※うしろ※


「い、いやっ、ククールやだ、やだや…、ちょっ…」
「ヤダってゼシカ嘘つくなよ…もう限界だろ…」
「おねがい…ッ おねがいだから、だめ、まって…ッ、いれないで、まっ…」
「んなの…、無理だって…ッ!!」
「いや、やだ、あ、あ、あ、…………~~~ッッッ!!!!!!」

ゼシカの声にならない叫びが尾を引いた。
夜も更けた宿の調理場を借りて、まだ眠くないからと2人でココアを飲みながら話し込んでいた。
決してそんなつもりはなかったのに、成り行きでいつのまにかこんなことになってしまった。
はじめて結ばれてから、まだ数えるほど。
慣れないどころかこのテの知識が徹底的に皆無だったゼシカにとって、
一回一回のセックスでなされる全ての行為がはじめてで、あまりにも衝撃的なことばかり。
その一つ一つを丁寧に、優しく、そしてそれはもう楽しんで教え込んでいるククールは、
「恥ずかしくて、信じられなくて、でも、したくないわけじゃない」
はじめての性に翻弄されまくっているゼシカにもうメロメロであった。
メロメロゆえに抑えが効かない。挿れないでと言われれば挿れてしまう、若い下半身。
あんな愛撫も、こんなプレイも、まだまだ一向に慣れそうにない幼い精神とエロい身体。
そんな現状でこの夜2人は、調理場の机にうつ伏せての、後ろからのセックスにふけっていた。


なるべく気を付けたが、若干汚してしまった調理場を何事もなかったように片してから、
ククールはゼシカを抱き上げて部屋に帰った。
そういえばお互いの部屋以外でしたのは初めてだ。こんなイケナイことしてる自分たちを
誰かに見られたらどうする?誰か来るかもしれない、誰か聞いてるかもしれない…そんな風に
責めれば責めるほど、やっぱりゼシカの身体は敏感に反応した。うんうんいい調子だ…
ククールが悦に入りながら一人コクコクと頷いていると、
ベッドに降ろしたゼシカがハァッ…と、明らかに震えながら深い息を吐きだしたので、
ククールは驚いて自分もベッドに腰掛けうつむいた顔をのぞきこんだ。
「どうした?寒いか?」
ゼシカは腕を交差するようにして自身を抱きしめながら小さく首を横に振る。
「震えてる。……さっきのか?痛かった?もしかして」
髪やひたいに何度も優しく口付けながら尋ねると、ゼシカが再び否定するように首を振る。
「ちが、う…。…ごめんなさい、大丈夫…」
「嘘つくなよ。どうした?言って」
どう見てもいつもの行為のあととは違う。慣れない快楽に翻弄されて茫然自失になっても、
こんな…どちらかと言えば怯えているような反応を見せたことなんてなかった。
怯えている?何に?オレに?
「ごめん…怖かった?あんなとこでするの、もうイヤ?」
大切に大切にゼシカの小さな体を抱きよせて腕の中におさめると、ゼシカもそっと身体をあずけてくる。
しばらくそのままでお互いの体温を交換していた。ゼシカが落ち着くのを、じっと待つ。
やがてゼシカがククールの胸の中で、くぐもった声で呟いた。



「―――こわかった…の」
「うん…なにが?」
「…わたし、やだって…言ったのに…」
そう言われて、ククールは記憶をたどる。実際あの極限の興奮状態のさなか、覚えていないことも色々ある。
やだって、…あれか。
「挿れないで、って?」
途端、カアッ!!と一気にゼシカが全身を朱に染めた。
ククールはククールで、まさにその時のことを思い出し、イヤらしい笑みが押さえられない。
「だってお前、仕方ねぇじゃん。あそこまでやっといて挿れるのはナシなんて、絶対無理…」
「ちがうっ!!そうじゃなくて…」
「多分気付かれてねぇから大丈夫だよ、宿主じいさんばあさんだったから」
「ちがうったら!あ…っ。……………それもだけど、でも、そうじゃなくて」
ゼシカはククールの腕の中から抜け出し、背中を向けてぺたりと座りこんでしまう。
「…こわかったのよ…」
「だから何がだよ。言ってくんないとヤダって言ってもまたやっちゃうぞ」
わざと意地悪な響きでそう言って先を促すが、それでもゼシカはしばらく黙ったままだった。
告げるのに相当の勇気を要するようだ。ククールはぼんやりとそれを待ちながら、
彼女の少し乱れたツインテールとうなじ、薄いシルクの寝着にうつる無防備な
艶めかしい身体のラインを眺めやって、あーもっかいヤりてーなぁ などと考えていた。
「………………ククが、したい…なら、私も、する…けど」
しぼりだされるような小さな声。
「ホントは…いや…
 ………。
 ……………………。
 …………………………………………ぅ」
「え?」
「…………………………………………ぅしろからは…」
一瞬 呆然としたのち、ククールは あぁ、と納得する。
自室以外は初めてだったが、そういえばバックでしたのも初めてだった。
しかもベッドの上じゃなく机で立った状態で…という、いささかアクロバティックな。
「ゼシカはバックいや?」
「ばっく…」
「あぁ、後ろからするの」
「い、イヤっていうか…」
耳まで真っ赤にさせて、ゼシカは一生懸命答える。
「……ククールの顔が、見えないのが…不安で…。なんにも掴めないし、なんだかもう…
 どこかに放り出されちゃいそうな気がして…怖かったの…」

普段、ゼシカは快感に耐えきれなくなると、精一杯の力をこめてククールの背に腕を回す。
完全に余裕がなくなると、知らずに爪を立て、ククールの背に何度か傷をつけたこともある。
大きな声が抑えきれそうにない時は、最初にククールがそうしていいと言ったように、
彼の肩を噛んで必死に耐えた。
でも、今日みたいな態勢では、そのどれもができなかったのだ。わななく指先は必死に机の端を掴んで、
でもその頼りなさは、襲い来る感覚を何も軽減してはくれなかった。耳に直接吹き込まれるのは
荒い息遣いだけで、今自分にこんなことをしているのが誰なのか、何度もわからなくなった。
そして、声も…。



ククールはハッとして唐突に気づき、慌ててゼシカの腕を手に取った。
そこにはやっぱり傷が。もしかしなくてもゼシカが自分でつけた噛み痕が、わずかに血をにじませている。
「うわ…っ、ごめんゼシカ、マジごめん。気付かなかった…」
「だ、大丈夫よこれは。それより私こそごめんね、私、いつもククールにこんな」
「背中のひっかき傷と噛み跡は、男の勲章。それよかお前にこんな痕残させるとかありえねぇ」
口づけて、舌を這わせながら、ククールは呪文を唱えてその傷を消し去る。
「…そうだな…。こんなことになるなら、もうバックはしないでおくよ」
「あっ、でも、でもね、いいの、私、ククールがしたいなら、私、別に…」
「我慢するなって言ってるだろ。あれは成り行きで後ろからになっただけで、別にどうしても
 そうしたいわけじゃねぇよ。オレだってゼシカの可愛い顔見ながらしたいし」
「…うん…」
手を差し伸ばしてもう一度抱き合う。
「怖かったか…ごめんな」
改めて謝る。順調に教え込んできたつもりだったが、本当にまだ慣れてないんだな、と思う。
身体ばかり成熟していて快楽に貪欲なのに、心はまだまだ付いていけず混乱しているのだろう。
かわいそうに悪いことをした、と思う反面、その二面性のなんと魅力的なことか。
「でもさ、ゼシカ…ちゃんとイったよな?」
怖かったのならイケなかったのでは、と思いついて、いや確かにイっていた、と思いおこす。
腕の中でゼシカは顔をあげることができず、小さく頷いただけだ。
怯えてはいても、身体が委縮してしまったわけではなかったのだろう。…というか
ククールの記憶では、むしろいつもより感じていたような。いつもより若干乱れていたような。
(…てことはやっぱりゼシカって天性のマゾヒストかもな)
心は嫌がっているのに、強引にされてしまったことで身体はより感じて達してしまうのだ。
ついでにあのシチュエーションにも、本人の意思を置いて、身体はかなり反応していた。
そんな自分に戸惑っている、未だ純情以外のなにものでもない無垢なゼシカに、
イヤ、やめて、恥ずかしい、と言われれば言われるほど、ククールもまた、
己の中の何かが目覚めていくのに気づかないふりはできなかった。
(オレも自分がこんなサドだとは知らなかったぜ)
実際 彼女の泣き顔は媚薬だ。昼間に見たらみっともなく狼狽するしかないが、ベッドの中で流される
ゼシカの涙は、もっと幾らでも泣かせてみたいという思いにさせられる。


(――――――でも、まだ、もうちょっとは自重しないとな)
ゼシカの中の性の気質は、まだ芽生え始めたばかりだ。たやすく摘み取ってしまっても、
乱暴に踏み荒らしてしまってもいけない。ゆっくりと、丁寧に育てていかなくては。
…彼女自身は気づかないようなやり方で、少しずつ少しずつ、
いつかオレのサディスティックな欲のすべてを、壊れずに受け入れられるようになるまで。

「……クク?」
ハッとして我に返ると、ゼシカが心配そうな顔で見上げていた。
己の意識の底にある昏い願望がバレないように、咄嗟に笑顔を取り繕う。
…とりあえずは。
「じゃあゼシカ。明日は対面座位でしような♪多分ゼシカがいちばん好きな体位じゃないかと思うし」
「たいめざ…何、それ…。また私、そんなのわかんないよ…」
「いーのいーのゼシカはわかんなくて。オレが全部教えてやるんだから」

そう、オレが。オレだけが。
自分の胸に寄り添って眠るゼシカを見つめながら、ククールは己にそう誓った。






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最終更新:2010年05月10日 00:57
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