんなに弱々しいククール見たことないの。
最低なの。最低な男なのよ。いつもいつも適当で、いい加減で、ヘラヘラ笑って無駄口ばかり叩いて。

でも、私のことをちゃんと見てくれていたのは知ってた。時に励まして、時になぐさめて、時に肩の力を抜いて、
……そして、どんな時でも私を護ってくれていた。
私が知っているのはそんなククール。
優しくて色ボケな人。器用なくせに不器用な人。…バカな人。それが本当の彼の姿。
どうして今になってそんなことに気付くんだろう。



一刻も早くパデキアの種を手に入れなきゃ…!!
「エイト、はやく!」
「……ゼシカ、ぼくからのお願いなんだけど」
真剣な瞳で顔を上げたエイトに、嫌な予感がした。
「ゼシカは…………残ってくれないかな」
「どうして!!」
予想通りの言葉に、私は大声を張り上げていた。
エイトはちょっとだけ苦笑すると、ククールが寝ている部屋に私を導き入れる。
相変わらず容態は変わらない。部屋中に苦しげな息づかいが響いている。いつもは美しく輝いている銀髪が、
乱れて枕に広がって。憎まれ口の1つもたたけないで、荒い呼吸ばかりを繰り返している。

イヤよ。いつものようにあの皮肉な笑みを浮かべてほしいのに。…バカ。ククールのバカ。
かわいそう。かわいそう。何もしてあげられない。代わってあげたい。どうしたらいいの。

私がどうしようもないジレンマに再び陥りかけていると、エイトが静かに声をかけてきた。
「ゼシカ、手を握ってあげてくれないかな」
びっくりして振り返る。なんなのいきなり?べ、別に病人の手を握るくらい…かまわないけど…。
力無く毛布からはみだしていた彼の汗ばんだ手をおそるおそる手に取ると、ゆっくりと彼の指は
力をこめて私の指を握り返してきた。その強さになぜか胸が痛む。


「ククール、楽そうだろ?」
「…え?」
「ゼシカがさ、手を取ってあげたり顔をふいてあげたりすると、ククール容態が少し落ち着くんだよ。
 ゼシカは気付いてなかったみたいだけど。…ぼく達じゃ駄目なんだ。ゼシカじゃないと」
「………そ、そんな」
思わず顔が赤くなる。そんなの知らないわ。看病に必死で気づきもしなかった…
ほんとうに?
「ほとんど意識はないはずなのに。ゼシカがそばにいるとわかるんだね、きっと」
「……………。」
そりゃあ、男よりは女に看病された方が具合がいいのは、コイツなら当然のコトでしょ。
いつもならそう言い返す。今だって言いかけたけど、…言えなかった。
握りしめる指の強さと熱さが、ほんとうだったから。
「………う」
ククールがうなされ、苦しげに身をよじった。思わず握った手にぎゅっと力をこめる。
そして、彼の口唇が空気に揺れるようにかすかにつむいだ言葉を私達は聞いた。

ククールは熱に浮かされながら………私の名を呼んだ。

その瞬間、熱くなっていた脳内に冷水がかけられた気がした。

……………わたし、この人を置いていけない。
そう思った。






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最終更新:2008年11月03日 03:05
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