次の目的地に向かうその道中で、ゼシカの小さな異変に気付いたのはククールだった。
「ゼシカ、足どうした?」
ククールはゼシカの腕を取り、その顔を覗き込んだ。
「どうもしてないけど?」
ゼシカは嘘をついた。本当は左の足首がキリキリと痛む。
少し前に木の根につまづいた時に捻ってしまったのだ。
出発したばかりであったし、大した事じゃないと思い我慢して歩いた。歩いているうちに痛みが増してきた。痛めた部分が熱をもって脈打つのを感じた。それでも更に我慢した。
ゼシカは普段から、泣き言めいた事を言うのを必要以上に嫌っていた。女性である事に気を使われたくはなかった。
上手く自然に歩いていたつもりなのにどうしてバレたんだろう、とゼシカは内心思った。
「……。」
ククールは面白くない、といった顔で黙った。そして不意に掴んでいたゼシカの腕をそのまま自分の方にちょいと引いた。ゼシカは体勢を崩す。すかさずゼシカの膝の下に自分の右腕をくぐらせ、ふわりと身体ごと両腕で抱き上げた。
「何すんのよ!下ろしてよ!」
「ヤだ。」
ククールはゼシカの喚きたてる声を気にせず、そのまま歩きだす。
ゼシカは自力でこの状況から脱出しようと手足をじたばたさせるが、それが状況を更に不利にする。足首に響くような痛みが走った。
「い…った…。」
「それみろ。頑張り屋サンなのも結構だけど、人の好意に甘える事もそろそろ覚えないとな。可愛くないぜ?」
「可愛くなくて結構です。」
ゼシカはプイと横を向いた。それからもう一度ククールの方に顔を向け、ちょっとだけ憎らしげに上目遣いで見た。何故か頬を赤らめていた。その様子を見てククールは笑みを零した。
「お、やっぱり可愛いカモ…。」
「~~~~~!」
ククールの減らない口にやり返す術を無くしたゼシカは再び暴れだす。ククールは慌ててポカポカと胸や顔や頭を叩いてくるゼシカを落とさないように押さえ込んだ。
「次の町はもうすぐだ。このまま抱いてってやる。」とククールが言った。
「フン、だ。重いからあんたの腕なんか折れちゃうわよ?」とゼシカが返す。
「あ~、ほんと~に重~。」とククールが大袈裟に空を仰ぐ。
「ムカつく。」と更にゼシカがふてる。
「うそうそ。」ククールは微笑む。
『---一生やってろ!!!!』
エイトとヤンガスとトロデとミーティアは、心の中で一斉に言った。
仲良く楽しそうにじゃれている(様にしか見えない)二人を努めて無視して馬車は進む。
ホイミしろよ…とつっこむ気にもならないエイト達であった。
最終更新:2008年10月23日 11:52