2-無題5

ここは砂漠の教会。
昼間はぎらぎらとした太陽が、容赦なく照りつけるこの一帯。
すでにベルガラックのユッケが竜骨の迷宮の入り口で待っているというが、
迷宮への道のりは、思ったより厳しかった。
遠い道のり、慣れない暑さに一行はほとほと参りながらひたすら目標を目指していたが、
「あ…暑すぎる!ワシはもう我慢できん!」
この状態では逆に探索の効率が下がるわい!というトロデの言葉で、
一行は教会の影に馬車を停め、しばしの休憩を取ることとなった。
各々水を飲んだりと、ほんの少しの涼を求める。

「はぁ…砂漠ってば木陰もないんだから、この暑さは本当に参るわね…」
ゼシカはひと息つきながらうんざりといった表情でつぶやいた。
豊かな胸元に汗の粒が光る。
「俺なんて一番厚着だから最悪だぜ?」
ゼシカを尻目に、ククールはどうだとばかりに自慢にならない自慢をしてみせた。
ククールはマントと上着、さらに手袋もはずし、手のひらでぱたぱたと顔に風を送っている。
「マヒャド、覚えたてだけど味わってみる?涼しくなるわよ~」
クスっと笑ってゼシカは舌を出した。
「え、遠慮しとく…でもな、マジで暑すぎるって…ほれ」
そう言ってゼシカの頬に手の甲を押し付ける。
「ちょっと、どこ触ってんのよ!」
ククールはふにふにと柔らかいゼシカの頬に触れた途端、嬉しそうな顔になった。
「あーー、ゼシカのほっぺた、冷やっこくて気持ちいいな…」
「バカ、あんたが熱すぎるだけなの!…もう、いつまで触ってんの!」
顔を赤らめながらゼシカはククールの手を振り払う。

まったく、油断するとコイツはいつもこうなんだから…。
「おいおい、何もそんな嫌がるこたねーだろ?」
「アンタのそういう所を黙認してたらね、体がいくつあっても足りないのっ!」
「へいへい…俺が悪ぅございました」
肩をすくめてククールはゼシカの隣に座り込んだ。
まったく…とぶつぶつ言いながらも、ゼシカもククールの横へ腰を下ろす。
影になっているとはいえ、風も吹いていないので暑さはあまり変わらない。
相変わらずククールは暑そうにして、ほんの少しだが肩で息をしている。
さっきのふざけた表情はもう消え失せて、いつもの端正な横顔がそこにあった。
筋の通った鼻筋にも汗の粒が光っている。
ゼシカは、先程ぶっきらぼうに手を振り払ったことを少し後悔した。

「ん?…どした?」
ククールは自分の右手を見てゼシカに問いかけた。
右手の上にはゼシカの小さな左手がちょこんと乗せられている。
ゼシカは目を合わせずにうつむき、
「…だって、アンタの手、ほんとに熱かったんだもん。…これなら少しは涼しくなるかなって」
「心配してくれてるのか?」
「うっさいわね!つべこべ言うと手、離すわよ」
「…ハイ」
しばらく大人しく従っていたククールだったが、
やがて手のひらをゆっくりと返し、ゼシカの指をからめた。
ほんの少しだけ、ゼシカの指がぴくんと跳ねる。
「…そのままな」
ぽつりとククールのその言葉に、ゼシカはさらに恥ずかしそうにうつむいた。
自分の鼓動が伝わってしまうのではないかと、さらにゼシカの鼓動は早くなっていく。

「なんか体温、同じくらいになってきたな…」
「……バカ、私が熱くなったの」
ゼシカがぽつりと言う。自分でもかなり恥ずかしい台詞だと思った。
「嬉しいこと言ってくれちゃって。よし!とりあえず俺は3日手を洗わないって決めた!」
「またバカなこと言って…」
「俺は本気だぜ?」
「もう…知らない!」
冗談でも、真っ直ぐにそんな嬉しそうな瞳で見られてはたまらない。
ゼシカは立ち上がってぷいっとエイト達の方へ走っていった。
その顔は暑さのせいかはわからないが、真っ赤になっていた。

ひとり取り残されたククールは、小さくなっていくゼシカの背を見つめながら
「ったく…キツいんだか優しいんだかわかんねぇな、俺の姫さんは…」
そう言って右手の甲にくちづけた。
「…さーて、そろそろユッケちゃんの元へいきますかね!」
そしてククールもゆっくりと立ち上がり、馬車へと向かっていった。
自身もまた、胸の高鳴りを感じながら────







最終更新:2008年10月23日 11:51
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