トンネルを抜けるとそこは雪国であったが、情緒もへったくれもあったものではなかった。
吹雪が針の束のようになって容赦なく一行に襲いかかってくる。
ふとククールが振り返ると、すぐ後ろを歩いていたはずのゼシカがはるか彼方で立ち尽くしてしまっていた。
初めて見る雪景色に感動しているなどという風情とは違う。明らかに様子がおかしい。
「ゼシカ?ゼシカ!大丈夫か!?」
駆け寄って叫ぶククールの声にハッとして、ゼシカは頭をぶんぶんと振る。
「ううっ。あまりの寒さに意識が朦朧としてたみたい」
そう答えるとゼシカは両肩に手を当てて震えた。
「リブルアーチに防寒具が売ってれば良かったのに…。何よ、まほうのビキニなんて訳の分からないものを…」
ゼシカがぶつぶつと愚痴を言いながらも歩き出したので、ククールはホッと胸を撫で下ろした。
しかし吹雪は変わらずその勢いを保ち続け、一向におさまる気配はなかった。
こんな状態ではまたいつ何時ゼシカの意識が怪しくなってもおかしくはない。
そう危惧したククールは、今度はゼシカの背を見る位置で歩く事にした。
ゼシカのすくめられた剥き出しの肩が小刻みに震えている。
自前の断熱材に恵まれているあのヤンガスでさえ音を上げている状態だ。
この寒さではさぞかし辛いことだろう。
ククールはそう思い、制服のケープを外して震えるゼシカの肩にそっとあてがった。
「きゃ?!びっくりした!」
予期せぬ出来事だったようで、ゼシカは驚いて振り向く。
「こんなものでも、あれば少しはマシになるだろ?」
「うん、ありがとう。あったかい」
ゼシカは笑みを見せながらケープを受け取り、両手で襟元を合わせた。
「あはは、大きいからすっぽりくるまれちゃうわ」
そう言いながらゼシカはククールの前でくるりと身体を回らせてみせた…………
(……ってな感じの筋書きだったんだけどなぁ…)
ククールはベッドに腰掛け、ゆっくりと海より深いため息をついた。
苦々しい表情で毛布を握り締める。
「雪崩の…ばっかやろう!」
そのまま背後に倒れ、ボフッと音を立ててベッドに大の字に横たわった。
「…ククール?」
奥のベッドに寝かされていたゼシカが起き上がって部屋の様子を伺う。
「雪崩がばかやろうなのは賛成だけど、みんな助かったみたいだし、いいんじゃない?」
「よくねぇんだよ…」
「なんで?」
歩み寄ってきたゼシカはベッドの上に大の字になったままのククールを覗き込む。
「いや、こっちの話さ」
「なによそれ?わけわかんない」
やや呆れ顔になったゼシカの大きな瞳を見つめながらククールはにやりと笑い、起き上がった。
~ 終 ~
最終更新:2008年10月23日 11:53