8-無題3




あれから数ヶ月が経った。
ゼシカの屋敷にて、
エイト、ヤンガス、ククールは夕食に招待された。

・・・たまには、みんなで会いたいわ。
かつてのトロンデーンでの宴の終わりに、ゼシカが提案したのだ。

テーブルに並ぶ豪華な料理とぶどう酒を前に、
4人の話は尽きることなく続いた。
時間の流れが瞬く間に思えるくらい。

エイトは明日の昼まで休みをもらったというので、
今夜はリーザスの宿屋にヤンガス、ククールと泊まることにした。
ヤンガスは満腹のせいか、そしてエイトは慣れない酒のせいか、
宿に着いて間もなく、深く眠ってしまった。

ククールは――
時の流れの早さを惜しみつつ、ベッドに横たわっていたが、
眠りを妨げる想いから少しでも解放されるために、
外の空気にあたることにした。
涼しげな風に、草木の香りが心地よい。

「遅くまでありがとう、おやすみなさい」
教会の扉が開いた。そこから漏れる光と、聞き覚えのある声。
扉から出てきて奥に向かって会釈する、見慣れた影。
やがてククールの存在に気付いたそれは、真っすぐとこちらに近づいてくる。
「・・・ククール?」
ゼシカが、小さな声で話しかけた。
「ゼシカ。こんな時間に教会に?」
ククールが聞くと、ゼシカは暗がりの中で微笑し、頷いた。
「今日、とても素晴らしい日だったから、神様に感謝してたの」
照れ隠しのように、話題を変える。
「ククールはどうてここに? 眠れない?」
「・・・ああ、ヤンガスの鼾がうるさくてな」

いつもと違う、清楚な女性に見えたゼシカへの胸の高鳴りを、必死で隠す。
ククールは小川に目をやった。
「リーザスは美しいな・・・水の流れに月が映える」
ゼシカは、うん、と呟き、微笑んだ。
月明かりに照らされ、微笑むゼシカはもっと美しい。
言いたかったのを、ククールは飲み込んだ。

しばらくの沈黙。水の流れる音だけが聞こえる。
「少し、冷えるわね」
ゼシカが、屋敷のほうに目をやった。
ククールはその視線に気づく。
ここで離れたら、しばらく会えないのか?
その瞬間にあふれ出す、抑えられない想い――

ククールが一歩、前に出た次の瞬間、ゼシカは息を呑んだ。
「・・・!」
彼女が今いるのは、冷たい夜風の中ではなく、ククールの腕の中。
暖かく、広い胸、長い腕に、しっかりと抱きとめられている。

ククールは、自分の鼓動がすでに高鳴っているのを
ゼシカに悟られるのが、少し怖かった。
息を吸い込むと、震えるようにゆっくりと吐き出した。

「ゼシカ、愛してる」
計画していなかった言葉がもれる。
「何?、急に」
あがらおうと、ゼシカの肩に力が入る。
とっさに、ククールは両腕の力を強めた。
「愛してる。嘘じゃない」
顔を伏せ、ゼシカの額に頬を寄せる。
こんなに真っ直ぐに気持ちをぶつけてくるなんて、いつもの饒舌なククールとは違う。
それが冗談ではないと察したゼシカは、次第に体の力が抜けていった。
思わずして、嘘よ・・・と、心にもない言葉を発する。

「俺のほうを見て」
ククールが腕の力を緩めた。
「・・・・・・」
ゼシカは――
ゆっくりと、まるで月を見上げるかのように顔をあげ、
そして視線をククールの瞳に合わせた。

月が、魔法をかけたのか。
ククールは、自分を見つめるゼシカが、狂おしい程愛おしく感じた。

ゼシカの頬に、ククールの銀色の髪がかかる。
互いの唇の温度さえ感じる程の、ごくわずかな距離まで、顔を近づける。
その距離のまま、動きを止めたククールの口元が、微かに動いた。
(――いい?)

ゼシカの耳に届いたその声は、胸をも締め付ける。
顔をそむけられなかった。
目をそらすこともできなかった。
そして――それがゼシカの返事となった。

ひとつに重なる、二人の影。
月は高く、登っていた。
                       









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最終更新:2009年03月07日 02:16
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