「ゼシカ…!!」
「きゃ…」
油断したゼシカに敵の攻撃がしかけられたのと、ククールがそれに気づき彼女に覆いかぶさったのは、
ほとんど同時だった。
ゼシカの身体を胸に抱きこむようにしてかばった二人の身体は、ゴロゴロと転がり地面に投げ出される。
ククールは痛つつ、とボヤきつつ押しつぶしているゼシカの身体から自身の身体を肘を突いて持ち上げ、
真下にあるゼシカの顔をのぞきこんだ。
「ケガは?」
「…へ、平気よ。…それよりどいてくれる?」
気付けば押し倒している格好だ。さらに至近距離で交わし合っている囁き。ゼシカは恥ずかしいのを
ごまかすようにつっけんどんにそう言った。しかしピクリと頬を引きつらせたククールが、
「お前な…助けてやった相手に開口一番それはないだろ」
半笑いの不機嫌さでさらにグイと顔の距離を近付けると、
ゼシカはちょっと!と叫びながら、その顔を両手で思い切り押し返そうとする。
グギギ、と無言の攻防。
業を煮やしたククールが身体を起こし、そのまま強引にゼシカの腕を引っ張って立たせた。
彼女の顔や髪についた汚れをいささか乱暴に払ってから、ハアッとわざとらしい溜息をつく。
「お礼にキスの一つくらいくれてもいいんじゃねぇの?ホンット守りがいのないお嬢さんだな」
「だ…っ、誰がいつ守ってくれなんて言ったのよ!!イヤイヤ守ってくれなんて
誰も頼んでないわ!バカにしないでよ!!」
「ハァ!?誰がイヤイヤだっつったよ。オレは騎士だから、お前を守るのは条件反射なんだよ。
お前こそそんなにオレにかばわれるのが嫌ならレベルでもあげれば?ただでさえ打たれ弱いくせに」
「アンタにだけは言われたくな…、…!!」
その時突然エイトの「危ない!!」という鋭い声が響いた。
2人同時に振り返る、が、すでに遅し。
ガチャン!という金属音と共に、ククールとゼシカの身体は正面からピッタリと密着させられていた。
腰のあたりに巻きついているのは、巨大化した犬の首輪。…ではなく、外側に鋭いトゲが幾つもついた
金属製の輪っかだ。それが2人の腰をまとめて締め付け、身動きできなくしている。
「ちょ…ッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「な、オイ、バ……ッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
2人は同時に悲鳴のような声を上げ、お互い間近で目線が合い、同時にボッと赤面した。
ゼシカのこぶしはククールの身体と自分の胸の間に挟まっていて、ギュッと握る以外に動かしようもない。
当然のことながらククールが目線を下げれば、ありえないくらい魅力的な谷間が自分の胸に
これでもかと押し付けられ柔らかく大胆に変形しているのが、否応にも視界に飛び込んでくる。
谷間に埋もれるように挟まれている小さなこぶしが、またなんだかいやらしい。
熱い。体温が熱い。一度意識するとたちまちどうしようもなくなるお互いの感触。
(やだなにこれククールの身体こんなに密着したことなんてなかった恥ずかしいドキドキする
痩せてるみたいに見えるのにこんなにたくましい胸だったんだ…って何考えてるのよ私!)
(マズいヤバいおkとりあえず落ち着けオレてかなんだよこの胸アホかこんなん反則だろ
イヤイヤイヤイヤ女の胸なんざ今までさんざ揉んできたこのオレが今さらこの程度であばばばばばば)
2人とも自由の利く首から上だけはグググと反らしてなんとか距離を取ろうとするものの、
割と幅広で、金属でありながら収縮自在に身体に喰い込んでくる輪っかは、
どんなにもがいても2人の身体の間に一分の隙も与えてくれない。
輪っかを投げてよこしたワンダーフールをさっくりと倒したエイトが、
赤くなったり青くなったりの切羽詰まった二人を、笑っていない目でニッコリと振り返り。
「…また戦闘中にくだらないケンカされると迷惑だから、しばらくそのまま括られてるといいよ」
そう告げるとさっさと2人に背を向け、ザクザクと先へ進んで行ってしまった。
「ちょッ!待てエイト助けろッッ!!!!!!」
「ちょッ!待ってエイト助けてッッ!!!!!」
ほとんど半泣きで叫ぶ2人の声は、その後延々と森の中に響き続けたという・・・
最終更新:2009年02月08日 15:54