標記準備書の内容を環境保全の専門的見地から審査した結果、環境影響評価書( 以下、「評価書」という。) の作成及び事業の実施にあたっては、以下の事項に十分配慮する必要がある。
[全般的事項]
(1)準備書全般において、説明が不足しているもの、根拠に乏しいもの、記載漏れや記載ミスが目立つ。また、用語の不統一や不正確な表現も見られる。
評価書の作成に当たっては、記載内容を照査し、正確で理解しやすい図書となるよう十分配慮するとともに、調査地点の選定や予測手法の内容及び評価の記載については、その結果に至る根拠を示し、結論のみの記述とならないようにすること。
(2)準備書において、引用データの出典が明らかでないものが見られる。評価書の作成に当たっては、引用したデータや文献等について、どの資料等によるものか、その出典や根拠を明らかにすること。
(3)評価書の作成に当たっては、文書体系を整理して、読みやすい構成とするよう努めるとともに、重要な項目の説明については、関係する各項で詳細に記述し、理解を助ける努力を行うこと。
(4)「事業の背景と目的」において、水俣市が取り組んでいる「環境モデル都市づくり」や資源循環型のまちづくりを目指した「水俣エコタウンプラン」と当事業の関連について記述しているが、水俣エコタウンプランそのものが当事業の一部として関わっているような印象を与える表現となっている。
評価書においては、当処分場への水俣エコタウンからの搬入量及びその他搬入が予想される地域やそれぞれの搬入量等の計画を明確にした上で、「環境モデル都市づくり」に取り組んでいる水俣市を建設地として選定した理由及び「水俣エコタウンプランと連携させたコンセプトを計画の中でどのように展開させるのか」など、当事業の背景と目的を改めて明らかにすること。
[事業計画に関する事項]
(1)「排水処理フロー」において、原水水質についての記載がなく、排水処理が適切に行われるかを判断することができないことから、評価書においては、想定される原水水質を明らかにし、それが各工程でどのよう変化していくのか、その処理工程で計画処理水質が達成できる根拠も含めて、わかりやすく記載すること。
(2) 埋立地は、盛土構造で堆積の高さも高く(最大埋立高50m)、大量の埋立
廃棄物による重圧や地震等に対する埋立地の安定性の確保が重要であることから、評価書においては、その根拠を明らかにすること。
(3)貯留堰堤の法面は、雨水による侵食を受けるおそれがあることから、法面の緑化等侵食対策が必要である。評価書の作成に当たっては、法面の緑化に関する植栽計画について、盛土の土壌の特性も併せて明らかにすること。なお、法面の緑化には、現地の植物を利用する等、生態系の保全に配慮すること。
(4)遮水シートを含む遮水工については、地下水汚染防止を図る上で重要な施設であるが、当事業は埋立高が最大50mとなること及び事業実施区域近くには出水断層等の活断層が存在していることから、評価書においては、埋立廃棄物の重圧による不等沈下、地震等の物理的な負荷に対する遮水工の安全性及び長期的な安全対策を説明すること。また、浸出水による化学的な反応に対する安定性についても併せて説明すること。
(5)遮水シートが万一破損した場合の補修対策について、廃棄物が厚く埋め立てられた状態(埋立高最大50m)でどのように補修を行うのかなど、具体的な補修対策について明らかにすること。
(6)「埋立計画」の「埋立物の搬入ルート」において、予定している二つの予備ルートは、「大型車通行禁止」及び「未完成」で通行できない状況で-3 -あることから、評価書においては、「埋立物の搬入ルート」についての記述を見直すこと。また、廃棄物搬入車両に係る運行管理計画を明らかにすること。
(7)「跡地利用計画」において、「埋立終了後の埋立地及び覆土・残土置場の天端は、多目的広場として人と自然とが触れ合える場所とする計画」としているが、具体的な跡地利用計画が明らかでない。評価書の作成に当たっては、現時点において想定している跡地利用計画について、その維持管理計画を含めて明らかにすること。なお、跡地利用の計画を策定する際は、積極的な緑化等による生態系の回復に努めるなど、環境保全に配慮すること。
[大気環境]〈大気質・騒音・振動・悪臭〉
(1)「環境影響評価の項目の選定」において、「最終処分場の設置の工事」による窒素酸化物の影響が選定されていない。当事業は規模が大きく、設置工事に使用する重機等も多数となることから、「廃棄物の埋立」と同様に「最終処分場の設置の工事」による窒素酸化物の影響についても評価項目として選定し、予測・評価を行うこと。
(2)「気象の状況」の「② 現地調査」において、調査方法は「『地上気象観測指針』に従い実施した」としているが、気象観測を行うに当たって必要とする基本的な事項をまとめた「気象観測の手引き(平成10年9月気象庁)」が示されていることから、同手引きに基づき、風向・風速の調査地点、調査方法が予測・評価を行う上で適切か検証すること。
(3)「廃棄物の埋立による粉じんの影響」において、「予測項目」には、「廃棄物埋立機械の稼働により発生が考えられる「粉じん」とした。」と明記されているが、「予測の基本的手法」では、風速による粉じんの飛散の可能性を定性的に予測するのみとなっており、廃棄物の埋立時における、搬入車両の搬入や荷下ろし及び重機が稼働することに伴い発生する粉じんによる周辺の生活環境への影響について予測・評価されたものになっていない。
廃棄物の埋立時における粉じんの影響については、埋立物の特性や埋立作業の際の搬入車両や埋立機械による作業状況を十分検討した上で、「最終処分場の設置の工事による粉じんの影響」と同様に予測式による予測を行うこと。
また、廃棄物搬入を分散させる計画としているが、このことにより、廃棄物を搬入してから覆土を行うまでに時間が空き、廃棄物の飛散につながらないか検討すること。
(4)「最終処分場の設置の工事による騒音」の予測については、点音源からの伝搬理論予測式によって、エネルギー加算して求めているが、準備書に記載してある騒音発生源データ及び予測式で求めた値では、騒音規制法の規制基準との比較ができないことから、適切な予測方法で予測し、改めて評価すること。
(5)「埋立物運搬車両による騒音の影響」のNo.2地点は、運搬車通行ルートの県道水俣出水線のうち、道幅が狭く民家が隣接して交通量も多い通称「平通り」から離れた地点であり、県道水俣出水線の道路交通騒音を代表していないと考えられることから、交通量、路面状況、車線数、環境基準の類型当てはめ等を勘案し、改めて「平通り」で調査地点を選定し、調査・予測・評価を行うこと。また、等価騒音レベルを基に面的評価を行い、環境基準との整合を評価すること。なお、「平通り」は第1小学校、第3中学校、水俣高校の通学路でもあることから、騒音・振動のみではなく、歩行者に対する安全の確保、大型車通行による渋滞の発生等も考慮し、車両の運行管理計画を策定の上、対策を講じること。
(6)「埋立物運搬車両による騒音の影響」の評価において、騒音規制法の「自動車騒音の要請限度」を環境保全目標値として使用しているが、要請限度については、市町村長が道路管理者等に対して自動車騒音を減少させるよう必要な意見を述べるための基準であることから、生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準である「騒音に係る環境基準」を環境保全目標値とし、予測・評価を行うこと。なお、環境基準を目標値とした場合、No.1地点の予測結果は、この地点の環境基準値を超えていることから、環境保全措置を検討すること。
(7)「最終処分場の設置の工事による騒音の影響」について、騒音源としてブルドーザー、大型ダンプ、バックホウが挙げられているが、伐採木をチップ化するチップ製造機は騒音源として挙げられていない。チップ製造機の騒音はこれらにも増して大きく、しかもかなり長期間、建設機械等の騒音源と同時に稼働することになるものと考えられることから、騒音の影響については、このチップ製造機及び関連重機等を騒音源として追加し、予測・評価を行うこと。
(8) 振動に関しては環境基準がないために、「埋立物運搬車両による振動の影響」において振動規制法施行規則の道路交通振動の限度(L10) を環境保全目標値として適用しているが、本来L 10は、交通量が多く連続的に大きく変動する振動レベルに適用すべきものであり、閑静で大型車の通行量が少ない地域では環境保全目標値として適用することは適当ではない。道路交通振動の影響については、特定建設作業振動の周期的・間欠的な場合と同様に、変動毎の最大値の平均値で予測・評価を行うこと。
(9)「埋立物運搬車両による振動の影響」のNo.2地点は、通称「平通り」から離れた地点を設定しているが、民家が隣接し交通量も多い「平通り」の最も影響が大きいと思われる地点で、改めて調査を実施し、予測・評価を行うこと。
(10)「廃棄物の埋立に伴う悪臭の影響」において、「埋立後は、即日、覆土作業を行う。」ため悪臭の影響は少ないと、定性的に予測しているが、廃棄物を搬入してから覆土を行うまでの間に発生する悪臭、及びガス抜き管から排出されるガスによる悪臭も予想されることから、これらの悪臭についても、臭気拡散モデル等の適当な方法で、定量的に予測・評価を行うこと。なお、予測に不確実性を伴う場合は、事後調査を行い、必要に応じて環境保全措置を講じること。
(11)当事業では、焼却灰も埋め立てる計画となっているが、焼却灰にはダイオキシン類が含まれており、飛散しやすいことから周辺の環境に影響を及ぼすことも考えられる。ダイオキシン類については、「ダイオキシン類対策特別措置法」により環境基準が定められていることから、大気・水質・底質・土壌におけるダイオキシン類について、調査・予測・評価を行うこと。なお、予測に不確実性を伴う場合は、事後調査を行い、必要に応じて環境保全措置を講じること。
[水環境]
〈水象・水質・地下水〉
(1)防災調整池については、造成工事期間中は仮設防災調整池としているが、造成工事期間中も仮設でなく、「開発許可申請に伴う調節池設置基準(案)熊本県河川課」に基づく調整池を設置すること。また、調整池とは別に、造成期間中の土砂流出防止のために、仮設沈砂池を設置すること。最終処分場の設置の工事による水象及び水質への影響については、調整池及び仮設沈砂池の設置を前提として、改めて予測・評価を行うこと。
(2) 事業実施による水象への影響を予測する上で「防災調整池容量」、「浸出水調整池容量」、「日最大放流量」及び「日平均放流量」が重要であるが、算出根拠が明確でないことから、評価書においては、その算出根拠を明らかにすること。
(3)「廃棄物の埋立」による水質の「富栄養化」への影響は、放流水が適切に処理されたものであること、海域に出るまでに河川の希釈効果があることなどから評価項目に選定されていないが、その根拠が明確でない。
処分場からの大量の排出水が、湯出川、水俣川を経て閉鎖性海域である八代海に注ぐことによる八代海の富栄養化への影響を否定することはできないものと考えられることから、本事業による負荷が加わった場合の富栄養化への影響について、評価項目として選定すべきか改めて検討し、選定しない場合には、必要がないと判断した根拠を明らかにすること。
(4)地表地質踏査とボーリング調査結果からまとめた「地質平面図」では、地層の年代的な上下関係が、凡例(地質構成表)と図上で相違があり、構成地質の時代論を踏まえたものになっていない。
また、溶岩や火砕流、凝灰岩などは連続性に乏しいのが一般的であるにもかかわらず、「地層断面図」では各地層が単調に連続したものとなっており、地質構造を十分に把握した上で作成されたものとはいえない。事業による周辺地下水への影響を予測する上で、地質構造を十分に把握することが必要であることから、改めて地質調査を行い、地質層序を明らかにして、「地質平面図」及び「地層断面図」を見直すこと。
(5)「地下水水位、流向調査結果」では、地下水が標高の低いところから高い方へ流れているような表記になっていること、また「調査結果の整理・解析」でボーリング孔(No.B-6)の地下水を「宙水」と記述しているにもかかわらず「地層断面図」では宙水ではなく地下水位の線が連続していること、更に当該地区の地下水流向は北及び北西方向としているにもかかわらず「地層断面図」では南東側より北西側の地下水位が高くなっていること等から、地下水についての把握が十分とはいえない。
事業による地下水への影響を予測・評価する上で、地下水の流動を把握することが重要であることから、調査地点や調査時期等を見直した上で、地下水の水位・流向・流速について改めて調査を行うこと。なお、調査結果を基に帯水層区分を行うとともに地下水位等高線図を作成し、地下水の形状を明らかにした上で、湧水等との関係を評価すること。
(6)地質調査結果の「地質解析」において、断層を掘り抜いたボーリング調査の結果から「断層粘土は伴っていない。」としているが、これは地下水の通り道を意味している可能性がある。地下水の流動を的確に把握する必要があることから、水の上下の移動についても解明すること。
(7)「湧水の位置、湧水量の状況」では、地下水や表流水の判定を目視により行っているが、湧水状況からみて目視のみで判定することは困難と考えられる。事業実施区域周辺の集落では、同区域付近からの湧水を生活用水として使用しており、湧水の状況を把握することが重要であることから、水文地質構造の把握を行うとともに、改めて水象・水質の調査・解析を行い、地下水と湧水の関係を科学的手法によって明らかにし、事業による湧水への影響について、予測・評価を行うこと。
(8)事業実施区域には、リニアメントが1本のみ抽出されているが、「断層、リニアメント図」の地形図からみても事業実施区域には他のリニアメントの存在が考えられ、リニアメントの把握が十分とはいえない。リニアメントが断層により現れた場合、断層面は地下水の通り道になる場合が多く、事業の地下水への影響を予測するためには、リニアメントが断層により現れたものであるか否かを明らかにすることが必要であることから、事業実施区域内及び周辺地域のリニアメントを抽出し直し、その生成原因について調査・検討すること。
(9) 事業実施区域で抽出されているリニアメントは、「このリニアメントは断層により顕れた可能性が考えられるが、( 中略)断層であっても古い地質断層と考えられる。」とあるが、「地層断面図」では、「地質構成表」で第四紀の地層であるLa-2がずれているように図示されており、記述と地層断面図とが整合していない。事業を実施する上で、活断層の存在は非常に重要な要素であるが、活断層の存否の可能性を示す調査とその資料が不十分であることから、更に必要な調査を行い、当断層が活断層でないとする根拠を客観的に説明すること。
(10)事業実施区域周辺は、平成15年7月20日の土石流災害において、宝川内地区での斜面崩壊を始め、多くの山腹斜面の崩壊が発生し、事業地に隣接する湯出川沿岸斜面でも同様の崩壊が発生している。本事業における防災対策について、「事前に慎重に地下水の調査をして安全性を確かめるとともに、自然災害に対する防災計画を明示する必要がある。」との
方法書に対する知事意見に対し、
事業者見解では「ボーリング調査や現地踏査により地質や地下水の状況を調査した上で自然災害の誘発の無いよう設計検討を行っています。」としているが、自然災害に対する具体的な説明が行われていない。評価書においては、自然災害に限らず、事業実施に伴う災害発生の可能性を、地質構造や地下水との関連を十分把握した上で防災的な観点から検討し、災害に対する具体的な防災計画を明らかにすること。(11)事業実施区域の地盤は、ボーリング柱状図の標準貫入試験結果からみると、かなり深くまで風化が進行し軟弱になっていることが分かる。廃棄物の埋立に伴い軟弱な地盤が不等沈下を起こした場合、遮水シートの破損にもつながりかねず、地下水への影響も考えられる。評価書においては、事業実施区域の地質特性を明らかにするとともに、軟弱地盤に対する方策を明らかにすること。
(12)「湯の鶴温泉への影響」では、「温泉源は処分場計画地域と断層で遮断されており、また対象地質も異なるため、処分場計画地域の地下水と温泉泉源の地下水は影響しないものと予測される。」としているが、「模式地質断面図」には地下水に関する記載がなく、影響しないとするには客観的データが不足している。
また、断層は地下水の通り道になることもあり、「四万十層群は亀裂が密に発達している」としていることから、肥薩火山岩類や四万十層群及び断層について、地下水に対する性質や地下水位などを示しながら客観的に予測・評価を行うこと。
[動物・植物・生態系]
(1)動植物の調査において、安定型予定地だった南側に比べて、北側の管理型予定地の調査密度が少ないものとなっているが、北側の方が改変区域が広く、事業による影響が大きいことから、北側における動植物の調査地点、調査方法が適当か検証すること。
(2)
クマタカの調査について、隣接つがいとの関連を含めた調査区域及び調査地点の設定となっていないこと、1回の調査が連続した調査日となっていないこと、また水俣市が調査した結果と事業実施区域内における飛翔の状況に差異があること等から、クマタカの行動圏の把握が十分とはいえない。事業によるクマタカへの影響を予測・評価する上で、その行動圏を把握することが重要であることから、改めて調査方法等を見直し、生息分布調査を行った上で行動圏の内部構造解析を行い、事業による影響について予測・評価を行うこと。
( 3) サシバについては、「事業による影響はない」と評価しているが、平成18年12月に環境省が発表した「レッドリストの見直し」で絶滅危惧Ⅱ類(VU)に格上げされたことを踏まえ、調査・予測・評価の見直しの必要性について検討すること。なお、その際には水俣市の調査で幼鳥が確認されたこと等についても配慮すること。
(4)事業実施区域内の樹木は伐採後、チップ化し、同区域内に散布する計画とされているが、チップ材の動植物への影響は予測・評価されていない。チップ材が地表面を覆うことや、降雨時の流出等により野生動植物へ影響を及ぼすおそれがあることから、チップ材の大きさや散布量、散布時期など十分検討を行い予測・評価を行うこと。また、チップ製造機及び関連重機等の騒音が動物に及ぼす影響についても予測・評価を行うこと。
[景観・人と自然との触れ合いの活動の場]
(1)事業実施区域においては、樹木の伐採や切り盛りによる埋立地の造成及び廃棄物の埋立てに伴い、その地形が大きく変化することから、予想される景観について、設置工事中や事業実施中・事業完了後の時間の変化も考慮して、フォトモンタージュ等を作成し、改めて予測・評価を行うこと。また、眺望地点については、事業地周辺からの眺望だけでなく、山頂や登山途中等の遠景も考慮の上選定すること。
(2)「人と自然との触れ合い活動の場」において、「調査期間」は「春季の調査を中心とし、実施した。」としているが、「主な人と自然との触れ合い活動の場」として選定している「湯出川」は、春季より夏季の方が触れ合い活動が行われる頻度が高いと思われることから、改めて調査時期を選定し、調査・予測・評価を行うこと。
最終更新:2008年03月19日 20:57