あー……かったりぃ。なんで、午前授業で楽できたはずなのに公園で壮大なパニックに巻き込まれて、挙句の果てにはまた学校まで戻らなきゃなんねぇんだよ……唯一助かったのが、春山という奴の家と学校までの距離が意外に近かった事かな。
でも、あの面倒な先輩と感動の再会しなきゃならねぇから、結局かったりぃ。
「蔵田先輩……顔がなんか、二つの意味で疲れてますよ……?」
「あ?二つの意味ってなんだそれ?」
「一つが身体を動かして疲れた。もう一つが嫌な事を目前にして疲れたという意味です」
「良く見抜いたな……稲見ちゃん、意外に洞察力あるじゃねぇか」
「えっ?私、褒められたのは久しぶりです!蔵田先輩、ありがとうございます」
「後は言葉の意味を読み取る洞察さえしてくれればな……」
確かにかったりぃけど、一応世界を今すぐ救えるのは俺たちしかいねぇんだよな……春山によると。
「きみはゆくえふめいになっていた蔵田じゃないか!」
早速、細身で不自然なイケメンが変なノリで奴が話しかけてきたと思ったら、そいつはアホで有名な"大山太郎"だった。妙に俺に付き纏う奴だ。
(『大山太郎』九頭高校随一のゲーマー。それの影響でカッコいい男にサインを求めるという癖と変なノリでゲームの名言を言ってくるという癖が生まれてしまった)
「お前誰だよ。ウザってーノリで話しかけてくるのもう勘弁してくれよ。別に俺、行方不明になって……はないし」
「まぁ、とりあえずどうでもいいからサインを……」
ここら辺で更に面倒だと思ったため、大山に強くげんこつを入れた。どうやらもろに当たったらしく、大山はうずくまりながら頭を抑えていた。
「さっ、坂東先輩のいるところを探そうぜ」
俺は葉月たちを引っ張るように校舎の中へ入った。
――◇――
書斎に戻った私はやかましい音を鳴らしている受話器を手に取った。
「もしもし、こちら春山だ」
『“もしもし”なんてお前にしては軽い。偽者か?偽者なら切るぞ』
この声は"バーナード・プライス"だな。先ほど私にあの資料を送ったアメリカの情報屋だ。にしても、重要な電話ならジョークを最初から言うのは止めて欲しい。ひやひやさせる。
「ふざけるな。真面目な電話じゃないのならこちらから切るぞ」
「あぁ、悪かった。あんたのノリの悪さを考えて無かった俺が悪いな」
こんなにオードソックスな言い方でムカつくとは思わなかった。
「まぁ、ともかく、俺があんたに送った資料はどうだ?」
「ああ、この前届いた。内容に今の所は不満は無い。だが、あの文章についての補足が欲しい」
「まぁ、落ち着け。まずはどこまでは解釈できた?お前の脳みそのウォーミングアップだぞ」
確かあの文章の内容は……
湖に惹かれた者、――住み着きし山には祈りを、死と共に夢見る神の遣いにはその血を捧げ、そして灼熱の館から死の風が吹く時、――は正しき位置に戻るだろう
そう、これだ。これの『湖に惹かれた者』の部分を解釈すると――
「最初の『湖に惹かれた者』――これは間違いなく"グラーキ"によってアンデッドとなった人間を指すな。そもそもグラーキの異名が"湖の住民"だ。当然、それが明確な根拠というわけではないが、タイミングから見てもそう言えるだろう」
「お見事だ。そう、グラーキの毒によってアンデッドとなった人間が"何か"が住み着いている山に祈りを捧げ、"死と共に夢見る神の遣い"には血を捧げるんだ」
「だが、あの公園からは冴川市唯一の山である"風網山"すら見えないぞ?特別に高い所なんて無いからな」
「……残念だ。今からクールダウンしておけ」
ん?突然、何を言っている?私はあの公園全体を観察した上で言っているんだぞ?
「あるだろ?哀れなあいつらへの"運び屋"となるような連中があの公園の中に――」
――!この瞬間に私の中で何かが閃いた。
「まさか……まずいぞ……!
クソッ!私が奴らを止めに入るべきか!」
「あんたの存在が"あいつ"にばれてないからこの現状を維持できたんだろう?だったら、あんたの近くに居るお仲間さんに頼んでおけ」
頼む……早く化け物女のレクチャーを済ませて来いよ……少しでも遅れたらあれが現実になる――
――旧支配者による生物危機(バイオハザード)
to be continued...