ここ最近の流れの、」どうしようもなく黒ーるです。
エロはない、救いもない。ゼシカたんかわいそう。
それでも大丈夫な方だけ読んでくださるようお願いします…
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―――今日もククールは「どうせもうすぐ次の街に着くから」という理由で、
ゼシカのケガを癒さないまま強引に歩みを進めた。
確かに彼女の傷は重傷ではなかった。それでも、魔物と戦いながら旅を続けるのが辛いくらいには
傷を負っていることに変わりはない。
ここ最近ククールは限界ギリギリまでゼシカに回復呪文をかけなくなった。
それはとてもじゃないが、彼女の騎士としてふさわしい態度ではない。
以前ならMPの無駄遣いだと皆に責められても、ほんのかすり傷でホイミを唱えていたはずが。
そのくせ未だに、自分以外の仲間が彼女に回復呪文をかけるのは断固として許さなかった。
「ククール、ゼシカを回復してあげてよ」
エイトは眉間にしわをよせてそう言った。怒っているというより、考えあぐねた結果の進言といった感じだ。
ククールは何をバカなことを、とでも言いたげに意外そうな顔を作る。
「大丈夫だって。どうせ宿泊まればある程度回復するんだし。MP節約だろ?」
「腕をケガしてるんだよ、あれじゃ可哀想だ」
「ちゃんと戦える程度には浅いケガだよ。ホントにヤバくなったらちゃんと回復する。
戦闘に影響がないようにはするから、心配すんなって」
「そんなこと心配してるんじゃない。はぐらかすなよ」
エイトの本来の強さが目に現れる。ククールはじっとそれを見返し、薄く笑った。
「…じゃあお前がアイツに言ってやれよ。回復してやろうか、って」
不審そうに、エイトがククールを見上げる。していいものならとっくにしている。それを禁じたのは他でもない
ククールじゃないか…。エイトは嫌な空気を振り払うように「それなら」、と踵を返した。
その背中に、ククールの楽しそうな声が聞こえる。
「―――――アイツはさせないだろうけどな。…絶対に」
その後エイトに回復を勧められたゼシカは、「ククールにしてもらうから大丈夫」と、それを拒んだ。
その笑顔は、痛々しかった。
*
ゼシカは扉の前でずいぶん長い間立ち尽くしていた。
傷を負った腕がひどく痛みはじめていた。そこをかばうように、ギュウと掴む。
早くしないと、扉の向こうで自分を待っているはずの人物を怒らせてしまうかもしれない。
その部屋は―――ククールの部屋だった。
あの夜から、ククールはたびたび、機会があれば強引にゼシカを抱いた。
あくまでただのセックスではなく、「MPを要しない究極の回復魔法」という名目のもとに。
ゼシカは拒んだ。こんな風に自分たちの関係が変わってしまうのは耐えられなかった。
しかしククールはそれを強要した。なぜ、と問うても決して答えは返らなかった。
はじめはどこか煮え切れない表情でゼシカを抱きしめていたククールは、回数を重ねるたびに
その顔を皮肉にゆがませ、ゼシカが嫌がれば嫌がるほどそれを楽しむようになる。
そしてゼシカはあまりに急激に植え付けられた性感に翻弄されすぎて、
ククールが与えてくる暴力的な快楽にとらわれ、いつしか抵抗することを忘れた。
それは麻薬そのものだった。
やめなければ身を滅ぼすとわかっているのに、浅ましく求めることをやめられない。
宿で個別の部屋が取れた日は、必ず夜更けにククールがゼシカの部屋を訪れた。
ゼシカも、部屋割りが判明した瞬間から今夜自分が彼に何をされるのかを知っている。
わかっているなら逃げればいいのに、それをしない時点でこの行為は同意のうえだった。
しかし彼が部屋を訪れる時間はいつもバラバラで、ゼシカがまだお風呂に入っていないからと言っても
かまわず抱かれるし、お風呂に入っている最中に乱入してきて
そのまま無理やり行為になだれこまれたことも一度や二度じゃない。
たとえ愛情に基づいた行為ではなくても、ゼシカはせめてちゃんと身を清めてからじゃないと、
他人に己の身体を触らせることに大きな抵抗があった。
いつかそれを羞恥をこらえて訴えたことがある。するとククールはニヤリと笑って言ったのだ。
「じゃあ、お前がオレの部屋に来いよ。オレの“回復”が恋しくなったら、ゼシカの方からくればいい」
自分からククールの部屋を訪れるということが、どれほどゼシカの羞恥を煽り、
ゼシカに屈辱を与えるかをわかりきっていて。
ククールが強要するからではなく、ゼシカが抱かれることを望んでいるのだと。
それを証明させようというのだ。そしてゼシカはこの狡猾な提案に逆らえるすべを持たなかった。
指先が滑稽なほどに震えながら、ドアノブを掴み、ひねる。
いつだってこの瞬間は心臓が破裂しそうなほどに高鳴る。それは期待ではなく、恐怖。
この扉を開ければ、また一つ、自分達は戻れなくなる。わかっているのに…
部屋の中に人影はなかった。足を踏み入れる。彼の部屋を訪ねているのを他の仲間に見られたく
なかったから、扉を閉めた。シャワーの水音も聞こえない。か細い声で彼の名を呼ぶが、返答はない。
ゼシカは肩の力が抜ける気がした。ホッとしているのは間違いない。
「逃げられる」――ゼシカの脳裏に咄嗟に浮かんだのはその言葉。
ちゃんと部屋に来たのだ。でも、ククールはいなかった。だから帰ったのだと…
ゼシカが来たい時に来ればいいと言ったのは彼なのだからそんな言い訳自体が無用なものであるはずなのに、
なぜかゼシカは必死で弁解を考えていた。なぜ来なかったのかと責められた時の言い逃れを。
きっとククールは問い詰めない。でも、確実に…怒る。彼が不機嫌な時にされる“究極回復”を、
ゼシカは身をもって知っていた。必要のない長い長い乱暴な愛撫に、高められるすぎて苦痛なほどの
快楽を延々と味あわされても、ククールはゼシカが一番求めているものを最後の最後までなかなか
与えてくれなかった。焦らされすぎて、自分がどれほどはしたなく懇願したかも覚えていない。
あんなのはもうイヤだ。ゼシカは顔を赤らめ、悔しそうにスカートを握りしめる。
あれは自分がこっそりエイトに回復を頼んだことが彼に知られてしまったからだった…
今なら、逃げられる。このあと自分の部屋には戻らず、教会ででも一晩過せばいい。
ゼシカは弾かれたように振り返りドアノブに手をかけた。
しかしまさにその瞬間、廊下側から扉が引かれ――――
目の前に立つククールを見上げ、ゼシカはあからさまに怯えの表情を見せた。
意外な邂逅にしばらくきょとんとしていたククールだが、ナイトローブ姿の彼女を一瞥し、静かに微笑んだ。
「……どこ行く気だったんだ?ゼシカ」
――――その声は、ゼシカにとって堕ちていく合図だった。
最終更新:2010年05月10日 02:47