精神科医である著者が様々な若者へのインタビューを通して、現代の若者論を印象論や価値判断から自由な形で展開する。著者は医学博士爽風会佐々木病院勤務。専門は思春期・青年期の精神病理学。著書に「社会的ひきこもり」など・・・。
雑誌「広告」にて掲載されていた頃、東浩紀氏の執筆と合わせて、とても面白い企画ばかりが目立っていた。バックナンバーを探して買い集めてしまったほどだった。今回単行本になって、あらためて読みなおしてみても、その面白さは変わらない印象だった。
精神分析とサブカルチャーをからめて論じた著者の試みは、社会学と風俗をからめている宮台真治を初めて読んだころの興奮を思い出す。こういった態度は、批判も誤解も多くはらんでいるのだと思うが、面白い読み物であれば僕はそれでいい。宮台さんもなんか古くさい感じに見えてしまう著者の語りは、やはり東浩紀を中心に語られている「フラットな現代」論の流れなのだろう。ラカンなど難しくて全く受け入れられない僕なんかへも分かるように、現代の色々な精神病理を記述していく試みはとても刺激的だ。
インタビューが多いのもこの本の特徴だろう。フィールドワークには現実という一番の刺激物と向き合う志向がある。ただ、著者の思考が補強されているそれら若者へのインタビューには、やや門切り型な態度ばかりが目立つ。それらはいったいどのくらい若者の社会を映し出せているのだろうか。著者の分析は明快かつ大胆なので、十分に楽しめるのだが、それゆえにサンプリングされた若者の態度が空しく感じてしまう。全てを見通せるはずはないのだし、著者もそのことを前提に語っているのだが。何々系で語られてしまう「若者」とは、いったい・・。2001.08.11/k.m
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