ぎこちなく伸ばされた手を、気がついたら思いっきり払いのけていた。
視界の隅に大きく見開かれた瞳が、傷ついた色を灯していた事を確認できたが
俺はそのまま「ごめん、ちょっと用事があるから」とそっけなく言ってその場を離れてしまった。
急に触れられると、彼女に触れた時の感触がリアルに甦ってきてしまい、
自分をコントロールできなくなってしまう。
レディを前に気が利いた対応が全くできない。言葉が浮かばない。
こんな事は始めてだった。
──どうかしていた。
──薬のせいだ。
そんなの、言い訳にもならない。
最低だ。最低最悪な事をしてしまった。
何よりも大切にしたかったものを自らの手で踏みにじってしまった。
綺麗だった彼女を、俺が──。
彼女は何も知らなかった。
まだ性の事を何一つ、キスの仕方すら知らなかった無垢な彼女に対し、
慈しみ労わりながらではなく、己の欲望をひたすらぶつけてしまった。
ゼシカの甘い声が、潤んだ瞳が、白くて柔らかい肌が、
何もかもが俺を煽り滾らせ、俺は夢中で彼女に貪り付いた。
あんな薬を飲んだだけで意識が完全に飛んでしまう程軟じゃない。
今時分が何をしているか、今触れているのは誰なのか…、
分かっていて俺は───
「クソ…ッ…」
反吐が出る。
状況を利用する事が悪い事だとは思わない。
今までもずっとそうやって生きてきた。
だけど、彼女にだけは誠実でありたかった。
絶対何者にも汚させず騎士として守り抜く。
──そう固く誓ったはずなのに…。
「…俺が汚してどうすんだよ…」
未だかつてないほど最悪な気分だってのに、
彼女と過ごした甘美な一時が俺の中にこびり付いていて、
欲望の芽が次から次へと膨れ上がってくる。
自己嫌悪で押しつぶされそうな気持ちとは裏腹に、
ゼシカをまた滅茶苦茶に抱いてしまいたい衝動が俺を絶え間なく襲う。
………頼むからゼシカ、俺に近づかないでくれ。
俺の自制がこれ以上効かなくなる前に、俺から逃げて。
最終更新:2010年05月10日 18:26