ピロートーク

世界の中心、三大聖地の中でも巡礼の終着地と言われる聖地ゴルド。
エイトたちがこの聖なる町に辿り着いたのは、日が暮れてからだった。
調べたい事は沢山会ったが、旅の疲れもあり今夜は休む事になった。
さすがゴルドというべきか、参拝者が多い。世界中の信心深い巡礼者が、この聖地のシンボルである岩山に刻まれた巨大な女神像をひと目見ようと集まってくるのだ。
ゴルドの宿は既に満床で、床に敷物と毛布で寝ることになった。

夜も更け人々が寝静まった頃、ゼシカは目を覚ました。
浅い眠りの中で見た夢は、酷く恐ろしいものだった気がする。額が汗ばんでいる。気分が悪い。
ゼシカには解っていた。あの、女神像のせいだ。
荘厳な女神は恐ろしく大きく、岩肌の質感のせいか、眼下を見下ろすその目は厳しく、冷徹であるとさえ思える。
ゼシカは先刻のククールの申し出を断ったのを思い出した。

『そんなに怖いなら、今夜は添い寝してやろうか?寝つくまで子守歌を歌ってやるよ。』


衝立てで個別に間仕切られてはいるが、この部屋にはエイトたちばかりでなく他の一般客数人も床で寝かされていて、なかなかの大所帯になっている。
ゼシカは足を忍ばせククールのそばに近付いた。
「ン…?何だ?」
さすがに騎士だけあって、すぐにゼシカの気配を感じてククールは目を覚ました。
「ゼシカか?どした?」
「ゴメン。やっぱりどうしても女神像が怖くって…。」
ゼシカは気まずさで俯く。自分は何をやってるんだろう。顔が熱くなる。
「なんだ夜這いじゃねーのか…まぁいいか。添い寝だろ?」
ホラ、とスペースを開けてくれるククールの隣に、ゼシカは何が夜這いよ、とブツブツ言いながら横になった。
「何かしたら承知しないからね。」
---それが人にものを頼む態度かよ。ククールは警戒もあらわに念を押すゼシカに苦笑した。
「しねぇよ。ゼシカとの初めての記念すべき夜は、パリッパリの白いシーツつきの、フッカフカのバカでかいベッドがある、月明かりが良く入る窓があるコギレイな部屋でって決めてんの。オレは。」
ククールは思い付きにしては具体的な事を真顔で言った。
「何よソレ…。」
ゼシカはアホらしさに脱力した。呆れて怒る気もしない。
「こんな状況じゃ何する気も起きねーよ。」
ククールは不快極まりないといった感じで衝立てを指差した。さっきから聞こえる一際大きいいびきはヤンガスのものだろうか。確かに聖地にあるまじきむさ苦しさだ。
「女神さまも、見てるしな…。ま、ゼシカは勘がいいよ。あれ、ただの石像じゃない。」
「ちょっと!恐いこと言わないでよ!ただの像じゃなかったら、なんだっていうのよ!」
「知らねぇよ。そんな事。あんまりイイ感じはしないって言ってんの。一応僧侶なんだぜ?オレは。」
何が僧侶よ---と言いたかったが、ゼシカは黙った。ククールが良い・悪いに関わらず、そこにいる何らかの気配を感じ取るような事はこれまでにもあって、それが外れない事も承知していたからだ。

それにしてもなんだろう、この宿屋は。宿屋の主人が『満床だから床で寝てくれ』と200ゴールドも取った上で当たり前のように言った事をゼシカは思い出した。
常に人が集まるこのゴルドでは当たり前の事なのかも知れないと一度は納得したのだが、女性である自分にくらいもう少し気を使ってもいいんじゃないだろうかと思う。
敷物があるとはいえ、伝わってくる床の固さにゼシカは顔をしかめた。
「ゼシカ、ちょっと一回起きな。」
不意にククールが言った。
ゼシカは言われるがままに半身を起こすと、ククールがその場所に腕を伸ばした。
「どうぞ。」
意図するところを理解できず、訝しげに見返す。
「はぁ?」
「枕ないから。どうぞ。」
腕枕。紳士的なのか、下心からなのか、ククールの平然とした表情からは全く読めない。
勘ぐる方が品がないような気がしたので、ゼシカは大人しくそこに頭を乗せ、ククールを見た。
ククールはというと、下心があったわけではなかったが、ゼシカからひと言ふた言はあると思っていたので、あまりの素直さに拍子抜けした。

「…………。」
「…………。」
黙って見つめあう形になってしまい、変な間が流れる。
ククールがなんとか話を切り出す。
「え~と、それでオレは子守歌を披露するべきなのか?」
ゼシカは吹き出した。ククールは照れているらしい。
「それはいいわよ。ククール音痴そうだもん。」
「色男が音痴だというセオリーは、オレの場合通用しないんだけどな。」
そう言いながら、ククールも笑った。
眠くなるまで二人は色々な話をした。子供の頃の事。それぞれが使える魔法の事。エイトやヤンガス、トロデ王、ミ―ティア姫の事。
ゼシカはいつの間にか、女神像の事を忘れた。

それからククールは本当に子守歌を歌った。教会の聖歌。
それは意外にも上手くて、小声ながらも通りのよいバリトンの声はゼシカを安心させた。

---ああ、コイツ本当にとんでもないタラシだわ。気を付け無くっちゃ…。

そんな事を考えながら、ゼシカはゆっくりと眠りに落ちた。
ククールはゼシカが寝付いたのを確かめると、肩の上まで毛布を引き上げてやった。
腕が痺れたので肩のほうにゼシカの頭を乗せ直し、これ位許されるダロ、と前髪にキスして、自分も眠るために目を閉じた。

翌朝二人は、早起きしたエイトたちにくっついて眠っているところを見つかってしまい、散々冷やかされた。
ククールはあらぬ事まで認め、ゼシカは必死に釈明した事は言うまでもない。






最終更新:2008年10月23日 11:50
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