「全く……本当に命の終わりが見える瞬間だったぜ……」
「でも良かったじゃないですか。こうしてみんな生きて再開できて、更には帰れるのだから」
臭いが充満しているマンホールの下の下水道でこんな会話をしているのもどうかと思うが、本当に安心した。白河もまだ気を失っているが、無事な様だ。
「そういえば、コイツは誰だ?倒れているようだが」
そういいながら、羽嶋は倒れている白河の方を指していた。
「あっ、コイツは白河っていう京崎高校のヤンキーでな……あの化け物の一撃を喰らって倒れたんだ」
「そうか……いや、それはいいが、ここからどうやって帰るんだ?」
「ああ、それならここをこのまままっすぐいけば帰れるらしいぜ。
……ってか、こいつ誰が運ぶよ」
そういいながら、蔵田も白河を指した。
……それはもう蔵田に決まっているだろう。一番力があるし。と、思いながら蔵田のほうを向いたときには既に他の全員が蔵田のほうを向いていた。
「うっそ……マジかよ……」
蔵田は溜め息をつきながら、ぐったりと倒れている白河の体を背負った。
彼が腰を曲げながら「重い……」というあたり、結構重そうだ。白河に任せてよかった。しかし、それも構わずに僕たちはここから足早に歩き始める。
「おい、置いていくんじゃねーよ!」
そういいながら蔵田は白河を背負いながら必死に僕たちを追いかけた。
――◇――
……それから5分も立たない内に、下水の流れに沿って進む通路に出た。対岸まではそれなりの幅があり、臭いは思った以上に臭かった。
「あぁー!なんだこれ!あり得ねぇ程臭いのに、ぐったりと倒れている奴を背負っているから鼻も覆えねぇじゃねぇかよ!マジでふざけんなよ!」
全く……何処のガキだ。流石に気が抜けすぎて……ん?川の上……よく目を凝らすと、無数のハエがそこにたかっているのが見える。確か稲美は……
「川の上、見ないほうが良い」
「あっ!?ハエがたかっているだけだろ?普通すぎるだろーよ!」
クッ……余計なのが反応したか。
「誰もお前の事なんて言ってないぞ」
「葉月……お前、ハエすらも駄目なのかよ。情けねぇなぁ……」
「俺じゃない。稲美が無視恐怖症なんだ」
「え……?」
いつの間にか稲美が葉月に顔を隠すようにしがみついていた。
「何の嫌味だよ」
……いつも通りだ。安心した。
――◇――
それから、再び狭い壁に挟まれた通路に入ると、早速白い星型のマークが突き当たりの壁に大きく描かれているのが見えた。
これでようやく日常へと戻れる……そんな安心感が更に脳裏を駆け巡った。
「このマークの傍にある梯子を昇ればいいのか?」
「うん。それで終わるんだ」
「よかったです……本当によかった……」
「それは良いんだけどな……まぁ、なんか、その……あのな、」
――倒れた人抱えたまま、どうやって梯子なんか昇れるってんだよ!コンチキショウめ!
その言葉は微かな絶望を生み出した。確かにどうすれば登れるんだ……
その時、固いもの同士が擦れる音と同時に上から光が差し込んでくる。そこから、若いセーターを着た男がこちらを覗いてきた。
「ちょうど来たか。この服装でも寒いくらいなんだ……さっさとしろ」
彼が春山か?僕たちの事を知っているような口だが……
「いや、だから……人抱えたまま梯子昇れないんですケド……」
「何だと!?こうなったらしかたない。私のとっておきの魔術で何とかしてやる」
男は指をこちらに向けてから、それを回しながら振った。
「おっ、背中のお荷物が軽くなっていく感じ!ってか、何か俺浮いてね……?」
蔵田の足元を確認すると、確かに彼の足元は地面と離れて浮いていた。そして、白河を抱えた蔵田は男の指につられるようにして浮き、ついには梯子を使わずにマンホールを上がる事ができた!
「今の……魔法?」
「信じられない……とはいえないな。何せ、あの化け物が存在している以上は何が起きてもおかしくは無いからな」
「とりあえず、上がりましょうよ。蔵田くんも待っている事でしょうし」
「まぁ、そうだな」
僕と羽嶋と稲美が梯子を昇ると、狭い裏道に出た。目の前には「これが……魔法か……!」興奮した状態の蔵田とさっきの男が居る。
「まぁ、無事に生きて帰ってきて良かった。まずはお前たちの無事を祝福しよう。私が"春山学"だ」
――彼が春山学か……