昔々サーベルト天帝の妹であるゼシ姫という美しい娘と、クク星という見目麗しい青年がいました。
クク星はそらもー大層女好きで、美人でスタイル抜群のゼシ姫を一目で気に入り
なかなか自分の手に落ちないゼシ姫の事を日々あの手この手で口説いておりました。
最初はそんなクク星を鬱陶しく思っていたゼシ姫も次第に心を開いていき
いつしか見ている方が恥かしくなるようなかゆいやり取りを無自覚に交わすようになったのです。
しかし2人のあまりの痒いやり取りに、見ていられなくなったサーベルト天帝は、
2人の間に、天の川を流されて、2人を会えなくしてしまわれました。
天の川の川幅は広くて向こう岸の様子など一切見えないほどでした。
「べ、別にクク星に会えなくなったって淋しくもなんともないんだから」と
ツンデレながらも悲しそうな顔をするゼシ姫の様子にズキッと胸が痛んだ兄バカなサーベルト天帝は
「1年に一度だけなら会っても良いよ」と言って、クク星の元にもその旨を伝えるべく使いのかささぎを送ったのでした。
ところがかささぎから事情を説明されたクク星は…
「はあ?1年に1度?ざけんなよ!まだ色々と揉めているようだったから
暫く大人しく様子を見てようと思ったけど
そんな馬鹿な決め事されるんだったら黙ってるわけにはいかねえな。
好きな女1年に1度しか触れられないなんて冗談じゃねーよ。
しかも俺とゼシ姫はまだくっついてねえっつーの!
口説き落としている最中で向こうからはっきり返事も貰っていない状況で
さらに1年に1度しかってありえねーだろ!
その間に悪い虫に取られたらどう責任とってくれるんだよ!!!
つーことで俺は俺の勝手にさせてもらう。ルーラ!!」
と早口で捲くし立てた後反則技な呪文を唱えてあっという間にその場から姿を消したのです。
そして……
「なんであんたがここにいるのよッッ」
ゼシ姫の部屋に突如現れたのは本来絶対いるはずのない男です。
「よお、会いに来たぜゼシ姫」
驚くゼシ姫にクク星は平然と答えるとゼシ姫の腰を抱き寄せました。
「会いにって…私たち、その、1年に1度しか会っちゃ駄目って…サーベルト兄さんが…」
「んな勝手な決めつけ俺が従うはずねえだろ」
「でも、だからって、天の川をどうやって…」
「移動呪文使ってきた。ゼシ姫、今日こそ返事聞かてくれよな。俺の事どう思ってる?」
「どうって、あんたねえ…!」
「好きだ」
「へ…」
クク星の腕から逃れる事も忘れ困惑するゼシ姫に構わず、
クク星は至近距離でゼシ姫を見つめ、腰に回した腕に力をこめます。
「俺はゼシ姫が好きだ。マジで惚れている。信じらんねーくらいお前に夢中だ」
「ちょ、ちょっと、待って、あの、いきなりそんな…」
さんざんクク星に口説かれてきたゼシ姫でしたがこんなに直球に、
真面目な顔で想いをぶつけられるのは始めてでした。
ついでに腰を抱かれた状態というのも始めてなのですが、
そんな事に気付く余裕は今のゼシ姫にはなかったのです。
突然の出来事に思考が半分停止状態でしどろもどろになっているゼシ姫に
追い討ちをかけるようにクク星は続けます。
「天の川なんて俺にとっちゃ障害でも何でもねえけど
このままじゃ周りに邪魔されて自由にできなくなる。
他の事は別にまあいいけど、ゼシ姫の事だけは他人に介入されたくねえんだよ。
絶対に守るから…幸せにするから、
俺の伴侶になって欲しいんだけど…ダメか?」
いっつも自信満々で強引で、自分のペースに他人をはめようとするクク星が、
最後だけちょっと弱気になって眉尻を下げながら窺ってくるもんだから
元々世話好きな気質で母性本能強めなゼシ姫はきゅーんとときめいてしまいました。
そうでなくても引き離されそうになった事でクク星への気持ちをうっすら自覚し始めていたところなので、
クク星の真っ直ぐな愛の告白にゼシ姫が頷かないはずがありません。
「わ…私もクク星のこと…幸せにしてあげる」
顔を真っ赤に火照らせいっぱいいっぱいになりながらも何とか応えたゼシ姫を
クク星はたまらずそのままぎゅーっと力一杯抱きしめてしまいました。
こうして2人はかささぎから話を聞いたサーベルト天帝がゼシ姫の部屋に飛び込んでくるまで
抱き合ったままずうーっといちゃついていたそうです。
2人がめでたく結ばれたその日、7月7日は「かゆバカップルの日」と呼ばれ
短冊に恋愛成就祈願を世界樹の葉につるしておくとそれが叶うとか叶わないとか言われていたりいなかったりとか。
おしまい
最終更新:2009年09月05日 04:00