――――――ゼシカ、動いて。
最初は冗談だと思った。
でも、彼は本気だった。
「大丈夫、オレが全部見ててやるから。ゼシカが感じてるとこ全部」
整った顔を微かに歪め薄い唇がさらに綺麗な弧を描いた。
―――いや!そんなこと言わないで。見ないで。こんな態勢で何一つ隠せないとわかってるくせに。
「ムリ…だよ…ッ、ククール…おねが…」
どんなに懇願してもますます可笑しそうに表情を崩すだけで、
私の望みは叶えてもらえないものだと、いつものパターンもあって悟ってしまった。
さっきまであんなに私を激しく揺さぶっていたというのに、
今は私の下で私に行動を促すだけでピクリとも動いてくれない。
「ククー…ル…」
繋がった箇所から広がる甘い痺れが私をじわじわと追い詰めていく。
このまま自ら動けばこの瀬戸際のような思いから開放されるのに違いない。
そう思うのに…。
「ほら、早くしないといつまで経ってもこのままだぞ」
「……だっ…て…、こんなの……」
──怖い。
始めてククールと重なり合った時や、後ろからされた時とはまた違った未知なる感覚が私を襲う。
いつもはククールの動きによってもたらされていた刺激を自ら起こさないといけないなんて……!
「無理なら。今日はここまでにして、やめようか?」
「え…?」
私が目を見張るとククールは余裕たっぷりの不敵な笑みを浮かべていた。
分かっていっているんだ、ククール。
私が、ここまでで止める事が無理だと、分かって言ってるんだ…。
何もしないで、ただこうしているだけでも蕩けそうになっている事を。
「ずる…い…」
涙がポロポロと勝手に零れて、彼のおなかにポトポトと落ちて流れる。
身体が小刻みに震えて、私は終わらない快楽の地獄に陥ったことを知った。
辛くて、でもどうしても行動に移せなくて、浅い息を繰り返しすぎて、過呼吸で意識が朦朧としてくる。
「は、は、…ッん、はぁ…」
開きっぱなしの口から滴り落ちそうになる唾液を何度も飲み込んで、ククールの胸に爪を立てた。
―――見上げてくる魅惑のまなざし。
「…ゼシカはいやらしいから、気持ちいいの大好きだろ?」
エロティックを演出する、ゾクゾクするような低い声。
「ゼシカはいやらしいから、自分で動いて気持いいとこ見つけて、思いっきりイきたいだろ?」
やめて、やめて!おかしくなる。
ククールの言葉に激しい羞恥心が沸き起こり、そして私の意志とは関係なく自分の中から
熱いものが溢れ出して、私の中にある憎らしいククール自身を責めるようにキツくキツく締め付ける。
自分で動いてあの快感を得るなんてこと、できない。
はしたない、恥ずかしい、何よりこわい。ククールの言うとおり、自分がどんどん
いやらしいものになっていく。おかしな声を出して、体裁なんて何も繕えず、
記憶も飛んで自我も崩壊して、おかしくなってしまう。
与えられるものだけであんなに乱れてしまうのに、それを自分から貪るなんて…
こわいよ。できない。私は両手で顔を覆ってみっともなく泣きじゃくる。
ククールはこんな私が見たいの?
意地悪な微笑を浮かべた彼の顔が、涙で歪む。
ねぇ おねがい
いじめ ないで…
ククールにいじめられると わたし…
ククールを深々と受け入れている私の恥ずかしいところがひそやかに痙攣した。
…もう、ダメ…。わたし、やっぱりおかしいのかもしれない…
――――――うごけばいいの?
そうすればゆるしてくれる?
ゆるす?なにから?
…この甘い責苦から?
わたしが うごけば……
―――なんの前触れもなくいきなり胸の尖りを摘ままれ、悲鳴を上げた。
「ヤ…ッッ!」
「…お前、強情すぎ」
荒い息しか返せない私に、ククールが呆れ顔で言ってくる。
「こんだけ焦らしてんのに、いつまで気持ちよがってんの」
思考が働かず、その言葉の意味もよく汲み取れない。
彼の指は先端ばかりを乱暴に弄り続け、そこがもたらす全ての快感が繋がっている下半身に響いて、
自分でも嫌になるくらい、また何度も何度もそこが収縮を繰り返す。
そのたびに、すでに笑みを捨て去ったククールが苦しげに顔をしかめ、ふぅっと息を吐き出す。
「ゼシカってほんと胸で感じすぎ…ココだけでイく気か?」
「あん…ッ!!」
痛いくらいに抓りあげられて、全身にしびれが走る。
本当にそれだけの刺激で簡単にあの頂点に達しかけて、彼の胸に突いている拳を必死で握った。
また、また、ぎゅうっと締め付ける自分がわかる。
まだイ…きたくないのに、もう弄らないでって思っているのに、でもやめないでって思ってる。
そんな自分が恥ずかしくて死にそうで、ククールの顔が見られない。
「…ッ。だ、から。…締めんなって…!」
ククールの切羽詰まった、怒ったような声。
だって、だって、だって…
その時、ククールがいきなり下半身を揺すぶりあげて―――
「は…ッッッ――――-!!!!!」
声も出なかった。
背筋に雷が落ちたみたいな快感。
咄嗟に身体が跳ね上がる。それをまるで予期していたようなククールの手が、
私の腰を強く掴んで、再び深く突きいれるように自分自身に押し付けた。
「んあ、アア………ッッ!!!!!!!!」
意識が飛びかけていた私の身体は弛緩していて、この急な衝撃に耐えられる構えなんかありはせず、
溜まりすぎたモノが爆発するように、たった一度の突き上げで昇りつめてしまった。
それでもククールはなんの言葉も発せず、荒い息だけを繰り返しながら、
一番狭くなった私のその中をこじ開けるように続けざまに腰を突き上げてきた。
そこから先は、あのはしたなく甲高い意味のない声しか出すことができなかった。
それほどククールの動きは激しく、ただ彼自身の快楽を貪るためだけの動きは、
私がその後小さな頂点を何度となく迎えてもなかなか終わらなかった。
一度達してしまった私の身体はあまりに敏感で、嵐のように襲いかかる
快楽にも苦痛にもむやみやたらと感じ、ククールの動きに拍車をかける。
まるで違う生き物のようにどうしようもなく揺れる私の胸を、
ククールは我を失ったようにむちゃくちゃにした。
やめて、なんて思い浮かぶことすらせず。
私も次第に、全てを忘れて快楽だけに没頭した。
ようやくククールが達したのを奥深くで感じ取って、
もうほとんど前かがみになっていた身体は、彼の胸に力をなくして倒れこむ。
お互いに激しい息ばかり。
ククールがまだ正気とは言えない瞳で私の頭をグイッと引き寄せ、
身体だけでなく口の中もぐちゃぐちゃにかき回し、そして、低い声で…
「――悪いけど、ゼシカが焦らしすぎるから、優しくなんてもうできない」
……え?
突然、再び沸き起こった熱い塊を中に感じて、繋がったままの下半身がビクン!と跳ねた。
全身がカアッと赤くなった。
なに…?どうして、だって、今ククール、……イったのに。
「きゃ…」
困惑する私に構わず、ククールはくるりと態勢を入れ替え、私をベッドに組み敷いた。
「今日はオレの気が済むまでやるからな」
ずるりと引き抜かれ、そして再びゆっくりと侵入され。
体力なんてとっくに限界なのに、快感だけはハッキリと私の神経を刺激して。
「く、クク…っ、ま、また…!?ウソ、い、や、アッ、……む、無理、もう…」
「ゼシカが悪い」
「や、あ…クク、クク…ッ、ね、おねが…い…」
「お前が全部悪い…」
「あん、あっ、は、ククール…ッッ」
耳に吹き込まれる囁きは、朦朧とする脳内にゆっくりと染みこまれていった。
*
最終更新:2010年05月10日 01:01