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「ねぇ、ククール…ほんとに、なんだか…変なの…」
「わかってるわかってる。今オレが楽にしてやるからな」
「え、ちょ…っ!」
とても色男とは思えないほど目尻を限界まで下げきって、震えるゼシカにククールは突然の口付けを与えた。
怒りたいのになぜかまったく体に力が入らず、ゼシカは抵抗する指をぐずぐずと萎えさせていく。
壁際に押しつけられ、露出過多の素肌を優しく撫でまわされると背筋をゾクリと震わせた。
「ん、んふぅ………っアッ、や、やだ…」
コリ、と、なにげない動作でククールの指先が極端に短いビスチェの上から乳首を摘まむと、
ゼシカはビクリと反応してしまう。何も施されずとも、すでにそこは固く張っていたからだ。
「やだ、ぁ…」
「おかしいな…?なんでもうこんなに硬くなってるんだ、ゼシカ?」
「わ、わかんない…っ!ねぇ、なんとかしてくれる、って………ッん!!」
「わかんない?それは大変だ。じゃあ、もしかして…」
決してビスチェは脱がさないまま、聞こえないふりをしたククールの片手は下半身へも伸びる。
何のために存在するのかわからないスケスケの布地をかいくぐって下着部分に到達する。
ショーツ部分はそれはそれで、爪先でピンッと簡単に切れてしまいそうな細い紐だけが
申し訳程度に局部を隠す小さな布を繋ぎとめている様は、むやみに男の劣情を煽るためとしか思えない。
そこにそっと触れると、それだけでゼシカは敏感に体を跳ねさせた。
「…やっぱり、ココもエッチな気分になってる?」
ククールのほくそ笑みに気づく余裕もなく、ゼシカは火照った顔を切なげに歪ませた。
「…ぅ…っ…やだ、もう…っ。…た、多分、この装備の…せい」
「このエロいビスチェのせい?…確かに異常にヤラシイよな。胸も尻も丸出し。
こんなの着て一人で興奮しちゃったんだ、ゼシカは?」
そう言われ、さらにゼシカは頬を赤らめる。確かに妙にいやらしいかな、とは思った。
けど、ククールにそう言われると、まるで自分が望んで恥ずかしい恰好をしているような気になって…
「だ、だって…装備だから…!着てみなきゃって…!」
「だったらすぐ脱ぎゃよかったのに、なんでわざわざオレに見せに来たんだよ…?」
指がショーツの上から割れ目に食い込み、きっともう震えながら主張しているであろう
小さな芽をグリと刺激すると、ゼシカは耐えきれず高い声をあげてしまう。
そしてもちろん下着はすでに、小さくない染みで濡れていた。
「だってぇ…ッ、っあ、あ…」
「だって、なに?」
「…く、ククに…見てほしかった、の…」
いたずらな指先がピタリと止まった。おや、という男の顔がゼシカをのぞきこむ。
「なんで?」
「…ほめて、くれるかな、って…いつも…新しい装備見て、…喜んでくれる、から…」
快感よりも乙女としての恥じらいに頬を染めるゼシカに、ククールはキュンキュンしてしまうわけで。
そしてこんな棚ボタ展開を、見逃すわけもなく。
甘い声のささやきを耳元に吹き込み、さらにゼシカを自分の虜にしてしまおうと。
「……最高だよ。よく似合ってる。さすが、オレのゼシカ」
「ほ、ほんと…?」
「最高に…魅力的だ」
「魅力的…?」
しかしその賛美に少しの不満をのぞかせて見上げてきた視線に、ククールは苦笑して訂正した。
「あぁ…。―――かわいいよ、ゼシカ」
同時に再び、薄手のビスチェの上から胸を大きくもみしだく。
「かわいいゼシカ…ほんとにかわいい」
「んっ…や、ま、待って…ックク…!」
「かわいい…ゼシカ…」
首筋に歯を立てられて、ゼシカは身をすくめる。
気持ちの高揚が体にも直結して、彼の手が触れる全ての肌が熱を持って火照る。
もう、体中が…体の奥の奥から、熱い。
「だ、ダメ…!お願い、これ以上はホントに…おかしくなっちゃうから…ッ」
「なっていいよ」
「ダメ、だから…ッねぇ、おねが、い、これ…脱がせて…ッ!」
「ダーメ」
「なんでよぉ…ッ!!バカ…ッア!」
ゼシカにしてみれば、この状態はまるで拷問。
薄皮一枚のように肌に張り付くこの装備が、頼みもしないのに勝手に体温を上げ、欲に飢えさせ、
ゼシカの思考を麻痺させる。少しずつ恥ずかしい期待に浸食されていく脳内に
あらがう意識は残っているのだから、それがまたツライ。羞恥を捨てて快楽に没頭することもできない。
ククールの愛撫と、さらにもう一つの何かが、二重になってゼシカを追い詰める。
要するに布を皮膚に押しつけられるだけでも、何だかムズムズしてたまらないのだ。
体の奥の方から、何かを強引にかき回される気がして…頭がクラクラする…
「お…おねが…やだ、んぅぅ…っクク―ル…!」
確かに今夜のゼシカの感じ方は普通じゃなかった。
服の上から撫でるだけで、過度に反応して鳥肌を立てる。
火照った体をビクビクと跳ねさせるその様子は、どう見ても据え膳としか思えない。
片方の太ももを持ち上げ撫でさすりそのスベスベの感触を楽しみながら、ククールはニヤリと笑った。
「…わかった。じゃあ脱がせる前に、もう一度オレによく見せてほしい」
「え…っ」
「後ろ向いて」
「え!?…や、やだ」
「他の男の前でなんか死んでも着させない。でも、オレの前でだけは…いいだろ?」
「いやだ…、恥ずかしい…っ」
「ゼシカのかわいい姿が見たいんだ」
ククールの言葉は、ゼシカにとって文字通り殺し文句だ。
確実に急所を狙って、絶対に逃げられないところにかいしんの一撃を当ててくる。
セリフだけじゃなく、艶っぽい声も、すがるように真剣な瞳も…
ゼシカは口唇を噛んでうつむいて、真っ赤な顔で逡巡する。
やがてノロノロと、壁にそっと手を当ててククールに背中を向けた。
ゼシカの肉体をこれでもかと魅せつけるばかりの、圧倒的エロスに満ちた姿が無防備に晒けだされる。
思わずククールの喉が鳴ったが、必死なゼシカは気付かない。
ククールだけが知る白くすべらかで完璧な裸体は、細い布と細いヒモ一本でキュッと縛られ、
まるで彼女を拘束しているかのようだ。黒革のブーツがまた妙にいかがわしく見えるのは気のせいか。
やわらかいお尻に食い込むT字型のラインが、否も応もなく男の雄を刺激する。
似合っていなければ、まだよかった。しかしこの危険な装備は、
これ以上ないほどゼシカに似合ってしまっているからタチが悪い。
―――この強烈なフェロモンに抗える男などいるだろうか?
もう止まれるわけがない。もちろんはじめから止まるつもりなどなかったけれど。
気配を消して忍び寄り、何が起こるのかと怯える彼女の肩にいきなり噛みついた。
「ひゃっ…!」
「ゼシカ…お前、エロイ」
「あああっっ…!!」
うしろから手を回し胸をいじりながら、お尻を鷲づかみにして割れ目に指を滑り込ませ、
キワドい部分を行き来しくすぐる。ゼシカは体をくの字に折り曲げて抵抗するが、
それはお尻をさらにククールに向けて突き出すことにしかならない。
立ったまま丁寧な愛撫を施され、それでも尚、ククールはその装備を完全に脱がしはしなかった。
ビスチェから硬く色づいた乳首はとうにさらけ出され、ショーツの裾から何本もの指を忍び込ませて中を
グチャグチャにかき回したくせに、中途半端に着衣させた布は未だゼシカの体にまとわりついたまま。
当然装備がもたらす効能も、肌に触れている限り変わらずゼシカをさいなむ。
体中がむず痒いような、皮膚のすべてが鋭敏になって、ほんの少しの刺激が過剰な快感になる。
ジリジリと追い詰められる重い快感がじっとりと与えられて、どんどん体の奥に溜まっていく。
サラリと垂れ下った透けた布が腰のあたりをくすぐるその感触にすら、背筋が震えて。
立っているのもやっと。快楽も、火照りも、もう限界。
発散させなければ、おかしくなる…!
「ククール…ッ!!!おねがい、脱がせて…ッ」
「…へぇ?ゼシカやらしいな。自分から脱がせてなんて」
「…ッだ、だって」
「裸にしてほしいんだ…?」
正面を向かせるとゼシカは羞恥に視線をそらしたが、否定はしない。できない。
どんなにいじめられても、この装備を脱がせてくれるのなら我慢するしかないと、すでに知っている表情。
ククールはゆるい愛撫を続けながらゾッとするような怜悧な笑みで囁く。
「…言ってみろよ。ハダカにして、って」
ほら。やっぱり。自分をいじめる時、彼はいつもこんな風に笑う。
全身がさらに熱くなる。こんな時、自分が罠から抜け出せたためしはない。
いつだって彼の思うままにいじめられ、羞恥と屈辱に犯される…
ゼシカは震えながらゆっくりと口唇を開いた。顔を真っ赤に染めて、彼の望む言葉を、望むままに。
それを聞き届け、ククールは満足げに口元を歪める。
前置きは終わった、とばかり。
ベッドに横たえられ、ゼシカは戸惑いがちにククールを見上げた。
事態をあきらめかけていたゼシカは、頭の片隅であのまま後ろから挿れられるのかと思っていた。
それを体が期待してもいた…だから存外に優しい彼の所作に、少しだけ驚く。
「………ク、ク……」
「かわいいよ…ゼシカ」
チュッと音を立ててキスすると、ククールは体を起こして上からゼシカをじっくりと見下ろした。
彼の視線は、それだけで凶器だ。それは戦闘だけで生かされるわけじゃない。
肌をゆっくりと、卑猥に、なめらかに辿ってゆく妖艶な視線は、限りなく本当に「目で犯して」いる。
その視線を追って、ゼシカは咄嗟に胸を隠した。
ビスチェからはみだした大きく柔らかい乳房を自らで押さえつける様は、かえって淫らで男を煽る。
透明な布を押し上げて、腹を、腰をさらし、胸下からブーツまで伸びる一本の革ひもを戯れにピンと弾くと、
白い体がビクンと跳ねる。それだけでも彼女には堪らない刺激なのだ。
ククールは笑い、未だ脱がせないままの下着の横ヒモに指をかけ、思わせぶりに引っ張った。
「…脱がせてほしい?」
ゼシカは目をつむって必死に頷く。
ククールはどうしようもなく濡れそぼって色を変えた布の上から、割れ目を深くえぐった。
「――やぁっ!!!」
「ホントよく濡らしたな、今夜は」
「あっあっアッ…!!やめ、て…ッ」
「もう使いもんにならないんじゃねぇ?この装備…」
グチグチと。
卑猥な音を嫌がらせのように響かせながら、それでも脱がそうとしない。
ゼシカは焦れた。もうさっきから何度か絶頂を味合わされていて、身体はすでに
たった一つのモノしか求めていない。最後の、最高の快楽を与えてくれる、浅ましい期待だけを。
乳首に歯を立てられた時、ついにゼシカは我を忘れて泣きながら叫んでいた。
「やだぁっ!!もう…っ…ぅ…脱がせ、て…っ!早くしてよぉ…!!!」
「そんなにキモチイイかよ、エロスのビスチェは。だったら脱がさない方がお前イイんじゃねぇの?」
急に口調の変わったククールとその言葉にゼシカはぎょっとした。
そして抗う間もなく膝の裏に手を差し入れ、両足を大きく開かされて小さな悲鳴をあげる。
ククールの指がショーツの股部分を思い切り横にずらし、履かせたままで秘部をあらわにした。
赤く火照り、開き、トロリと蜜をしたたらせて、布の間からあからさまに男を誘う。
その淫らな眺めに、ゼシカは驚愕し、ククールは悪い笑みを浮かべた。
「…エッロ…」
「やっ…!!…ッヤメ、テ…そんな」
彼の意図を悟り、ゼシカは激しく動揺した。
むやみやたらに性感を煽るこの装備を身に付けたままで行為に及んだら、どんなことになるのか。
もうすでに快楽に狂いそうになっている自分が、どうなってしまうのか。
「――――わかるだろ?裸じゃなくても、セックスはできるんだぜ」
ククールがトドメとばかりにニヤリ笑ってそう言った。
心臓が壊れそうに激しく打っている。
ゼシカは知っている。これは期待。背徳に堕ちるあの心地よさを、自分はもうイヤというほど味わっている。
「…クク…ル」
ゼシカは快楽の涙を流しながら、決して拒絶ではない声音で男を呼んだ。
それに応じ、微笑むククールの表情には、嗜虐の悦が確かにただよう。
「―――火照ってるんだろ?……ラクにしてやるよ……」
2人がようやく何度目かのセックスを終える頃には、件のビスチェはとうに脱ぎ捨てられていた。
結局その後一度たりとも、ゼシカがその装備を着て人前に出ることはなかったという。
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最終更新:2010年05月10日 11:45