「IWD東亜熊本 最終処分場事業」
環境影響評価準備書に関する意見について
                     市町村名:水俣市 氏名:宮本 勝彬
該当頁事  項内    容
全体的事項
(はじめに)
(はじめに) 
 環境アセスメントの評価は、住民への生活に直結する重
大事項であり、その評価が誤ったものであるのなら、それ
は甚大な被害を引き起こすことになる。それゆえ、事業者
は環境影響を正確に調査することを要求される。
 ところが、このIWD東亜熊本最終処分場事業環境影響
評価準備書(以下「準備書」)は、
 ①結論のみを記載し、根拠データを示してない。
 ②根拠が極めて薄弱である。
 ③根拠は示してあるが、根本となる調査手法に作為が
見られる。
 ④調査結果が不自然にも拘らず、その前提で評価がな
  されている。
という4つの特徴が顕著であり、極めて客観性に乏しい。
 つまり、「事業の推進」を目的として、「影響が少ない」
という結論に導かれるよう作成されており、それゆえ、い
たる所で矛盾が噴出している。
 
 要するにこの「準備書」は、論理的にも、科学的にも
破綻している。
 
 最終処分場は本質的に「有害物を隔離」する施設であり、
その運営には高いモラルが要求される。しかし、この準備
書の評価内容は客観性と科学的根拠に著しくかけている。
このことは、事業者が本事業を行うに値する十分な資質を
持ち合わせていないことを意味する。
 従って、水俣市民の生命と健康と財産を守る責任者とし
て「本事業の中止」という結論に達せざるを得ない。
 この意見書において、項目ごとに説明を行う。いかに準
備書が主観的な立場で作成され矛盾に満ちているか、ご理
解いただけるものと思う。
 また、ただ理念のみで語るのではなく、水俣市が独自の
調査によって判明した科学的データと客観的根拠を以って
本意見書を作成した。また、水俣市の調査は現在も継続中
1
であり、現在までに判明した事項を基に本意見として述べ
る。
なお、本意見書の構成は、
①本編(本文)
②詳細編
③資料編
 の3部で構成している。
 ①本編はこの本文であり、水俣市がさらに詳細に調査し
た事項については①では概要のみを述べ②「詳細編」にお
いて詳細を記載する。①中で該当箇所を指示するので、そ
の場合は②の該当事項を読んでいただきたい。
 ③資料編は、独自に地質業者に委託して独自に調査した
「地質調査報告書」及び「住民等意見と見解書の対照表」
等、資料を添付している。
 それから熊本県の方々に対して申し上げる。
 環境アセスメントの最優先事項は「真実の追究」であり、
「円滑な手続きの進行」ではない。このことについては、
議論の余地はないはずである。
 準備書の評価が間違っていれば、その被害は水俣市民が
被り、その責任は事業者と県が負うことになる。
 疑義を残したまま事実確認を曖昧にし、事業の推進を優
先したらどのようなことになるか、それは水俣病の歴史が
雄弁に物語る。水俣市民は絶対に忘れない。
 疑義は徹底的に晴らさなければならない。
 何年かかろうと疑義を黙認したまま、アセス手続きを終
了させるようなことは絶対にあってはならない。それは公
害に直結することになり、再び水俣病の歴史を繰り返すこ
とに他ならない。
 水俣市はアセスの疑義事項について、いつでも事業者と
討論する用意がある。
 なお、この意見書は全市民に公開する。
 県の「準備書」に対する賢明な判断を願う。
 
全体的事項
(準備書に係る事
業者説明会につい
て)
 準備書に係る事業者説明会は、同準備書の縦覧期間中の
3月11日と縦覧期間が2か月延長された後の5月13日
に開催された。
 1回目の説明会では、処分場予定地直下にある大森地区
の湧水を巡って、地元住民の質問に対してIWD東亜熊本
(以下「IWD」という。)が明確な説明がほとんどできず、
IWDはこの理由を「湧水点の認識の誤解」とした。その
2
ため、住民立会いのもとで湧水点の再調査を行った。なお、
これは「湧水点」の共同確認が目的であって、「湧水量」
の計測を行ったわけではない。この調査後に2回目の説明
会が開催された。
 2回目の説明会では、事業者側は一方的な説明に終始し、
市民側が事前に通告した質問については、会場からの質問
を受け付けた後に再開を約束したにもかかわらず、途中で
打ち切って強制的に説明会を終了した。
 これらの経緯の詳細は、熊本県環境政策課の職員も説明
会に出席されていたので直接見聞し、十分ご承知と思うが、
事業者の説明会に臨む姿勢は明白である。すなわち、一方
的に形だけの説明をすればいいと考えていることが明らか
であり、住民の疑問や不安に真摯に向き合って、これらを
解消すべく説明しようという態度は全く見られない。
 環境影響評価制度における説明会の趣旨からすれば、準
備書の内容について関係住民が十分に理解が得られるよう
に、事業者は説明を尽くさなければならないはずである。
2回目の説明会では、住民は事業者に対し質問項目や質問
者を事前に通知し、公平な第3者と称する司会者に進行を
委ねた。にもかかわらず、その司会者は、参加者の前で
「後で再開する」との約束を破り、質問を一方的に中止し
て閉会宣言をした。この司会者は、結局は公平な第3者で
も何でもなかったのである。事業者にとって、説明会は、
ただ開催したという実績を作ればいいという帳面消しの手
続きでしかない。
水俣市民は、説明会を再度開催するよう事業者に要望し、
さらに県の指導もお願いしたが、事業者からの回答は「質
疑応答は行き届いたと判断し・・・説明会を終了した」
「再度説明会を開催する考えはない」と答えている。
 説明会を巡る一連の経緯から、事業者がどのような態度
で環境影響評価の手続きに臨んでいるのかが明らかとなっ
た。その態度は準備書の内容にもはっきり反映されている
ことは疑いようがない。
 なぜ、このように説明会を忌避するのか?
 IWDの主張どおり、準備書の記載内容に、論理的、科
学的に矛盾が無いのなら、説明会をした方が住民の理解を
得る上で、IWDにとっても有利なはずである。それにも
関らず、説明会の開催を忌避するのは、
 「準備書の記載内容が客観的根拠に乏しく、科学的に
破綻しているから」である。
 根拠の無い矛盾した内容を説明することなどできない。
 IWDの態度が見事にこのことを証明している。
 県におかれては、準備書の内容について審査される際に、
それがどのような姿勢の事業者によって作成されたのか、
3
また、準備書にかかる説明会がどのような態度で行われた
のか、ということも十分念頭において審査に臨んでいただ
きたい。
 何故なら、このことを踏まえれば、準備書を「どうして
このように記載したのか」という事業者の意図が自ずと見
えてくるからである。
全体的事項
(住民等の意見の
概要と事業者の見
解について)
 IWDが平成19年11月21日に提出した「準備書意見概要
及び見解」(以下「見解書」と言う。)については、制度
上、県知事と市長に送付されるだけで、意見書を提出した
肝心の住民等に送付されるわけではない。また、住民等は
自らの意見に対する事業者の見解について、さらに意見を
言うことはできない。
 本来なら制度的に準備書と同様、見解書を縦覧に付し、
住民に再度意見を述べる機会があってしかるべきである。
しかし、現行制度ではそうなっていない以上、この市長意
見の中で見解書についての意見を述べることとする。
 住民等の意見書は、水俣市民はじめ周辺自治体や全国各
地から33,591通という膨大な数が寄せられた。その数も
さることながら、内容も多岐にわたっている。
 事業者がこれらの意見に対して提出した見解書には、以
下に指摘するような重大な欠陥がある。
①意見そのものが取り上げられず、従って見解も示されて
いない
 例えば「処分場予定地内での水俣市の立ち入り調査を認
めるべき」という意見である。この意見は見解書の全くど
こにも出てこない。これと類似の意見が相当数あったはず
であり、事業者はこれをすべて無視していることになる。
事業者は、制度上きちんと見解を示す義務がある。示さな
ければ条例違反にあたるはずである。
②意見に答えていなかったり、答をすり替えたり、はぐら
かしている
 例えば「計算式を示せ」(№36)に対しては計算式が示
されていないし、「事業者の用語使用の根拠」を聞いてい
る(№248)のに、一般的な説明しかしていないなど、意
見に対するまともな見解ではなく、あたかも意見を出した
者を愚弄しているかのような印象さえ受ける。
  
③準備書の記載内容や説明を繰り返したに過ぎない
 そもそも準備書に対する意見や質問であるのに、これに
対する答が準備書の記載内容や説明というのは、一体どう
いうことだろうか。住民は、追加・補足説明や詳細な説明
を求めているのに、「準備書に記載のとおりです」では、
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事業者としてあまりにも不親切であり、木で鼻をくくった
見解である。
④見解が将来に先送りされている
 処分場施設やその構造に関することなどについては、多
くが「詳細は、今後の県関係当局との協議により決定」
(№35、№40など多数)として答から逃げているし、本
来は見解書で示すべきなのに「評価書で検討・記述」する
(№232)など、見解そのものを今後の協議や評価書作成
時に先送りしており、まともな見解書とは言えない内容に
なっている。      
 これらのことは、市民団体が作成した「住民等意見と見
解書の対照表」及び「見解書に記載されていない住民意
見一覧」(別添「資料編」)を見れば、より鮮明に理解し
ていただけると思うが、この見解書は、極めて杜撰な内容
である。見解漏れや、意見に対応していない見解になっ
ているものなどを全面的に見直させ、事業者に再提出を
求めるべきであると考える。
 内容的に見て環境影響評価条例の求めている見解書には
値しないのではないかという強い疑念を持たざるを得ない。
もし、県が見解書を問題なしとされるのであれば、住民意
見に対する見解を求める県条例に違反し、また、アセスメ
ント制度の自己否定となる。
 見解書に対する県の適切な対応を求める。
全体的事項
(立地選定の根拠)
 立地選定の環境側面からの合理的理由について、この準
備書には全く記載がない。
 住民意見においても多数意見が述べられているが、見解
書No6、No350、No351、No352、No353、No355、いずれも
判を押したように、
「最終処分場は、廃棄物処理施設である性質上、どのよう
な場所であっても『適地』と表現するのはかなり難しいと
考えております。また、現在の技術を駆使しても、廃棄物
処理法をはじめとする国の定める様々な基準や指針に適合
する施設を作ることが困難である場所が『不適地』であり、
本事業では、現在の技術で対応が可能であるため、『不適
地』ではないと考えております。」
と見解を述べている。
 さて、これを要約すれば、
 「どのような場所でも『同じ』」ということになる。
 つまり、環境側面からの用地選定の努力をIWDは最初か
ら放棄しており、この場所の選定に、環境側面からの合理
的根拠は無い、と認めていることになる。
 このIWDの事業実施区域は、かつてゴルフ場が計画され
ていたが、計画が頓挫し、筆が纏った土地が宙に浮き、そ
5
の土地を購入したのである。用地買収の手間が省けたのだ
から経営的には極めて合理的と言える。 
 つまり、この土地の選定は経営面からの理由であり、環
境面からの理由ではない。
 では、この土地は本当に『不適地』ではないのか?
 (社)全国都市清掃会議刊『廃棄物最終処分場の計画・
設計要領』に沿って検討する。
 以下、用地選定の忌避事項と該当箇所を示す。
 第1章最終処分場整備に関する基本的計画事項
  1.3立地選定
  P44(1)収集運搬
  ①搬入ルート
  「搬入車両数及び車両規格に見合う道路」
 県道117号水俣市平町付近は、幅員4.2~5.7mで、10
t車ダンプの通行に極めて狭く、さらに住宅密集地及び通
学路である。
  P46(3)地形・地質
  「取水位置が直下流にある地域は避けるべき」
 大森地区が該当
  「軟弱地盤・地盤沈下の恐れのある場所」
 事業実施区域が該当
  P46(4)災害等に対する安全性
  「地すべり地帯、崖崩れ危険地帯は避けるべき」
 
 ①土石流危険渓流
 ②急傾斜地崩壊危険箇所
 ③山腹崩壊危険箇所
 ④崩壊土砂流出危険箇所
 事業実施区域は①③~④、周辺に②が該当
  P48の表1・3-2評価項目と評価基準
  環境特性 8 項目の内ランク 3 ( 最低ランク ) 該当部分
  ①地 質 候補地周辺1km以内に活断層はないが、候
   補地内に厚崩積土または旧崩壊地形が見られる。
 1km以内に活断層がある可能性が高く、旧崩壊地形の
 真上に計画されている。
  ②動植物 候補地内に貴重な動植物が確認される。
 確認される。
  ③住 居 500m以内に住居がある。
 「大森」「新屋敷」「木臼野」など多数あり。
  ④利 水 放流先河川を水産業に利用
6
 水田用水・川漁業・上水道等に利用。
  ⑤悪臭・騒音・振動 500m以内に住居がある。
 「大森」「新屋敷」「木臼野」など多数あり。
 以上、8項目のうち5項目が該当する。
 P48①地質の活断層が1km以内にあればそれは「不適地」
となるが、 事業計画地の 1k m 以内に活断層の存在を否定で
きない。
 これは後の「水環境」の部分で詳細に説明するが、IWD
は「活断層」という可能性を調査もせず否定しており、極
めて根拠薄弱である。
 以上により、IWDが用地選定に関して環境的配慮を全く
払っていないことが理解できる。特に活断層が1km以内に
存在する可能性が高いため、到底「適地」とは言えず、
「不適地」と判定しても差し支えないと思われる。
全体的事項
(安定型の中止)
 環境低減・回避の理由として、「安定型中止」という理
由が準備書の評価項目の大気質・大気環境・水環境・動植
物・ふれあい活動の場のほぼ全てに渡って使用されている。
しかし、これは論理的に矛盾している。
 なぜなら、この事業が完成し、現実に環境影響を与え
るのは管理型処分場のみだからである。
 したがって、管理型処分場建設による環境影響を問うべ
きであって、事業実施後の影響にはなんら関係ない「安定
型中止」は、環境影響低減の理由にならない。 
全体的事項
(熊本県担当課と
の協議)
 準備書に対する住民からの意見に対し、IWDは、見解
書において、「熊本県関係当局との協議により決定しま
す。」という文言等が非常に多い。
 列記すると、以下の通りになる。
①廃棄物の県外からの持ち込み
②災害危険箇所での工事の施工
③埋立地(処分場)-集水ピット-浸出水調整池-浸出水
処理施設-鹿谷川への放流の工程におけるそれぞれの規模

④浸出水処理施設の規模及び日平均放流量
⑤防災調整池の容量
⑥埋立地の処分場計画(円弧すべり等の検討)
⑦遮水シート接合部、集水ピットとの接合部の詳細
⑧浸出水処理施設で使用するキレート等
⑨維持管理計画
⑩処分場の詳細設計、土砂災害等の対応策
⑪法面の雨水排水対策
⑫健全な経営
 本来、準備書で語られるべき上記のような事項が、「県
7
との協議」として先送りされるのは、住民にとって極めて
不安な要素となる。そこで、
・熊本県としては、事業者のIWDと十分協議し、地域住
民に被害を与えないよう、指導していただきたい。また、
協議結果については水俣市民にも公表し、同時に説明会を
実施して住民の理解を得ていただきたい。
・IWDが、熊本県関係当局と協議し、指導の下決定する
と述べた上記事項については、熊本県が具体的に指導する
(した)、あるいは協議する(した)という証明書を明示
し、同時に説明会を実施してて住民の理解を得ていただき
たい。
P2~4 第2章
事業の名称、目
的及び内容
2-2
事業の背景と目的
(1)エコタウンプランとの関連 
 本市が取り組んでいる「環境モデル都市づくり」や資源
循環型のまちづくりを目指した「水俣エコタウンプラン」
について言及し、あたかも本処分場がそれらの本市の事業
に合致しているような印象を与える。
 確かに、仮に本処分場が建設されれば本市で発生する産
業廃棄物が搬入されることは認める。しかし、本処分場に
搬入される廃棄物はその規模と埋立年数に照らし合わせて
も、相対的に水俣市からの搬入よりも他地域からの搬入量
が 圧倒的な はずである。
 特に、準備書P3の図2-2は水俣市との関連のみを図示
してあり、水俣エコタウンプランそのものが本処分場事
業の一部として関 わ っているような誤解 を与えるような
表現となっている。
 本処分場への廃棄物搬入は水俣地域以外からが圧倒的で
あるにも関らず、「水俣市エコタウンプラン」に関連付け
て本事業の正当性を強調しているに過ぎず、現状とかけ離
れており読む者に誤解を与える。したがって、本事業の背
景が「水俣市エコプラン」と言う表現は、作為的表現と言
わざるを得ない。
(2)質の高い廃棄物処分事業とは何か? 
「質の高い廃棄物処分事業を行うことにより、熊本県及び
南九州県域における最終処分場困窮の解決と真の循環型社
会の構築に寄与することを事業の目的とする」(P4,3~5
行目)とあるが、「質の高い廃棄物処分事業」とは具体的
にどのような事業のことか。また、ここでいう「質」とは
何を指しているのか、肝心なことが示されていない。
そもそも、 先ほど本意見書P5「立地選定の根拠」で述
べたとおり、立地選定に全く環境側面からの配慮が見られ
ないことから、IWDの「質の高い」と言葉はレトリックで
あり信頼できない。
8
(3)「最終処分」という問題
 「最終処分場困窮の解決」に寄与することを事業の目的
としているが、なぜ最終処分場事業が困窮するに至ったの
か、その理由と背景の詳細が示されていないし、これまで
国内各地で数多くの同種の廃棄物処分事業が先行して行わ
れてきているが、それらの事業のあり方や建設から使用開
始、そして最終的に閉鎖し事業終了に至るまでの間の問題
点の所在、地域住民による差し止め裁判の事案と住民勝訴
判決内容に対する評価と見解、それらの同種事業との相違
点などについて具体的な説明が必要と思われるが、その記
述がない。
(4)真の循環型社会の実現という矛盾
 埋立は最終処分と言う言葉通り最終段階であり、物質循
環の輪はそこで断ち切られる。実質的に廃棄物を埋め立て
るだけの最終処分は、安直ゆえに環境問題を引き起こす危
険性のある最終手段である。真の循環型社会とは資源を最
終処分しない社会である。そのために、リサイクルや分別
収集等の努力が行われている。
 IWDは見解書No7において、循環型社会形成推進基本法
第2条第1項の「『循環型社会』とは、製品等が廃棄物等
となることが抑制され、並びに製品等が循環資源となった
場合においてはこれについて適正に循環的な利用が行われ
ることが促進され、及び循環的な利用が行われない循環資
源については適正な処分が確保され、もって天然資源の消
費を抑制し、環境への負荷ができる限り低減される社会を
いう」を根拠に最終処分場の正当性を述べている。
 法律の字句に正当性の根拠を求めているが、これは単
なる修辞的なものである。IWDが真の循環型社会の実現に
向けて、独自の理論やビジョンを持たないことの証左で
ある。
 埋立物はどうしても利用できないから「しかたなく」最
終処分されるのであり、極めて消極的な意味しかもたない。
それにも拘らず、最終処分場の存在がなぜ再資源化を推進
させるのか不明であり、逆に言えば「循環化社会を目指さ
なければ」もっと多くの最終処分場が必要になってしまう
のである。
 従って、最終処分場設置が「真の循環型社会」の構築に
寄与すると論じるのは明らかに矛盾しており、本事業の正
当性を強調するためのレトリックに過ぎない。
(5)共存共栄というレトリック
「本事業実施区域内の残地森林等は、積極的に自然環境
を保全し、また、遊歩道等の整備を行うことで、人と人、
9
そして人と自然とが一体になって触れ合える、地域のコミュ
ニケーションの場として提供する」「環境問題に対する認
識を普及する場としても活用することで、自然環境と人々
の生活との共存共栄を具現化する最終処分場を目指す」と
うたっており、いかにも自然の保全と調和に配慮し、また、
地域住民の生活や環境にも配慮しているかのような美辞麗
句を並べて説明している。
しかし、元々本件事業予定地域に存在している森林土壌
生態系とそれによる水源涵養、気温調節、大気浄化機能及
びそこから豊かに湧き出ている湧水群の地域コミュニティ
における人的利用など、事業実施により阻害(喪失)する
ことになることについては、全く触れていない。
ここにおいても事業者は「共存共栄を具現化する最終処
分場を目指す」具体的な方法や方策について抽象的な説明
しかしていない。
P5~44 2-3 事業内容 事業内容、つまり施設の整備計画について共通している
のは、規模決定の根拠がほとんど見られないという点にあ
る。
 確かに熊本県環境影響評価条例には「計画の概要」が求
められているに過ぎないが、通常、施設の規模・能力は周
辺の環境との関係で決定されるものであるから、当然、周
辺への環境影響を評価するためには施設の規模決定の根拠
は重要な項目であり、提示がなければ根拠がない評価とな
る。
 住民意見書の中でも規模決定根拠の提示を求めた意見が
多数見受けられるが、見解書での回答には殆ど根拠を提示
しておらず、ただ「適正な設計」及び「熊本県との協議」
を繰り返すのみである。したがって、この施設構造につい
ては見解書の記述を基に準備書への意見を述べる。
  この意見に関しての詳細は「詳細編 」 P1 「 § 1 施設構
造 」 に 記す。
P45~P178 第3章
対象事業実施区
域及びその周囲
の概況
第3章全般に関す
ること
 事業実施に伴う環境への影響の予測評価を行う上で、
環境の現状についての正確な実態把握が必要である。事
業者は、準備書第3章で「対象事業実施区域及びその周辺
の概況」として「自然環境」及び「社会的状況」につい
て記述しているが、以下のような問題点がある。
①既存資料等の文献調査のみで事業者自身の手による詳細
な現地調査を実施していない。
②極めて判明が容易な事項にも関らず、事実ではない部分
がある。
③環境影響を評価する点で極めて重要である施設・住宅等
を除外している。
10
P45~P47 3-1自然環境
(1)大気環境
1)気象
(1)気象観測データ及び大気質の測定データの箇所数が2
箇所というのは少なすぎる。
(2)事業予定地及び周辺地域における逆転層の生成状況に
関する観測データがない。
P48~55 2)大気質(1)光化学オキシダント
 大気質の経年変化について二酸化硫黄及び二酸化窒素は
「横ばいで推移」という記述で妥当であるが、光化学オキ
シダントについては、準備書P52の図3-5を見て分かるよ
うに、「概ね横ばいで推移」という表現は適切ではなく、
経年的に明らかに上昇傾向が見られる。この図で平成14
年の数値が他の年と比較して低下している原因についての
記述もない。
(2)浮遊粒子状物質
 浮遊粒子状物質の観測データ結果から、環境基準に適合
していない理由について「黄砂の影響も考えられる」とし
ているが、その根拠に関する説明がない。
(3)ダイオキシン類
 ダイオキシン類の測定結果について「2001年度から年
平均値は概ね横ばい」と評価しているが、2003年度の数
値だけが他の年度に比べて低い結果になっている理由につ
いて説明がない。
P60~65 (2)水環境
1)水質
 公用水域の水質調査結果について、塩素イオンに関する
観測データが示されておらず、海水の遡上がどの程度上流
域にまで及んでいるかの現状把握がなされていない。
P109~112 (8)水理・水分関
連事前調査
水理・水文関連事前調査について
①管理型処分場計画地直下にある「大森地区飲料水供給
施設」の存在を、故意に準備書の記載から外している。
②「事業実施区域が全体的に西方向に傾斜した地質構造」
とあるが、実際にはそのようにはなっていない。
③「湧水」を「沢水」と表現している。
 これらに関する部分の記載は、第5章調査、予測及び評
価の結果の第2節水環境の評価の布石として書かれている
が、極めて問題のある記述が多い。以下説明する。
(1)飲料水供給施設の虚偽記載
 まず、P109 6行目「これらの原水は湯出川の上流で採
取され、対象事業の実施によって影響を受けるとは考えら
れないが・・・・・」という記述であるが、これは誤りで
ある。
この記述の根拠となっているのは、P121の②飲料水供給
施設、及びP122図3-29-1であるが、管理型処分場計画地
の直下にある「大森上・中・下」の飲料水供給施設が記
載されていない。
11
 これは、水俣市への電話聞き取りによる結果と述べてい
るが、電話聞き取りがどのようになされたかは不明だが、
水俣市の台帳に記載されていることであって、極めて簡易
に判明する事実であり、市への聞き取り調査をしなくとも、
管理型処分場計画地直下の住宅の配置を見れば簡単に判明
するはずである。「知らなかった」と言い訳にはならない。
 つまり、「これらの原水は湯出川の上流で採取され、
対象事業の実施によって影響を受けるとは考えられない
が・・・・・」と言う記述は虚偽であると同時に作為の
結果である。
(2)対象事業実施区域近辺の地質
 P109の17行目からの記述には重大な不備があり、した
がって、その後の考察はほとんど無意味である。
 この不備とは、「事業実施区域が全体的に西方向に傾
斜した構造」と言う前提である。このことに基づきP421
以降の「地下水」の評価において、地下水の流動方向が西
に傾いていることが強調されているが、実際には地層は
10度西に傾いているところもあるが、その他の方向に傾
いているところもあり、決して「事業実施区域が全体的に
西方向に傾斜している」にはなっていない。
  IW D は実際の湧水地点の分布と合致しないように全体的
に西に傾斜していると主張している。
 なぜなら、実際の湧水地点の中には、先ほど述べた「大
森飲料水供給施設」が含まれており、遮水シート敷設によ
る水源枯渇、遮水工破損等による水質汚染など、甚大な影
響を与える恐れがある。「西に傾いているから」地下水は
大森地区に流れないということを根拠に、大森地区の生活
用水は地下水ではなく、「沢水」とか「表流水」という主
張をするのである。
 しかし、実際には「全体的に西に傾斜していない」から、
前提が崩れ、上記のような主張は成立しない。
  詳細は後述の本意見書 P2 2 「湧水」の項で述べる。  
(3)水理・水文
①P110表3-32 利水箇所観測概要
・Y-1の確認状況
「凝灰角礫岩層の上に重なる安山岩の基底部分から流下す
る湧水」
・Y-2の確認状況
「火砕流堆積物に挟まれる礫岩の上面から落下する沢水」
 沢水と湧水を区別しているが、「湧水」も湧き出て流れ
れば「沢水」となり、本来この二つは両立しうるので、区
別するのは無意味である。
12
②P110の下から4行目 木臼野地区への影響
 「西に10度傾斜している」なら、処分場の西側に位置
する木臼野の「地下水に影響ない」という判断は矛盾して
いる。
 P109~111の「水理・水文関連事前調査」は、管理型処
分場直下の大森地区への影響が無いように見せるための
作為的記載である。
  この項目の詳細は本意見書 P2 2 の「湧水」及び「詳細編 」
P25§4 「 4- 1 湧水」に記載する。
P121~123 3-2社会的状況
(4)河川及び海域
の利用並びに地下
水の利用状況
2)地下水の利用状

本意見書P11「3-1自然環境(8)水理・水分関連事前調査」
に記載
P128~129 (6)学校、病院そ
の他環境の保全に
ついて配慮が特に
必要な施設と住宅
2)住宅
 住宅については、実施区域の北東にあり管理型処分場計
画地の直下に位置する大森集落について、P129表3-31で
確認できるにも関わらず、配慮の対象とされておらず、無
視されている。
P174~176 (9)環境関連法等
による規制・基準
6)災害発生危険
区域
 対象事業実施区域及びその周辺は、鹿谷川周辺は「土石
流危険渓流」に、日添川流域は「崩壊土砂流出危険箇所」
に指定されている。また、大森周辺の斜面は、「土砂流出
防備保安林」に、湯の鶴温泉周辺の山腹斜面は、「急傾斜
地崩壊危険箇所」に指定されている。
 実際に、平成15年7月に湯出川対岸の新屋敷地区では
大規模な土石流が発生し死者も出ている。同様の事態が対
象事業実施区域に起こらないとする証明は、なされていな
いどころか、検討すらされていない。
 このような危険な場所に処分場を建設した場合、地域
住民にどれだけ影響を及ぼすのか、どのような災害が発
生するかを十分調査・検討し、対策工等を示して準備書に
記載するのは当然のことであるが、それについて一切記載
がない。
 見解書では「崩壊が起こりにくいことは事実です。
(No320)」「(処分場は)尾根を越えて離れた西方だから原
因にならない(No323)」と書いてあるが、科学的根拠に極
めて乏しく希望的憶測を述べているに過ぎない。
 この詳細は「詳細編」P53 §4「地下水・地質4-4災
害発生危険区域」に記す。
13
P178~184 第4章環境影響評
価項目並びに調
査、予測及び評
価の手法
4-1 環境影響評
価の項目の選定
評価からの除外項目P180 表4-3-1、表4-4-2
①土壌環境 重要な地形及び地質
 ・除外理由1
 「学術上、景観上並びに自然環境の保全上特に考慮する
 必要のある地形・地質は存在しない」
 ・除外理由2
 「適切に計画設計された防災調整池や沈砂池等を設けて
 防災上の雨水排水調節を行うことから、砂防指定地への
 影響はないものと考えられる」
 以上、理由を述べてあるが、具体的な根拠が示されず、
理由になっていない。方法書段階で県知事から指摘された
にも拘らず、除外されている。
対象事業実施区域は、土石流危険渓流、山腹崩壊危険箇
所、崩壊土砂流出危険箇所、 急傾斜地崩壊危険箇所 ( 周辺 )
を含んでおり、さらに活断層の可能性が高い断層が存在す
る。このような場所の地質を、アセスメント項目から除外
してよいのか。
 さらに、「適切に計画設計された防災調整池や沈砂池等
を設けることから影響ない」と述べているが、事業実施区
域内の降雨で発生する流下量、それに伴う防災調整池の容
量について、準備書P13に容量しか記載されておらず、構
造計算式はない。準備書に記載してあるのは、設置工事時
の仮調整池のみである。
 見解書No200には「構造計算については、今後、関係各
課と協議を行い」などと書いてあるが、そうすると、準備
書発行時点で構造計算の整合性はとれていないことになり、
防災調整池が適切かどうか判定できるはずがないので、調
査せずとも影響ないという結論は矛盾している。
②水環境 水質 富栄養化
 ・除外理由
 「窒素・燐の総量規制が行われている閉鎖性海域へ排水
 を放流する計画はない」
①八代海は窒素・燐の総量規制が行われている閉鎖性海域
である。
②直接放流していないというだけで、排水は水俣川を経由
して閉鎖海域である八代海に注ぐ。
③川は最終的に海に注ぐから、海に窒素・燐等が蓄積され
るのみで希釈効果などない。
 ①②③により除外理由は成立しない。
14
 また、「有明海及び八代海を再生するための特別措置に
関する法律」があり、熊本県にもこの法に基づいた再生計
画がある。その中にも窒素・燐の排出削減を掲げており、
その環境影響評価は重要である。
 ただちにアセスメントを実施しなければならない。
③底質
 ・除外理由
 「水面埋立・浚渫工事のいずれも計画していないことか
 ら、底質への影響は考えられない」
 水面埋立や浚渫工事も底質悪化の要因であるが、最もそ
の主原因になるのは「排水」である。
 施設の稼動に伴って、放流水中に微量に含まれて排出さ
れる重金属類やダイオキシン類等の有害物質によって、放
流先河川の底泥に含まれて蓄積することが十分予測され、
その影響について予測評価の対象にするのは当然である。
P185~227 4-2 調査、予測
及び評価の手法
の選定
この詳細は、次の「第5章調査、予測及び評価の結果」で
述べる。
P228~303 第5章調査、予測
及び評価の結果
第1節大気環境
1-1 大気質
 大気質の予測の基礎となる「風向」「風速」の設定が誤っ
ている。
 具体的には、
 ①現地調査地点が不適切
 ②現地調査を軽視
 ③瞬間風速・最大瞬間風速を無視
 基礎となる「風向」「風速」が作為の結果であり、全く
信頼性を欠くので、当然P282「降下ばいじん」P303「粉
じん」の評価も信頼するに値しない。
 この意見の根拠・詳細については、「詳細編」 P 8
§ 2 「大気質」に記載する。
P304~371 1-2 騒音
1-3 振動
 IWDが廃棄物運搬車の搬入ルートに想定している部分の
うち、県道117号通称「平通り」は、道幅が4.2m~5.7m
と狭く、住宅密集地であり交通量も多い。
 この平通りに住む住民は、ただでさえ狭くて危険なこの
通りに、処分場を往復する大型ダンプが増加することを恐
れている。
 ところが、IWDはこの最も環境影響が大きい「平通り」
のアセスメントを無視している。
 さらに、P340に環境影響低減措置として「予備ルート
15
の想定」があるが、 P334 図 5-4 5 に記載する 2 つの予備ル ー
トは 「大型車通行禁止」 及び 「道が繋がっていない」 の
で 通れない 。
 騒音・振動の評価も、作為の結果であると言わざるを得
ず、適正なアセスメントではない。適正な地点において
再調査を実施しなくてはならない。
 
  この意見の根拠・詳細については、「詳細編」 P1 4
§ 3 『搬入ルート』に記載する。
P372~378 1-4 悪臭(1)発生ソースのデータがない
 データが臭気の現況調査のみであり、最終処分場から発
生する「臭気」の予想データがない。現況と処分場設置後
の「臭気」データを比較しなければならないのに、最終処
分場を 発生源とするデータがないから、予測になってい
ない。IWDの最終処分場は全く悪臭を発生させないのか?
(2)理由にならない即日覆土
 最終処分場の臭気は、廃棄物が覆土によって嫌気性発酵
し、ガス抜き管から発生するのであるから、「即日覆土」
しても防止措置にはほとんど役に立たない。
(3)意味不明な評価理由
 P378「既存の臭気発生源(鶏舎・畜舎)があることから、
現況の臭気を悪化させることはないと評価」とあるが、理
由になっていない。
 既存の臭気発生源に最終処分場という発生源が加わった
予測をしなくてはならず、理由として不当である。
(4)臭気拡散モデルがない
 (1)の発生源そのものを無視しているので、拡散モデル
も当然ない。
(1 ) ~ (4 ) により、アセスメントに値しない。
P383~389 第2節水環境
2-1 水象
(2)予測及び評価
1)最終処分場の設
置の工事による影

(1)仮設防災調整池
 仮設防災調整池は、「工事期間が3ヵ年程度であること
から、設計対象流量は2年確率降雨程度を考慮した」とあ
るが、工事2年だから過去2年というものではなく、確率
論としての考え方がおかしい。最大降雨年(1993年)のデー
タを使用するべきである。
また、濁水対策には工事現場用にユニット化された凝集
沈殿装置を設置する方法もあるが、単純な調整池のみとす
る理由の説明がなく、さらに、仮設防災調整池の設計容量
を超える降雨が発生した場合には、濁水がオーバーフロー
16
して公共用水域に流出する可能性を無視している。
②法面の雨水排水対策
法面の雨水排水対策については、「法面等に湧水が発見
された場合には、当該法面の安全性を重視して水平排水孔
を設置する等、柔軟に対応する」とあるが、まずアセスメ
ントで十分な調査を行って、地下水位や湧水の有無など重
要な問題について把握しておくべきであり、順番が逆であ
る。
さらに「地下水位や湧水の有無を事前に全て察知して施
工を行なう事は困難」などというのは、十分な調査を行っ
ていない証拠であり、言い訳にならない。
「適宜必要な排水設備を設置」、「柔軟に施工」、「細
心の注意」など、極めて表現が抽象的であり、具体的にど
のような設備・対策を取るのか抽象的表現で分からない。
「水平排水溝を設置する等」とあるが、具体的にどこに
どのように設置するのか、図面が示されていない。
場合によっては、調整池容量など含め設備の大幅な変更
が必要になる事態も考えられ、工事が始まってから対策を
適宜行うというのは極めて安易である。
 以上のように、調査不足による対応の不備を「柔軟に対
応」などと抽象的に言い換えるなど、極めて無責任であり、
その評価も信頼できない。
P390~393 2)最終処分場の存
在による影響
鹿谷川への影響(水象)
P419 表5-117 水質予測結果
鹿谷川の流量
 ・現況   31㎥/日
 ・予測結果 581㎥/日
  流量は約 18. 7 倍となり、なぜこれが甚大な影響ではな
いのか。
 土石流危険渓流である鹿谷川の流量が18.7倍になれば、
土石流発生の確率はケタ違いに跳ね上がる。
 準備書には「流量の急激な増減を緩和が可能だから影響
ない」と記載しているが、確かに処理水量550㎥/日は最
大量なので常にその量は流れるわけではないが、平均処理
水量は216.7㎥/日なので、調整しても平均量以上は流れ
ることになる。
①現在の鹿谷川流量 31㎥/日~73㎥/日(P381)
②平均処理水量 216.7㎥/日
 ①を最大値の 73㎥/日とすると、1年間の流量は
③鹿谷川の1年間の流量=73×365=26,645㎥/日
④1年間の総処理水量=216×365=78,840㎥/日
 (③+④)÷③=3.958・・・
17
 鹿谷川に現在の流量の4倍以上の水が、恒常的に流れる
ことになり、最高で18.7倍となる。
 したがって、事業実施による「鹿谷川の流量の激増」
は避けられない。調整するとしても、放流量を減らせば内
部貯留の危険性が増大し、豊水期には事実上不可能である。
 
 そもそも、この流量の激増による影響について、準備
書は全く予測評価をしていない。この流量の予測結果を
「水象」に掲載せず、なぜか別項の「水質」の方に掲載し
ているのは、明らかにおかしい。
 結論として、事業実施後の鹿谷川の流量は、 IW D の予測
によれば 18. 7 倍となり、その流下状況を大きく一変させ 、
土石流災害の危険性、水質の悪化、生態系の激変、希少
生物の絶滅、下流の農業への影響など、甚大な影響が発
生する。 
P396 2-2 水質
(1)現況調査
P396 図5-64 水質調査地点位置図
 水質調査地点を7箇所示してあるが、最も影響の大きい
管理型処分場直下にある大森地区を除外している。
P413~420 (2)予測及び評価
2)最終処分場の存
在による影響
鹿谷川への影響(水質)
①BOD
 P419 表5-117 水質予測結果
 BOD
現況    0.9mg/L
予測結果  4.8mg/L
当初案 9.6mg/L
0.9mg/Lが、4.8mg/Lになるのだから、現在AA類型の鹿
谷川がD類型となり、水質悪化となる。
 そもそも、準備書P15の処理水質について、「排水基準
よりも厳しい自主基準」が設定されているが、原水水質が
不明、処理施設の規模も不明の状態で、数字のみを並べら
れても、本当にこの水質基準を達成できるのか根拠がなく
信用できない。
 さらに、 方法書段階では原水水質が想定されていたが 、
なぜ か 準備書にはその記載がなくなっており 、 不自然で
ある。そして、方法書段階で 9.6mg / l だった BO D が準備書
段階でいきなり 4. 8 mg / l になると言われても 根拠が無く
納得できるものではない。変わった理由を具体的に示すべ
きである。
 したがって、実際にこの様な処理が可能か、根拠薄弱で
ある。BODについて環境基準D類型さえも守れる保証はな
い。
18
②ホウ素・フッ素・硝酸性窒素の環境基準
 
人の健康の保護に関する環境基準
 上記の表は、「ホウ素・フッ素・硝酸性窒素」の環境基
準と準備書P16のIWD計画処理水質の比較である。
  IW D の計画水質は 、 ホウ素・フッ素・硝酸性窒素 の 環
境基準の 1 0 倍 である。
 「水象」の項で述べたとおり、準備書P419 表5-117に
よれば流量が31㎥/日の鹿谷川に550㎥//日の処理水が流
れ込むのだから、処理水の方が圧倒的に多く、希釈効果は
ほとんどないに等しい。
 したがって、事業実施によりホウ素・フッ素・硝酸性窒
素の 環境基準を 守ることは不可能であり 、鹿谷川の 環境
を破壊することになる。
 以上により、準備書P419「排水の放流を行っても、有
害項目(健康項目)に係る環境基準を満足できると予測す
る。」という評価は、矛盾しており間違いである。
③下流への影響
・井戸
 鹿谷川下流には新屋敷地区があり、鹿谷川の真横に井戸
を飲料水として使用している。この井戸が鹿谷川に由来す
る伏流水である可能性は極めて高い。
 
(A)鹿谷川下流にはその伏流水で生活する住民が存在。
(B)希釈効果が全く期待できない。
(C)新屋敷地区に、水道局並みの浄化施設はない
 以上を勘案すれば、 上水道 水道1級レベルの処理水を放
流しないと、必然的にこの井戸は汚染されることになり、
アセス上極めて問題である。
 したがって「生活環境の保全に関する環境基準」の河川
の環境基準D類型では極めて不十分であり、 A A 類型で対
応しなくてはならない。また、ホウ素の 上水道規制値 、
1mg/l を遵守しなくてはならない。
 ところが、見解書(No69)では、「ホウ素・フッ素・硝酸
19
環境基準
ホウ素1mg/l 10mg/l
フッ素0.8mg/l 8mg/l
硝酸性窒素10mg/l 100mg/l
IWD計画
性窒素は処理の難しさから自主基準を設けることはで きま
せんでした。上水道の基準とは(中略)排水基準とは性格
を異にする基準であり、本施設においては排水基準を基本
に検討しております。」と処理できないことを自ら認めて
いる。
 したがって、事業実施後は鹿谷川の伏流水は汚染され
井戸を使用できなくなる可能性が極めて高い。
・水田
 鹿谷川下流には、その水を利用して稲作が行われている
が、「水象」の項で述べたとおり、現在の流量より大量の
処理水が放流されることになり、当然、水田への影響が考
慮される。
農業(稲作)用水基準(準備書P405表5-108より)
 上記表のとおり、農業(稲作)用水基準による CO D は
6mg/l 以下、全窒素は 1mg/ l 以下 だが、IWDの計画水質は
COD10mg/l 以下、全窒素 30mg/lm g 以下 であり、希釈効果
は全く期待できないから、事業実施後は、必然的に農業
( 稲作 ) 用水基準を超える ことになる。
 
水稲の生育に対する水質汚濁許容濃度の目安
(準備書P405表5-108より)
 一般的に水田に利用する河川水中の塩素イオン濃度が
500mg/lを越えると農業被害が発生すると言われている。
 しかし、 塩素イオンはおろか BO D 以外の項目は排水計画
さえなく、その影響は不明である。P405表5-108は鹿谷
20
許容限度
BOD 5mg/l
アンモニア性窒素3mg/l 不明
塩素イオン不明
蒸発残留物1000mg/l 不明
ABS 3mg/l 不明
IWD計画
5~8mg/l
500~700mg/l
用水基準
COD 6mg/l 10mg/l
全窒素1mg/l 30mg/l
IWD計画
川の「現在」の水質であって、計画水質を表示しなければ、
比較にならない。
 要するに、アセスメントになっていない。
 つまり、「農業(稲作)用水基準」については基準を満足
できず、「水質汚濁許容濃度の目安」はアセスメントにす
らなっていない。
 以上のことから、水田への影響は甚大であり、回避する
のは不可能である。
③生態系への影響
 流量の激増と水質の悪化により、鹿谷川を中心とした生
態系は大きく変化する可能性は極めて高い。
④鹿谷川まとめ
 鹿谷川の現水量と水質に比べ、処理水の放流量と水質か
ら、鹿谷川への汚濁物の負荷量は明らかに処理水の方が大
きく、必然的に鹿谷川の環境を破壊することになり、下
流の飲料水、水田への影響は致命的となる。
P421~470 2-3 地下水・地

 (はじめに)
 この地下水の予測において、IWDは地質調査を実施して
いるが、P427図5-70「地質平面図」をはじめ調査結果に
は重大な不備があり、この地域の地質状況を「正しく表
現」していない。したがって、この調査結果を前提とし
てなされる考察は、正しくこの地域の地質状況を表して
いない。
 また、P423で報告されているように、IWDは処分場計画
地内でボーリング調査を行った結果、断層を確認している。
IWDはこの断層が「活断層ではない」と主張している。
 アセスメントは、最悪の状況を想定し「活断層」という
予測の下に調査を実施すべきであるが、十分な調査を実施
しないまま「古い地質断層」と判定しており、「活断層で
はない」とするには、極めて根拠薄弱で危険である。こ
の断層は、活断層である可能性が高いのである。
 また、IWDは、処分場周辺に多数確認される湧水までも
「表流水」と表現し、湧水であることを認めようとしな
い。これは、湧水であると処分場から汚水が漏れた場合、
その水は地下水を汚染し、その地下水が地表に湧き出た水
(湧水)が周辺住民の人命、健康に被害を及ぼす重大な問
題となるからである。
 以下、それぞれの地下水関連項目ごとに問題点等の意
見を述べる。
21
P443~470 湧水 P447~450において湧水箇所調査及び判定を行っている
が、大森地区住民が使用する湧水のほとんどを「表流水」
または「沢水」と判定しているが、その判定根拠の記載
がない。それをIWDは説明会において「目視のみ」である
と説明した。
 つまり、目視以外に科学的根拠が全く無く、希望的憶
測としか思えない判定を行っている。
 したがって、この前提に立った評価・予測も当然根拠が
ない。このことから、水俣市はこの湧水地点の調査を実施
した。
 結論から述べると、大森集落が使用している生活用水
は、処分場計画地の地下を浸透した地下水が、処分場計画
地東側斜面に湧き出した「湧水」である。
 したがって、遮水工破損等により未処理の浸出水が漏洩
した場合、極めて甚大な影響を及ぼす。さらに、遮水工の
設置により、湧水の減少・枯渇等の影響も有り得る。
  この根拠と詳細については、「詳細編」 P25§4 4- 1
『湧水』」に記載する。
P421~470 地下水 地下水の動向は、工事の工程にも、地盤の強度にも、湧
水点の把握にも、汚染物質の拡散予測を立てる上でも、極
めて重大な調査事項であり、その地域の地下水の全体像の
把握は当然行う必要がある。
 しかし、IWDの調査は問題点が多く、まとめてみると次
のようになる。
(問題点)
①地下水位観測孔が不十分であり、したがってデータが
不足している。
②地下水位を長期間測定していない。
③地下水位と降水量との関連性を検討していない。
③地下水の水量について、測定していない。
④地下水の流向について、調査、検討不足である。
⑤地下水と周辺の湧水箇所、湧水量及び井戸との関連性
調査、検討が不足している。
⑥地下水が汚染された場合の対処法が検討されていない。
 このように、地下水位観測孔が少ないばかりでなく、観
測期間、観測回数も少なく、少ないデータで検討している
ため、不十分な内容で、とてもまともな調査結果と言えず、
地下水分布図など作れるはずがない。
 特に、P441図5-76「地下水位・流向調査結果」を見る
と「水が下から上へ昇って」おり、科学的に不合理な結
果を載せており、それに対する説明もない。
 これは、準備書全般に言えることだが、科学的論拠に乏
しく、主観的な決め付けが余りにも多く、専門家の手にな
22
るものとは思えないレベルである。 
 この意見の根拠と詳細については、「詳細編」 P44§ 4
4- 2 『地下水』に記載する。  
P423~425 リニアメント P425図5-68「断層・リニアメント図」では、管理型処
分場計画地にはリニアメントは通っていない。しかし、
地形図、航空写真を判読すると管理型処分場計画地にはリ
ニアメントがある。
 IWDはこの場所でのリニアメントが断層によるものと認
めており、リニアメント解析は慎重に行うべきであるが、
リニアメント解析が不十分である。
 管理型処分場計画地内にはリニアメントが確認される。
これが断層か否か、ボーリング等調査不足のため確認され
ていない。
 これは、アセス上極めて問題である。
 そこで、水俣市はリニアメントに関して独自に解析、検
討した。 この検討の詳細及びこの意見の根拠については 、
「詳細編 」 P 4 9 §4 4- 3 『リニアメント』に記載する。
P421~435 地質 処分場計画地周辺地域の地質を調査、把握することは、
処分場建設、処分場建設後の維持管理の設計等の基礎資料
を得るための重要な要素である。
 しかし、地表地質調査及びボーリング掘削調査が不十
分であり、総論で述べたとおり、地質関連の評価の前提
となる地質平面図、地質断面図は重大な不備があり、率
直に言って事実とかけ離れている。
 地質・地下水関連の考察は、この「地質平面図、地質
断面図」を基礎に述べられており、したがって、地質関
連の考察全体が意味のないものとなっている。
 地質に関する問題点をまとめると次のようになる。
(問題点)
 ①ルートマップが作成されていない。
 ②現場露頭写真が掲載されていない。。
 ③地質平面図、地質断面図の地層の分布状況が話になら
  ない。
 ④地質平面図、地質断面図の縮尺が一定でない。
 ⑤断面線の位置と断面図の範囲が一致していない。
 
  この意見の根拠と詳細については、「詳細編」 P58 § 4
4- 5 『地質』」に記載する。
P421~435 ボーリング調査 この地域の「地下水」「断層」等の実情を把握するため
に、ボーリング調査は極めて重要である。IWDはボーリン
グ調査を実施しているが、準備書には一部しかボーリング
柱状図、ボーリングコア写真を掲載していない。
 要するに情報が断片的であり、極めて不十分である。
23
なぜ、このような重要な情報を「一部」しか掲載しないの
か、極めて不自然である。
 さらに、実情把握のためのボーリング調査は、本数も深
度も不足している。このような中途半端なボーリング調査
では、地下水分布図、活断層の確認などができるはずがな
い。かくして、P427のような事実とは全く異なる「地質
平面図」が作成されるのである。 
 準備書はこの地域の地質構造を正しく表現していない。
 
 ボーリング調査に関する問題をまとめると次のようにな
る。
(問題点)
 ①ボーリング調査箇所が不足している。
 ②ボーリング掘削深度が不足している。
 ③ボーリング柱状図が掲載されていない。
 ④ボーリングコア写真が掲載されていない。
 ⑤ボーリング孔を利用した試験(現場透水試験、標準貫
  入試験)が不足している。
 この意見の根拠と詳細については、「詳細編」 P6 1
§4 4- 6 『ボーリング調査』に記載する。  
P423~431 断層 断層は、施設の破損に関るため、産廃処分場建設の可否
に影響を及ぼす重要な項目の1つである。
 財団法人全国都市清掃会議が発行している『廃棄物最終
処分場整備の計画・設計要領』の最終処分場整備に関する
基本的事項の中に、「評価項目と評価基準例」が示されて
おり、地質には「候補地周辺1km以内に活断層がなく」
となっている。
 もし、活断層が計画地1km以内に存在した場合、今回
の処分場は、建設不適地となる。
 また、その断層について、IWDは活断層であるかどう
かの調査を十分行う必要があるが、準備書では、断層を確
認した程度で終わっている。
 要するに、その断層が「活断層ではない」根拠はない。
 さらに言うなら、この断層は活断層である可能性は高
いと思われる。
 断層に関する問題点をあげると次のようになる。
(問題点)
 ①活断層かどうかきちんと調査されていない。
 ②断層の位置の調査が不十分である。
 ③断層のずれの大きさについて調査が不十分である。
 ④断層部分の透水性が調査、測定されていない。
24
  県は、 IW D に対してこの断層に関して、「再調査」を指
示しなくてはならない。
この意見の根拠と詳細については、「詳細編」 P68 § 4
4- 7 『断層』に記載する。
P436 現場透水試験 現場透水試験等及びルジオン試験(以下「現場透水試験
等」という。)に関する問題点をあげると次のようになる。
(問題点)
 ①現場透水試験等の試験箇所が非常に少ない。
 ②現場透水試験等の結果と比較検討するためのボーリン
  グコア写真が掲載されていない。
 ③現場透水試験等の試験データ及び計算式が公表されて
  いない。
 ④透水性の表現が抽象的で分かりにくい。
 ⑤地盤の漏水対策が明らかにされていない。
 現場透水試験等は、地盤の透水性を把握するために実施
する試験である。雨水の地下浸透の情報を把握するばかり
でなく、もし汚水が漏れた場合の対処方法を検討するため
にも、重要な試験である。
 しかしながら、問題点①~⑤から、要件が揃っておらず、
処分場計画地の透水性が判断できるはずがない。
 この意見の根拠と詳細については、「詳細編」 P72 § 4
4- 8 『現場透水試験』に記載する。
標準貫入試験 標準貫入試験は、地盤の強度を把握し、設計資料とする
ために実施する、ボーリング掘削調査と併行して行う大変
重要な試験である。
ところが、この標準貫入試験の結果が準備書に記載され
ていない。
 標準貫入試験に関する問題点をあげると次のようになる。
(問題点)
 ①既存の標準貫入試験のデータが未公表である。
 ②標準貫入試験の試験箇所が不足している。
 ③標準貫入試験の結果に信頼性がない。
 ④軟弱地盤が広域かつ地下深部まで分布し、地盤強度が
  不均一であるため、不等沈下が起きる可能性が高い。
 ⑤地盤支持力試験内容及び軟弱地盤に対する対策工が未
  記載である。
 3月の事業者説明会において、住民側からボーリング柱
状図の提出を要求され、IWDはその求めに応じ柱状図を提
出した。
 その柱状図に標準貫入試験の結果が記載されているが、
25
N値10以下という極めて脆弱な地盤が地下深部のあちこ
ちで確認されている。
 このような軟弱地盤に、廃棄物が元の稜線より40m程度
高く積み上げられる(準備書P21)ことを考えれば、地盤沈
下を起こす可能性は極めて高く、さらにこのN値は場所で
も深度でも値が不均一であり、不等沈下を起こす危険性
が高い、ということになる。
 廃棄物重量による不等沈下によりせん断力を生じさせ、
遮水工が破損し、未処理の浸出水が地下水を汚染するこ
とになる。
 したがって、この場所は最終処分場の建設地としては
「不適地」である。
 この意見の根拠と詳細については、「詳細編」 P77 § 4
4- 9 『標準貫入試験』に記載する。
地下水、地質等
のまとめ
1 IWD調査の問題点
 これまでの地下水・地質関連の事項により、準備書や会
社側説明会での提示内容には不備があり、重要な問題をは
らんでいることは明らかである。
 そもそも見解書の中で「地質踏査図(ルートマップ)が
あるか」との問いに、「露頭が少ないので、ルートマップ
は作成しておりません」と答え、「それなりに正確な地質
図であると自負しております」としている。地質学、特に
フィールドに関わる結果について、上記のような応答はあ
り得ない。
 つまり、「露頭が少なく、調査が不十分でも、正確な地
質図が描けている」ということになり、常識的にあり得な
い。
 以下、問題点を列記すると、
 ①最終処分場の予定地域の地質について、業者の認識
  (把握)は事実と異なる。
 ②そのため、当該地域の地下水および湯出川流域、鹿谷
  川流域にみられる湧水についての捉え方に不備がある。
 ③自然災害による施設への影響に関する考察が不十分で
  ある。
 ④不等沈下など必然的に生じる現象への考察や対応への
  具体的内容が不十分である。
 などが、特に指摘される。
 
2 上記の問題点が生じた原因
 ①業者による地質調査が不十分である。
26
 ②当該地域の地質についての基本的な理解が不十分なた
  め、観察した地質についての情報を十分掴んでいない。
 ③調査期間や実働が不十分であり、詳細な調査ができて
  いない。
 ④調査内容の提示に当たって、処分場設置に関わる情報
  の開示が十分には行われていない。
3 再調査の必要性
 1及び2により、業者による地質、地下水、湧水に関す
る再調査の実施の必要性がある。具体的には以下の①~④
となる。
 ①地質調査のやり直し
特に地質状況を正確に把握するために十分な深度のボー
リングを、必要な箇所に実施する必要がある。
これまでの業者によるボーリング深度では、地質の構成
と地下水の内容を掴むのに必要な深度には達していないこ
とは明らかである。
 ②地下水の腑存状況を正しく把握し、各湧水地点への
  流動実態を正確に示すこと
 詳細編P25「§4-1湧水」で指摘したとおり、地下水流
動は業者がこれまでに示している内容とは著しく異なるこ
とが明らかになったことから、この問題についての業者に
よる再調査は避けられない。
 ③地形、特に湯出川、鹿谷川に面した斜面の形成過程
  を明確に示し、災害(崩壊や土石流)発生に対する
  予測や対応について明確な指摘を行うこと
 2003年に起こった宝川内土石流や新屋敷の崩落が地質
特性に関わりがあることが指摘されており、業者には、そ
の地質特性がこの地域にも当てはまることへの認識が不足
している。これまでの業者の対応には、この問題への指摘
が全くなく、設置に関わる重要な視点が欠如していると言
わざるを得ない。
 ④処分場設置位置での土質、特に風化土壌および岩盤
  分布について、正確な把握を示すこと
 当該地域の表層部では風化強度および風化深度の不均一
性が認められることから、設置後の不等沈下は避けられな
いと考えられるので、それに対する実態調査と納得のいく
対応が示されることは必須である。
27
4 当該地域での最終処分場設置の危険性
 準備書の検証から、本処分場が設置された場合、以下の
ような危険性が指摘される。
(1)位置的リスク
 設置の標高が高く、不慮の事故が起こると、その影響は
標高の低い地域へ及ぶことは必定である。標高の低い地域
には周辺の集落および水俣市の中心部が位置し、多くの住
民が影響を受ける。
(2)管理型処分場計画地直下の住宅と湧水
 当該地域の湧水は生活用水として利用しているだけでは
なく、田畑への供給もあり、生産活動に直結している。施
設の設置がそのような利用を妨げるものであってはならな
い。
(3)汚染源としてのリスク
 当該地域の地下水の流動方向には市街地が位置し、今次
においても生活用水として地下水を利用している世帯もあ
り、万一とはいえ、汚染源として可能性がある施設の設置
は厳に慎重でなければならない。
(4)不等沈下
 当該地域の表層部では風化強度および風化深度の不均一
性が認められることから、設置後の不等沈下は避けられな
い。したがって、廃棄物の重量により遮水工にせん断力が
生じ、必然的に遮水工は破損するため、漏水による汚染拡
散は避けられない。
(5)活断層
 準備書P427図5-70地質平面図の中央付近に記される赤
い破線Fは活断層の可能性がある。IWDは否定しているが、
今まで述べたとおり調査が不足しており、否定できる根拠
がない。
 これが活断層であれば、重機の使用、地震等により亀裂
が生じ、施設を破損させる可能性が極めて高くなり、断層
面に沿って汚水も浸透しやすくなる。極めてリスクの高い
場所である。
 上記のような考察をすれば、今回の最終処分場計画は極
めてリスクの高いものと考えざるを得ず、当然、設置そ
のものを再考すべきとの結論に達する。
28
P466 湯の鶴温泉への影

 準備書P466で処分場建設に伴う湯の鶴温泉への影響に
ついて、「温泉源は処分場計画地域と断層で遮断されてお
り、また対象地質も異なるため、処分場計画地域の地下水
と温泉泉源の地下水は影響しないものと予測される。」 と
述べているだけで、 詳細な調査及びその結果をもとにした
検討は実施していない。
 もし、処分場から漏れ出した汚水が断層中に浸透すれば、
温泉水が汚染されるばかりでなく、風評被害等による湯治
客の激減など、湯の鶴温泉に極めて甚大な影響を及ぼすこ
とになる。
 そこで、処分場計画地域と湯の鶴温泉の間にある断層の
分布状況及び透水性、更には処分場計画地域と湯の鶴温泉
の間にある地層(四万十層群)の分布状況及び透水性を詳
細に調査し、その結果を検討すべきである。
  これらの調査検討を行わないと内容不十分であり、
「影響ない」という評価はできない。
 以上により、湯の鶴温泉への影響の正しい評価を行う
ためには以下の調査が必要である。
 ①断層の分布状況及び透水性の調査、検討
 ②四万十層群の分布状況及び透水性の調査、検討
P471 第3節 土壌環境①廃棄物埋立時における廃棄物の飛散により、周辺の土壌
汚染をもたらす可能性は否定できない。これに対しIWDは
「即日覆土による飛散防止」により「飛散による土壌汚染
への影響についてはほとんどない」と予測している。しか
し問題は、即日覆土する以前に埋立廃棄物を場内にダンピ
ングした際に、既に飛散が生じており、場外の周辺地域に
おける土壌汚染をもたらす可能性を否定できないことであ
る。
②浸出水漏えいによる土壌への影響は、「遮水シート」
「漏水検知システム」「監視用井戸」対策などで早急に発
見・対処するとしているが、遮水シートや漏水検知システ
ムそのものの効果が将来にわたって維持されるとは限らず、
監視用井戸も適切な帯水帯に配置されなければ何の意味
もなさない。そのためには地下水の詳細な流動調査を、事
前及び事業進捗に合わせて適切な頻度で実施しなければな
らないが、先に述べたとおり、IWDは地下水の等水等高線
を作成しておらず、そのための調査もしていないから、準
備書にはこれらについての記載がない。
P485 第4節 動物・植
物・生態系
4-1 動物
①全般的に調査期間が四季を通じて実施されておらず、偏っ
ている。例えば哺乳類は事実上3月のみであり、1年通じ
て調査を行わなければ、その全体像を把握することは困難
29
2)現地調査
③調査期間
と思われる。
 また、鳥類の調査はわずか8日間であり極めて少なく、
繁殖等の確認ができるはずがない。さらに、クマタカに関
して、P499「その後詳細な調査を実施した」、P580には
「46日飛翔が確認されたが、事業実施区域付近で飛翔は1
回であった」と述べており、水俣市で行っている調査結果
「18日の飛翔が確認されたが、事業実施区域付近で飛翔
は7回」とは明らかに矛盾している。
 水俣市の調査の詳細及びこの意見の根拠は「詳細編 」
P8 1 の § 5 「希少猛禽類」に記す
P488 図5-82
鳥類調査地点位置

 クマタカの生息状況で、P502には「営巣木は湯出川か
らおよそ800m離れた(芦刈川)右岸の急傾斜地にあると
予想された」と述べている。図5-82鳥類調査位置図では
St1~St5の5箇所の定点が記載されているが、この定点で
は5箇所とも芦刈川の谷を見渡すことは不可能であり、調
査結果との整合性がない。
 準備書P499ではその後詳細な調査と書いてあるが、そ
の定点と期間を明示していないため不明である。どちらに
しても、定点の位置、調査期間、飛行記録の開示をIWDに
求めたい。
P501~502
P527
P580
クマタカ クマタカは環境省レッドデータブック絶滅危惧種第Ⅰ類
Bの希少猛禽類であるが、P527には「事業実施区域は本種
の行動圏ではなく(中略)本種の行動域は湯出川右岸であ
るため、(中略)影響は小さい」となっている。
 また、P580には「46日飛翔が確認されたが、事業実施
区域付近で飛翔は1回であった。」とされている。
 P502には「営巣木は湯出川からおよそ800m離れた(芦
刈川)右岸の急傾斜地にあると予想された」と述べている。
 クマタカが生存に必要な行動圏は大体2000haとされて
おり、そうすると営巣木から半径2.5km前後の行動圏を
持つことになり、営巣木がP502の通りとすると、事業実
施区域内が行動圏に内包されないのは極めて不自然であ
る。
 そこで、水俣市は独自にクマタカの調査を行っているが、
18日飛翔確認のうち事業実施区域内の飛行を7日確認して
おり、P580の記述とは極端に違う。
 準備書と水俣市の現地調査の差が極端であることから、
IW D の評価通りに「影響が少ない」とするのは極めて危険
である。
 現在、水俣市は調査を実施しており、その調査が終了し
専門家による判断を仰ぐまで、評価するのは避けるべきで
ある。
 また、専門家に検証してもらうため、IWDのクマタカ調
30
査報告書を水俣市に開示するよう事業者に指導していただ
きたい。
 
 水俣市の調査の詳細及びこの意見の根拠は「詳細編 」
P8 1 の § 5 「希少猛禽類」に記す
 
P527 サシバ サシバは環境省レッドデータブック絶滅危惧種第Ⅱ類の
希少猛禽類である。
 このサシバの生息に関する記述はP527の「夏季事業実
施区域内上空を飛翔している 1 個体を確認」とあるだけで 、
なぜ「影響は小さい」と評価できるのか、極めて安易で
ある。
 これは、詳細な調査をしていない結果と思われる。
 そこで、水俣市はクマタカの調査と同時にサシバの調査
を行った。
 サシバは大森集落の上空と対岸を頻繁に往復しているの
が確認され、少なくとも4個体が存在し、さらに幼鳥が大
森集落の西側斜面及び湯出川対岸の斜面にとまっているの
が確認されている。
 サシバはクマタカと違って杉やヒノキに営巣するため、
上記の結果から、管理型処分場計画地内または至近に営
巣している可能性が高く、そうすると、処分場の存在が
サシバの繁殖に甚大な影響を及ぼすことになる。
 したがって、クマタカと同様、 IW D の評価通りに「影響
が少ない」とするのは極めて危険である。
 現在、水俣市は調査を実施しており、3月下旬にサシバ
が帰ってきてから営巣木の確認を行い、その調査が終了し
専門家による判断を仰ぐまで、評価するのは避けるべきで
ある。
 なお、水俣市の調査の詳細及びこの意見の根拠は「詳
細編」 P8 1   § 5 「希少猛禽類」に記す。 
P528~532 爬虫類
両生類
魚類
昆虫類
 第5章第2節水環境の「水象」「水質」で述べたが、事
業実施後、処理水の放流により、鹿谷川の流量・水質が激
変するのは確実であり、当然、鹿谷川に生息する生物の生
態系にも甚大な影響を与えることになり、鹿谷川の激変を
考慮し調査及び評価をやり直す必要がある。
P565 4-3 生態系 上記と同様、鹿谷川の環境の激変により、生態系に甚大
な影響を受けることになるため、鹿谷川の激変を考慮し調
査及び評価をやり直す必要がある。 
P617 第5節 景観・人
と自然との触れ合
い活動の場
 湯出川は、「調査時に釣り人等はなく、河川とのふれ合
いが行われるのは夏季程度」とされているが、調査は4月
に行われ、しかも他の河川との合流部での調査結果しか記
31
(1)現況調査
1)調査結果の整
理・解析
⑥湯出川
載されず、「人と河川とのふれ合いはほとんどない」と判
断している。
 6月の鮎漁解禁日以降、湯出川のあちこちで鮎取りや渓
流釣り、水遊びなどが行われている状況については無視し
ている。
その他の
事項
未回答意見 事業者であるIWDは、熊本県環境影響評価条例第18条
の規定に基づき、意見の概要及び事業者の見解を記載した
書類を知事及び水俣市長に送付しなければならない。
 しかし、平成19年11月21日にIWDが水俣市に提出した
意見の概要および事業者の見解書には、住民の意見に回答
していないものが多数ある。
 これは、条例違反である。
 資料編「環境影響評価準備書に関する意見の概要及び事
業者の見解書に掲載されない住民意見一覧」にIWDの未回
答意見を添付している。
 未回答意見に関しては、速やかに事業者に提出するよう
指導すべきである。
その他の
事項
土地の取得 IWD東亜熊本は、処分場を設置する土地を水俣市長崎
他の処分場建設予定地内には所有していない。そこで、土
地名義人(所有者)の東亜道路工業から借地するのか明ら
かにすべきである。契約書について、契約の相手方、借地
料、借地期間等も公表すべきである。
その他の
事項
法律の遵守 まず、IWD東亜熊本と東亜道路工業、IWD3者の関
係を明らかにすべきである。東亜道路工業は、処分場予定
地、つまりIWD東亜熊本が借地する場所をめぐり、土地
の取得にあたって国土利用計画法に違反している。
その他の
事項
維持管理積立金 国は、管理型最終処分場を設置する産廃処分場業者に維
持管理積立金を積み立てる義務を課している。IWD東亜
熊本では、維持管理積立金はどの程度を準備するのか、資
金は十分であるのか明らかにすべきである。
その他の
事項
資金調達方法の公

 事業を実施するために、多額の資金が必要と考えられる
が、可能な限りの資金調達の方法及び金額を公開すべきで
ある。
32
最終更新:2008年08月19日 18:09