ホワイトデーSS2

道はまっすぐ伸びていて、目的地にはまだ遠いことを思わせる。
「ゼシカも今のうちに少し休憩しなよ。今日はまだまだ歩くことになりそうだし。
後は僕がやっておくから。」
がさごそと荷物の整理をしていると、エイトがそんなことを言った。
特に疲れてもいなかったんだけど、大人しく厚意に甘えることにする。
お礼を言って、馬車から出ると、眩しいくらい高い太陽に少し眩暈を起こした。
太陽の光を一身に受けて少し伸びをする。
「ふう…っ」
周りに目をやると、武器を磨きながら雑談をしているらしい、ヤンガスとトロデ王と馬姫様、そして、その少し離れた木陰にククールがいた。
ククールは休憩の時はいつもみんなから少し離れた位置にいる。
しばらくなんとはなしに眺めているとふと違和感に気づいた。
ああ、いつもしているグローブを外しているのだ。
遠目に、視線を手元に落として、細かく手を動かしているのが微かに見えた。
ここからでは何をしているのかよく見えず、それがとても気になる。
彼のほうへ歩き出した時には何かの作業が一段落ついたのか、
彼の手から力が抜けている所だった。
「ククール?」
「…ああ、ゼシカか」
いつもと変わりない声色。

「何してたの?」
不思議そうに覗き込みながらそう言うと、彼は面白そうに笑った。
くだらないことを考えてるときの笑顔とは少し違う。
「手、出して」
「え?」
意図が掴めなくて驚いていると、ククールは私の手を取った。
もう片方の手で私の指に何かをはめる。
「……これ、作ってたの?」
「たまたま四葉見つけたからさ。」
クローバーで編んだ指輪だった。
やさしい草の黄緑色に、四葉の深い緑がよく映えている可愛い指輪。
私も昔はよく兄さんとお花畑にいったりしたけど、お花の冠はいつも兄さんのほうが上手
で、上手く作れずに落ち込む私に兄さんがよくくれたっけな。
私の指にはめらた指輪は、兄さんを思い出させるくらい細かくてとても綺麗で…。
「意外と器用なのね」
「おいおい、意外なんて酷いな。オレは修道院にいたころは器用なことで有名だったんだ
 ぜ。オレのセールスポイントでもあったわけだ。」
「セールスポイントってあんたね………もう突っ込むのも面倒だわ」
それに、あんまり聞きたくないし。
「お返し、これならいいだろ?」
一瞬何のことだかわからずに考えを廻らせた。ああそうか、今日は…。

昨日のことを思い出す。
バレンタインのお返しは何がいいかとコイツに聞かれて、お金が勿体無いから要らない、
なんてかわいくないこと言っちゃったんだっけ。
でも実際バレンタインにあげたチョコレートは、安く売ってたから買っただけだし
お返しなんてもらうのも何か申し分なくて。
「別に、いいのに……」
照れを隠すように呟いた言葉を無視して、
ククールは立ち上がると衣服についた草を手でぱんぱん払い落とした。
「でも。…ありがと」
お礼は、言わなきゃね。
少し嬉しかったなんてこと、悔しいから言ってやんないけど。
ククールは笑顔で返すとそろそろ行くか、とみんなの方へ歩き出した。
歩き出す彼の後ろで、太陽の光で照らしながらクローバーの指輪をじっと見つめる。
あることに気がついてしまった。
わかってるんだか、わかってないんだか。
深い意味はあるんだかないんだか。
そんなことを考えていると、私の心を見透かしたように彼は歩みを止めて振り返った。
「ちゃんとしたやつはまた今度な」
悪戯っぽい笑顔で言う。
不覚にも、顔が熱くなってしまった。
「こら、ちょっと、ど、どーゆ意味よっ!」
左手薬指のクローバーに軽く口付けして、慌てて彼の後を追いかけた。







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最終更新:2008年10月22日 19:22
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