見られている。ひたすら見られている。
ゼシカはとうとう隣に座るククールを振り向く。
「~~~いい加減にしなさいよッ!!」
「だってゼシカが本当に可愛いから」
「それはもういいわよッ早く朝ごはん食べなさいってばッ!!」
「可愛すぎて目が逸らせない」
「逸らせて」
「嫌だね」
呆れと、羞恥で、ゼシカは目をつぶり押し黙る。頭痛がしそうだわ、と呟く。それでも頬は赤い。
このバカはテーブルについてから、朝食にまったく手を付けていないのだ。
向かいにはとっくに朝食を終えて、音を立ててコーヒーを啜るエイトとヤンガスが。
2人とも何も言わないのが余計に嫌だ。死んだ魚のような目で遠くを見ないでほしい。
「……ククール。時間がないの。さっさとご飯食べて」
「いらねぇよ。お前見てると胸いっぱいで苦しいんだ」
「苦しいなら見なけりゃいいでしょうがっ」
「恋は苦しいものさ」
ついにゼシカはおでこに手を当ててうつむいてしまう。どうしたらいいのだろう、この浮かれポンチを。
「……」
ゼシカは考え、決心する。
ふいに顔をあげてククールの目線と真っ向から向かい合うと、
「わかったわ、好きにしなさい。私も好きにするから」
そう言って、ククールの前に用意された朝食に、フォークを豪快に突き刺した。
ずいっと突き出されるそれに、ククールが軽く身を引く。
ゼシカの気の強い瞳。断固として曲げない時の少しわがままな表情。
言われたとおりにそれを間近にじっと見つめて、ククールはますます相好を崩して呟く。
「…かーわいい」
その途端開いた口の中に押し込まれるフォーク。
ククールはごく自然にそれを咀嚼しながら、さらにニヤけた顔でゼシカを見つめ続ける。
ゼシカは次から次へと彼の口に朝食を詰め込むことに専念した。
だって目が合えば、こちらが負けることはわかっていたから。
ゼシカの差し出す山盛りのフォークを躊躇なくパクリとくわえるククールは、
必死で目を逸らし続けるカワイイ恋人の赤い頬が愛しくて仕方なかった。
なんとか全てを食べさせたゼシカは、はあっと疲労に近いため息をつく。
「やっと食べたわね…まったく、子供じゃないんだから…」
そう言いかけたゼシカの腕を、ククールが強引に引っ張り思い切り顔を近づけた。
「まだ食べ終わってないぜ」
「な、なんでよ…ちゃんと全部…」
「見てるだけじゃ、我慢できない」
一気に顔を真っ赤にさせたゼシカの頬に口付けながら、
「ちゃんと残さず食べなきゃ…」
ククールの口唇が、ゼシカの口唇を丸ごと食べた。
仲間の鉄拳制裁がくだるまでの間、2人はおいしい朝食をむさぼったのだった。
最終更新:2010年05月09日 17:53