1996年、他界したクシシュトフ・キェシロフスキが、クシシュトフ・ピエシェヴィッチと共同執筆した遺稿。“HEAVEN、 HELL、 PURGATORY(天国、地獄、煉獄)”の三部作のうち、唯一キェシロフスキが書き上げた幻のシナリオ。とのこと。
この監督のは「トリコロール」や「デカローグ」などを何作か。見ているときよりもそれを思い出しているときのほうが好きな作品ばかりだ。それは個人的にフランス映画に多いパターンで、「ディーバ」や「ポンヌフ」などもそんな印象。
基本的に映像がとても美しく、雰囲気優先のものに多いが、あくまでも印象というのは大事で、入り方も変わってくる。つまり楽しめるスパンが違うのだ。これらの映画のすごいところは、「あたり」の良さから想い出に「変わって」いく全てに置いて、色あせない力強さをもっているところではないか。
さて。俯瞰の多いアングル、無音に時間を刻む状態、コントラストの強い映像。第一印象はしっかり押さえられた・・。トリノの街はどこかおとぎ話のように幻想的でもあり、生々しい現代を描く舞台としても際だっている。クシシュトフ・キェシロフスキへのオマージュとしてつくられたであろうこの作品は、静かながらも志向性の強い、はっきりとした映画だ。
主人公(ケイト・ブランシェット)の未亡人女性が爆弾犯として追求され、翻訳担当としてあてがわれた刑務官フィリッポとが、やがて恋に落ちていくというお話。憲兵と麻薬売人との癒着など、腐敗した社会を描く部分はちょっと在り来たりにも感じた。けれど本題はきっとそこにはない。
どこか世の中を諦めきったような目で、未亡人に惚れてしまいまっしぐらに突き進む青年のひたむきで一途な姿。そこへケシェロフスキ映画に見られた、危険なまでの人間の暴走のようなものを感じた。それこそが、「ラン・ローラ・ラン」のトム・ティクヴァ監督が描きたかった情念なのではないか。
何度か憲兵の裏をかいて危険を逃れていく二人だが、果たしてこの場合「無惨で美しい」終わり方が予想される。様々に描かれてきた逃亡の末の終焉劇。「私は終わりを待っているの」と言っていたケイト・・。何とも鮮やかに、そして美しく、静かに終わっていった。してやられた。ヘヴンだもんなぁ・・。全体の雰囲気はかなり良い。2003-12-07/k.m
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