2-無題8

「何やってんのよあんたはぁっっっっ!!」

「な、何ごと?」
凄まじい怒声に、杓子を持ちつつ様子を見に来たエイトが目にしたものは、
ククールと、顔を真っ赤にして怒るゼシカであった。
(ゼシカのあの構えってもしかして…)
「って、わあああっ! ストップストップ! ゼシカ、落ち着いて!」
「止めないでエイト。今日という今日はマダンテ撃たなきゃ気がすまないわっ!」
「ゼシカ、こんな所でマダンテ撃ったら僕たち心中だよ。その上森林破壊だよ。
 とにかく落ち着いて!」
結局エイトだけでは抑えきれず、ヤンガスの加勢がやって来るまで、
ゼシカを落ち着かせるのに数十分かかった。
朝食作りの途中だったエイトは少しの間ヤンガスに任せて、真っ直ぐ二人に切り出した。

「あのさ、ククール。僕はゼシカを起こして来るよう頼んだはずなんだけど。
 一体何したのさ?」
「それは二人だけのヒミツ。 な、ゼシカ?」
「…殺すわよ?」
茶化すククールにゼシカの氷山のような視線が突き刺さる。
往生際が悪いククールは、それでも自分の否を認識しようとせず、全く反省してい
ない様子で言った。

「ゼシカがなかなか起きないのが悪い。声掛けても、鼻摘んでも、耳元で囁いても
起きないんだもんなー。」
「…私が寝てる間に何したって……?」
ゼシカはこみ上げる怒りを抑えて、眉をぴくぴく吊り上げながら声を絞り出した。
エイトは深くため息をついた。
同時に、何かとてもくだらない予感がした。

「だから、ここは王子様のキスしかないと思ったわけよ。」
「…は?」
「どういう理屈でそうなるのよ!」
「現に直ぐ起きたじゃん、お前」
「そういう問題じゃない!! 私のファーストキスを返せ!」
「んな大袈裟な…。おでこにちょこっとしただけだろ?
いいじゃねえか、減るもんじゃなし。」
「なんですってえ!」
「オレみたいな美形のキスで起こされたんだからラッキーだろ?
それに、あんなのはキスのうちに入らねっての。 ど?本当のキスってのを教えて
やろうか?」
「…ゼシカ。ヒャド系なら構わないよ。」
「エイト、てめえっ!」

(………ばかばかしい)
呆れたエイトは言い争う声を遠くに聞きながら、その場を後にした。
「変わるよ、ヤンちゃん」
そういいながら、ヤンガスから杓子を取ると、朝食を器用に小皿に移していく。
「ここまで聞こえてきたでがす。まったく、痴話げんかでがすか?」
「そうみたいだね。」
苦笑いしながらエイトは答えた。
「でも今日は兄貴、大人しいでがすね。いつもなら『レディの寝込みを襲うな!』
ってギガスラッシュしそうなものなのに…。」
「まあ、ゼシカもまんざらじゃないみたいだしね」
「そうでがすか? …あっしにはよく分からないでげすよ。」
「あはは。 でも、女癖の悪さを治すまではうちのゼシカはやれないなぁ」
エイトは冗談混じりに笑うと、移し終えた小皿を綺麗に並べた。
「そろそろ終わったかな? 朝食できたし、呼びに行ってくるよ。」
「やれやれ、全く兄貴も過保護でげすな。」

空は高く、澄み渡っている。
今日も一行は、世界を救うべく歩き出すのだった。






最終更新:2008年10月23日 11:53
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