「よっ ゼシカ。 久しぶり!」
勢いよく開いたドアから、懐かしい顔。
…何が、久しぶり、よ。
よくのうのうとそんなことが言えるわね。
あの、長い長い戦いが終わって、ククールは一人旅に出た。
彼は時々は私に会いに来てくれると、そう言った。
な・の・に!
前に会ってから一体何ヶ月経ってるんだか。
待ってるほうはたまったもんじゃない。
待っている間、いろんな不安に駆られた。
ちゃんと元気にしてるんだろうかとか…
……。旅先で女作って、私のところになんて来ないんじゃないか、とか…
それなのに能天気に久しぶり!と登場した彼に
会えた喜びよりも腹立ちのほうが大きかった。
「あれ? ご機嫌ななめ? オレに会えて嬉しくない?」
ほんとにこの男は。
「あんたの顔なんてもう見たくもないわ」
「なに怒ってんだよ?」
「ふんっ あんたなんてもうどこへでも行っちゃえば?」
心の奥でわかってた。
何で素直になれないんだろう。
素直に心配した、寂しかったって言えたらそれでいいのに。
私の性格がかわいくない態度をとってしまう。
「……わかった。」
彼がどんな表情をしているのかわからない。
もしかして私、傷つけた? どうしよう…。
「カジノへ行こう。」
そういって彼は部屋の外へ出る。 …私の手を引いて。
「ちょ、ちょ、ちょっと?!」
訳もわからず彼を見上げる。
彼の横顔はとても楽しそうに笑ってた。
ああ、結局私はククールに振り回されてばかりだ。
「っあのね どういう話の流れでそうなるのよ」
「怒ってばっかだと身体に悪いぜ?
カジノでめいっぱい遊んで嫌なことなんて忘れちゃえよ」
…ホントにこの男は。
他人のことに関してはやたらと鋭いくせに、
案外自分のことに関しては鈍いのかもしれない。
それからルーラで一瞬にしてベルガラックに着いた私たちは
時間も忘れるくらい遊んだ。
アイツが100コインスロットで777なんて出したもんだからもう大変。
めいっぱい遊んでもコインが余ったくらいだ。
遊び終わったころには当然外は真っ暗。
紺色の空に、色とりどりの明かりがよく映えていた。
「んじゃ、そろそろ帰るか!」
「うん。
…ねえ。 明日、もう出発するの?」
「一応その予定」
「ふーん。 …じゃあ、明日また旅に出て、今度はいつ会いに来てくれる?」
「へ?」
「だから。 今度はいつ来てくれるのか聞いてるの。 また2ヵ月後?」
きっと私はあまり面白くない顔をしてるんだと思う。
それを見て、納得したようにククールは言った。
「もしかして、オレに会えない間 寂しかった?」
「…うっさい。」
「そこまでゼシカに愛されてるなんて知らなかったよ」
茶化した風に言う。
「そこまでメラゾーマがほしいなんて知らなかったわ」
「わっ タンマ!! すいません、メラゾーマはやめてください。」
夜の風が髪の毛を揺らしてく。
冷たくて少し強い風。
そうか、この街は海の近くだっけ―― そんなことを思っていると
「ここ数ヶ月はどうしても手が離せなかったんだ」
ふわりと身体が急に暖かくなった。
突然のことすぎて、状況を理解するのに時間がかかった。
だって、こんなに彼をを近くに感じたことは初めてだったから。
私の耳に口元を寄せて、そっとささやく。
やっと状況を理解できた私がメラゾーマを放ったことはい言うまでもない。
「ちょっと抱きしめただけでメラゾーマなんて
ゼシカにはうかつに手を出せないな」
「もう一発食らいたいようね。」
「うそです、すみません。」
どうしようもない男だ。
「…でも、約束破ったら、その時こそメラゾーマだからね!」
「それに関してはご心配なく」
キザな笑顔を向けて、アイツは陽が差すほうに歩き出した。
『じゃあ、これからは会いたくなったら会いに行くよ』
―約束
こんなに嬉しい気持ちにさせるのはアイツだけなんだろうな、と思いつつ
翻弄されてる自分が悔しかった。
完
最終更新:2008年10月22日 19:20