一番スゴイのがスブやんの死にざま



これが70年代の「ベストセラー作家」だったというのをインターネットで調べて驚く(ちなみにこちらもカッコイイ!)。まったく痛々しいほどの描写が続き戸惑うかと思えば、何時しか「ぐいぐい」と引き込まれていた。もともとこのような過激な文学に「憧れと興味」は持っていたつもりだったが、これほど「衝撃」的な作家だとは思っても見なかった。かといって暗く重い雰囲気はなくって、むしろポップで「突き抜けた」面白さだ。中原昌也はセリーヌなのかと思ったら、むしろこちらの影響のほうが大きいのだろうか。とにかく考えられる卑劣、苛烈、妖艶、猥雑このうえない、いやとても考えの及ばない所にまで話しは進む。

「エロ事師」というまず聞き慣れない名前。ようするに「あらゆる享楽の手管を提供する」不法なエロ商売をしている人達なのだが、「エロ道」というか「エロ哲学」というか、いやそんな簡単な言葉では表現できない!、とにかくそこへかける男達の「生きざま」がすごい。作中どんどんエスカレートしていく姿には、もう「やめたら・・」と思うほど凄まじい。その描写たるは、単なるエロ小説へと向かわない著者の観念的エロス、そして深淵なる森の奥底どこまでも・・。さらに関西の無頼達、いや実際はエロの「プロテスタンティズム」とでもいうべき忠実な働きぶり、しまいには膨大な「エロ構造改革」とでも言うばかりの思想突き抜けぶり・・。しかしその幹部「スブやん」実は義理の娘に手を出しかねて、それ依頼「不能」になる。散々に極エロ狂乱を仕込んで置いて自分はなんとも性的な興奮から遠ざかっていく始末。

「ブルーフィルム」の撮影風景。ピンク映画製作日誌かのような、詳細な手法の数々。これにはなんとも臨場感があり、最近のピンク映画再ブーム(今年のPFFでも特集!)にも乗りそうな勢い。

人の死に対する扱いもスゴイ。「ややこ」死ねば川へ弔い、「妻」亡くなればブルーフィルム流して弔い、「エロ仲間」亡くなれば棺の上で麻雀弔い。死への恐れ悲しみなど全く何処吹く風、ところがむしろ目頭熱くなるような思いやりに感じられるから不思議だ・・。そして一番スゴイのがスブやんの死にざま・・娘も大笑い・・。ここに流れている著者の死に向かわしめる「たくましさ」、(それが「たくましさ」なのかもとより分からないが)あるいは遙か遠い絶望からの視点、その正体はとてもこの1冊を読んだだけでは理解出来ない・・。

2002.05.22k.m


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最終更新:2009年03月12日 00:33