無題12

ククールは聖地ゴルドの空を見上げていた。
断崖ギリギリの足下には底も見えないような深く暗い大穴が口を開いている。
破壊しつくされた町は夜気に覆われ、遠くから人々の声が聞こえる。おそらく今後の復興について、話し合っているのだろう。
ククールの周辺に人影はない―――たったひとり、数歩後ろに控えたゼシカを除いては。
しばらく彼をひとりにしておこう、とエイトたちは町の外に出ていった。
ゼシカもそれに従うべきだとは思ったが、その場を離れられなかった。そうして、何時間もふたり立ち尽くしていた。
「アイツさぁ」
不意にククールが声に出した。ゼシカの方を振り返りもせずに続ける。
「アイツ、本当に腹黒いし、イヤミだし、ムカつくし、手に負えない悪党なんだけどさ、すげー優しかったんだ最初は。」
「うん。」
強風が砂塵を巻き起こし、ゼシカの頬を叩いたが、構わずに彼の背中を見る。
「思っちまうんだよな。オレさえアイツの前に姿を現わさなければ、アイツ、人に尊敬される立派な聖職者になってたんじゃないかな。」
「わかんないよ。もしも、の話なんて。」
「アイツ・・・指輪投げてよこした。」
「そだね」
「どういう意味なのか考えてた。」
「わからないの?バカね。」
ククールはゼシカを見た。
「『無事でいろよ』って事よ。」
ゼシカは笑みを浮かべている。
「似てるよね。素直じゃないにも程があるわよ。」
ククールは急に肌寒さを覚えた。救う言葉。癒す言葉。
―――ゼシカは本当にすごい女だ。
ゼシカに歩みを寄せる。
「抱きしめていい?」
ゼシカは何も言わずククールの胸にコツンと頭をあてた。
ククールはその体をそっと抱きよせた。
ゼシカは両手を回し、強く抱きかえした。
抱きしめてくれ、とゼシカにはそう聞こえたから。
―――寒い夜だね。今日は。誰かの温もりが欲しくなる。
ふいにククールがくつくつと笑い、体を離した。
「ダメだ、刺激が強すぎる」
「・・・?」
ククールは、ちょいちょいと自分の胸を指差した。
「変な気持ちになっちまう」
「バッカ・・・!!アンタって人はこんな時まで・・・。」
赤面して慌てふためくゼシカが拳骨を振り上げる。
ククールはその手を軽く受けとめ、面を寄せて囁いた。
「行こう。ラプソーンが待ってる。」
いつもどおりの不遜な目があった。
ゼシカは不敵に笑い返し、二人は歩き出した。





タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2008年10月22日 19:21
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。