※口を塞いで※




かなり長い間 野宿が続いていた。久々の宿屋で取れた部屋は4人一緒の大部屋。
何はともあれ、モンスターに襲われる心配のない場所でぐっすり眠れるのはありがたいことだ。

「……ちょっ、クク、なに―――」
「シッ。…あいつらに気付かれる」
しかし、夜中に襲ってくるのはモンスターだけとは限らない。
むしろモンスターより何倍も厄介な男に、ゼシカはベッドの上に組み敷かれていた。
「気付かれるって…当たり前でしょ!何やってんんんんっ」
「だから静かにしろって。じっとしろ」
「んんん!?」
手で口をふさがれ、ゼシカは目を丸くして目の前の男を見上げる。
男の目は本気だ。この「本気」の凶悪さを、ゼシカは何度か身をもって味わっている。
…………嫌な予感しかしない…………。

                *

それからしばらくすると、小さく小さく押し殺したような呻きが断続的に聞こえ、
盛り上がった布団の中で、2人分の身体がモゾモゾと動いているのだった。

「んんんん…ッ、…ん、ふぅ…っ」
大きな手の平でガッチリと口を押さえられているので、
ゼシカは鼻からもれる息だけで必死にわきあがる喘ぎをやり過ごしていた。
横抱きにされ、背中から回された腕。その指先はもうずいぶん長いこと胸の頂きをなぶり続けていて…。
「あぁ…ホントにたまんねぇわ…お前の胸だけは」
ククールのため息混じりの囁きは、恍惚とすらしている。
ゼシカを悦ばすためだけではなくて、単にククールはゼシカの胸を
意味もなく延々と触るのがもともと大好きだ。曰く「感触が至高」、らしい。
もちろんゼシカがその快楽に特別に弱く、いじればいじるほど
イヤらしさを増すことも、もう一つの大きな目的ではあったが。
おかげでゼシカは息苦しさで意識が朦朧としてきた。
普段は自分のあられもない喘ぎを恥じるのに、今はせめて思う存分声が出せればと切に願っている。
声を出せないことがこんなに苦しいとは思わなかった。
そして声を押し殺すということが、禁じられた行為を強いられていると強烈に実感させ、
それがさらに快楽のスパイスとなってゼシカを乱れさせる。
仲間が、いるのだ。すぐそこに。自分達がこんな淫らな行為をしていることがバレたら…

「苦しい…?…ごめんな。でも、ゼシカが望んだんだから仕方ないだろ?」
そう告げるククールの表情は、謝罪とは程遠い欲望に満ちた笑みで満たされている。
背後からの囁き声に、ゼシカは羞恥を噛みしめた。

確かに、…望んだ。
「抵抗したってヤる」。「エイト達が起きたってかまわずにヤる」「アイツらにお前の
グチャグチャに感じてる姿見せつけて、あいつら追い出してでもヤる」「死んでもヤる」
…とまで言われ、獰猛な肉食獣に対面したウサギのように身体が竦んでしまった。
その隙を、男は決して見逃さない。
本気で嫌なら、それでも断固として抵抗すればよかったのだ。
『お願いだから口をふさいで』などと懇願する前に。




「…ッ!ぅふ…っん!」
後ろから拘束された身体は狭いベッドの上でろくに動けず、されるがまま。
胸の硬い尖端をそれはもう器用にもてあそぶ指先が、それまでの優しくぬるい刺激から
打って変ったように、キツく、強く、ギュッと力を込めてそれを絞り、角度をつけてつねった。
ゼシカは目を見開いてビクン!と身体を跳ねさせる。
それを押さえつけ、ククールは自らの下半身の滾りを、彼女の片足だけ曲げられた
太ももとお尻の間の、キワどい場所にグリ、とこすりつけた。
ズボン越しでもハッキリと伝わる、その火傷しそうな熱さ。
「…………イけよ」
明らかな揶揄の含まれたひどいセリフだ。ククールはこの状況が楽しくてたまらないらしい。
ゼシカの目に急激に涙がたまり、シーツに顔を押し付けて必死で首を振った。
今だってこんなに苦しいのに、口をふさがれたままで絶頂に達するなんて、あまりに辛い。
ククールはきっと、私に声を出させたいのだ、とゼシカは思う。
それで仲間に知られてしまうことなんてどうでもいい。ただ、私に恥辱を味あわせたいだけなのだと。
いつの間にかズボンの中から引きずり出されたククールの欲望が、直にゼシカの下半身を這い回った。
ぬめりを持ったその熱い塊に、否応なしに股間がひくつく。
行為が久々なのは、ゼシカも同じだ。度合いは違えど、飢えているのはククールだけじゃない。
昼間は意識もしない性欲が、ククールのしつこい愛撫によって久方ぶりのあの絶頂を思い出し、
いつもより何倍もゼシカの体を敏感にしていた。股間はずっとひどく、ひくついている。
だけど。ゼシカは経験上、嫌というほど知っている。
だけど、まだまだ延々と快楽の地獄は続くのだ。こんな、絶対に声も上げられない状況で、
それでも無理やり幾度となくイかされ、焦らされ、あの熱い塊に貫かれても、なお…

「あっつ…」
布団の中の狭い密室は異常に暑くなっていた。ククールはふぅ、と息をついて汗を拭う。
ゼシカが嫌がっているのは重々承知の上で、強引にイかせてやりたかったのだが、
彼女がギリギリのところでなんとかこらえているのを感じ、ククールは苦笑した。
(ぶっちゃけ、アイツらにはもうバレてんじゃねーかなー…なんて)
今のところ可能性は五分五分というところか。邪魔さえしてくれなければ、
ククールにとってはバレてようがバレてまいが、正直どっちでもいいのだが。
それでも必死な努力を続けるゼシカが可愛くて可愛くて、…イジメたくてたまらない。
硬く張りつめている己自身を取り出して、ゼシカの腰やお尻や太ももになすりつけた。
自分の快感を得ると同時に、コレの存在を強調することでゼシカの興奮もいや増すはずだ。
ゼシカはいやいやをするように、小さく顔を振った。小刻みに震える身体。
…ふと気付くと、ゼシカの瞳から涙がこぼれ、彼女の口元を覆うククールの手の平にまで
ツッ、と雫が伝ってきていた。
「…ゼシカ」
内心少し焦って、愛撫の手を止める。後ろから前髪をかきあげ
なだめながら目尻に口付けて、ゆっくりと手を離し、塞いでいた口唇を解放した。
「…大丈夫…か?」
今さら過ぎてなんだか情けないが、聞かざるを得ない。
やりすぎたか。ククールは若干の不安を抱いて、身を乗り出し、彼女の顔をのぞきこんだ。
はぁ、はぁ、と荒い息。
飲み込めない唾液が赤い口唇から滴り落ちてシーツに染みを作る様がいやらしい。
涙は生理的なものだったようで、嗚咽が聞こえてこなかったことにククールは安堵した。
しばらくすると、ククール、と吐息のような呼びかけ。続いて紡がれた言葉に、ククールは息をのんだ。

「――――…………もう…ッ、……入れ、て…」




ゼシカに与えられた選択肢はあまりにも少なくて、それは苦渋の決断だった。
自らそんな風にねだることも。
誰かがいる場所でセックスすることも。
声を押し殺して達することも。
したことなんてない。全て、今唐突に突きつけられ、強要されているようなもので。
ぜんぶ、死にたいほどに恥ずかしい行為で。
それでも、選ぶしかなかった。

「…もう…いい、から…ッ。…いいから今すぐ…入れて……」
顔を真っ赤にしながらそんな懇願をする恋人の姿に、男が欲情を煽られない方がおかしい。
ククールは即座にその意図を悟って、下卑た笑みを浮かべ、横抱きの体をキツく抱きしめた。
「…まだ指も入れてねぇけど?…ココ」
「いいからッッ!!早く…ッ」
早く―――“終わらせて”。
口走ったその言葉に、ククールはさらに口角を釣り上げた。そういうことか、と。
「オレ、さすがに今夜はかなりデカいけど」
卑猥な言葉は羞恥を煽るばかりで、聞きたくなくてゼシカは目をつぶり身を固くする。
ククールはほくそ笑み、痺れるような低音を彼女の耳に直接吹き込んだ。
「………いいの?突っ込んで。………………痛いよ?」

恐らく大丈夫だろうと、ククールは考える。
胸が敏感なのは百も承知だし、十分いじりまくって感じさせたあとだ。
直接触れていなくても、挿入に問題ないくらいに濡れていることは間違いない。
だけど、そんなことゼシカには判断のしようがないだろう。痛みを感じる時と感じない時の
区別がつくほどの乱暴な扱いをした覚えは、ククールにはない。
…ただ、卑怯な男の脅しに怯えるゼシカが見たかっただけだ。

案の定ゼシカはビクリと反応し、泣きそうな顔で押し黙った。
どうするだろうと反応を見ていると、しばらくして、ゼシカはおずおずと、
片足を自分の腹に付くほどに深く折り曲げた。
必然的にさらけ出されるのは、まさに「入れて」と願ったその場所。
柔らかい双丘の狭間にのぞいたその淫らな光景を後ろから見せつけられて、
ククールは思わずゴクリと生唾を飲み込んだ。
…いいから、と、蚊の泣くようなゼシカの声。
「…………もう…濡ら、さない、で……ぃぃ…」

痛みなら、いい。痛いのは我慢できるから。
でも、こんな状況で、発散できない快楽はもはや苦痛だ。
気持ちよくなくていい。痛くてもいい。ただ、ククールが欲望を満たせるなら。
早く入れて。早くイってしまって―――

羞恥に顔をゆがませ、自ら秘所をさらけだしてそう懇願する様のなんと健気なことか。
そう、そういうことだ。彼女は自分の快楽は打ち捨てて、オレが一刻も早く果てることだけを優先した。
ここは要望通りに早く終わらせてやるのが、優しさというものだろう。
頭ではそう思いながら、笑いがこみ上げるのを押さえきれないのは、どうしてだ―――。

「…そんなこと言われたら」
「!?」
ふいに、ククールの指が、火照った割れ目にピタリと当てられた。
「―――濡らしたくなる」
「…ッ!!!やめ、―――んぅ――っっ……!!!!!」
驚いたゼシカの口を再び手の平で覆って、ククールの指がその中にズルリと侵入した。
思った通り、問題なく濡れて、キツく張り付いてくる。
ゼシカの瞳は動揺のあまり涙を浮かべ、こみあがる声を抑えることで必死だ。
なるべくゆるい刺激で、とは思うが、知り尽くした性感帯と敏感な内壁は、
お互い無意識に気持ちいいところを貪ってくる。
ゼシカの腰がじりじりと揺れた。イイ所を擦るたびに、ビクビクと身体が跳ねる。
苦しそうな表情はククールの困った性癖をやたらとくすぐって、どうしようもなく興奮させた。
…痛みで快楽を軽減なんて、させてやるわけがない。
…死ぬほど気持ち良くして、もっとオレとのセックスに堕落させてやる。
今どういう状況でこんなことをしているのかもすっかり忘れ、ククールはそんなことを考えながら
ゼシカが嫌がりながらも自分で腰を振って、ひどく感じている淫らな様に夢中になった。




「…っやべぇ…限界…。…ゼシカ…入れる、から…」
「―――ッッ!!」
「…足あげて…」
ゼシカが後ろを振り返るのと同時に、折り曲げた太ももに手をかけ持ち上げ、
ひっくり返される勢いでククールの欲望がのめり込んできて、思わず悲鳴があがった。
「ひゃ、あ、あぁぁっ――――あっ、ダメ…!!」
「大丈夫たぶん…そんなにもたないから…」
「いやあ、あっ、あっ…んうぅ、んん…」
「ごめん、ちょっと強くするけど…我慢して」
「んんん―――ッッ!!ん、ふ…っう…んう…」
また同じように口を塞がれ、枕に顔を埋めて指の間から漏れる息を抑え込む。
律動は激しく、最初から絶頂に向かう動きでお互いを一気に追い詰めた。
ゼシカは涙と唾液で口を覆うククールの指を濡らした。綴り泣きのような声を漏らしながら、
シーツにしがみついて、彼が自分の中で達するのを待った。
自分の下半身はもうバカみたいになっていて、ジンジン痺れた感覚が身体の中心に広がり
霧散するのだけが、ひたすらに繰り返されるのみだ。
息ができなくて、苦しくて、早く終わってと祈りながら、高まっていく最後の快感に
思考回路がめちゃくちゃになっていく。

イって。イかせて。苦しい。叫びたい。キモチイイ。もっと。もっと。早く。イって…イかせて。



…あと数回突かれたら、気を失っていたかもしれない。
そんな瀬戸際で、ククールの手がゼシカの口をそっと解放した。
いつのまに終わったのか。
ゼシカは多分何度も達していて、いつが最高潮だったのかもわからない。気がつくと
内股とお尻が彼の放ったもので汚されていて、あとには2人分の荒い息だけが響いていた。

ようやく息を整え、あまりの暑さにふとんをめくってしまって、
ゼシカの体を仰向けにし覆いかぶさり、久方ぶりにその顔を正面から見る。
「……ゼシカ。……大丈夫か……?」
未だ胸を荒げて大きく息をしつつ、ゼシカが呆けた顔で見上げてくる。
「…マジごめん…やりすぎた…辛かっただろ…」
囁いて優しく口付けすると、ゼシカの顔が徐々に歪み、またたくまに大粒の涙を流し始めた。
「――――っひ…っ、…ば、かぁ…っう、ひぅ…」
「うわ、ごめんごめんホントに…よしよし」
ククールは大焦りで顔じゅうにキスの雨を降らせ、泣き声を抑えるためにもぎゅっと抱きしめた。
「風呂入ろうな。キレイにしてやるから」
「クク、の…ばか…きらい…ぅぅ…」
「ごめんごめんごめんごめん…」

  **

その後数日かけてククールはゼシカのご機嫌をとる羽目になるのだが…
と同時に、すっかりバレていることを「ゼシカには黙っててやる」という条件の元、
仲間たちの精神的苦痛の慰謝料を、パシリという形で支払うことにもなる色男だった。







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最終更新:2010年05月10日 11:56
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