つまり、その羽嶋が言った話を要約すると、虐殺・誘拐の為に何らかの組織がここで活動したと言うことになる。これはテロリストのやることと考えていいだろう。……その手段は別として。
「じゃあ、なんでそのテロリスト達はあんな化け物みたいなのを味方に回せたんだろう?というか、なんで虐殺と誘拐で同時にしているの?」
「はぁ?俺に聞くんじゃねぇよ。俺が分かるわけねぇだろうよ。ただ、勘だけどよぉ……虐殺と誘拐を同時にした理由だったら、仲間にする奴としない奴とで分けているんじゃねぇの?」
「まさか……そんなのすぐに見分けられないって」
「でも、あんな化け物とか、火を操れる女の子まで出てくるんだぜ?何できたって、おかしくない状況だろ」
常識の殆どが崩されたことによって、支離滅裂になった推理ごっこに思わず肩をすくめた。……なんで、こんな目に会う羽目になったのだろうか……
確かに蔵田が僕を誘ったからと言えなくも無いが、だからと言って蔵田には恨まれる筋合いもないし、責められることも無いはずだ。
――はぁ……
僕がそう言う様に溜め息をつきながら、再び肩をすくめると、僕はいきなり後ろから何者かに掴まれ、更に喉元に光沢がある冷たい物体が押し付けられた。その物体が長いナイフだと知覚したのは後になってからだ。
「命惜しければ、一歩も動かないことをお勧めしますよ……」
――◇――
―― 全く気付かなかった!
普通はこんな状況になれば、誰だって警戒するし、誰かが近づく気配なんて普通に感じるはずだ。なのに俺は全くそれに気付かず、葉月が追い詰められた犯人に人質にされる一般市民の様にナイフを喉元に突きつけられようとした瞬間を見過ごしてしまったのだ。
葉月の喉元にデカいナイフを押し当てているのは、40代程度の大柄なおっさん。体格はがっちりしていて、服装もまたおっさんらしく、サラリーマンが着るスーツを着ている。髪型や顔立ちと共に、礼儀正しそうには見えるが……坂東先輩に押し付けられた仕事で散々、性格が捻(ひね)くれている奴らを見た俺だから分かる。あの目付きはどう見たって、ヤバい……と。
おまけに仮に早めに気付いたって、結果は余り変わらないことにも気付いた。あの男の後ろには5人程度の武器を持った兵士の様な奴らが居たからだ。
――クソッ、何なんだよ!この救いようのない状況はよ!
葉月が男に取り押さえてなければ、声に出して叫んでいただろう。だが、下手な行動は許されないのを悟った以上は、ぐっと堪えるしかなかった。
「質問ですが、あなた方が通ったルートには"赤い髪の娘"が居たはずです。あなた方はどうやってその場所を通ったのでしょうね。まさか、あの獰猛で冷徹な小娘が蟻一匹見逃すわけがありませんしね。まぁ、あの木を倒したことによって湖の住民"グラーキ"の封印が解けたのは嬉しい事ですが」
赤い髪の娘……といったら、絶対あの西園寺蓮とかいう女の子だ。やっぱりあの子も、羽嶋が言ってたあの組織と関係があるのか?まぁ、白河が西園寺と戦ったことも気になるが。
「赤い髪の娘って、西園寺蓮とかいう女の子か?だったら、頭が全部白髪の奴と一緒に闘った後にどっかに消えた、が詳しくはわからねぇな。」
白河の名前は敢えて出さなかった。別に出しても良かったが、直感的に言わないほうが良いと感じたからだ。
「白髪の奴……ですか。そういえば、最近、白髪の青年が我々のことを邪魔していると聞きましたが、もしかしてこれはそれを暴ける機会でしょうかね……」
男は考える様に目を瞑った後、葉月を護衛の兵士2人に押し付けるように引き渡した。その後、男は大きなナイフをスーツの裏に仕舞い、声を荒げて兵士に指示を出した。
「おい!今から、自然保護エリアの調査へ向かうぞ!お前ら2人は、この人たちを湖まで連れて行け!」
兵士全員から「イエッサー!」という、軍隊らしい返事が鳴り響いた。『お前ら2人』とは恐らく、葉月を今捕らえている兵士二人の事を指しているのだろう。
男を先頭にして、残りの兵士は全員、俺と葉月が今まで辿ってきた道を歩いていった。最後に男はこちらを振り向いて……「中田忠義――冥土の土産として私の名を覚えておいてください」と言い捨てた。