1月30日、昼休み
学年の末も近づいてきた陵桜学園の二年の教室で、我らがアニ研の部長、八坂こうは窓際の席に座り、外を眺めていた。
先週から三年生が自由登校となり、学校には若干の寂しさが立ち込めている。だがこう以外のクラスメートは普段とかわらず談笑したり勉強したり・・
「こうちゃん先輩!」
呼ばれて振り返るとそこにはアニ研の後輩、田村ひよりがいた
「ああ
ひよりん、できたの?」
「はい!今回は自信作ッス!」
言い切るひよりん。こうちゃん先輩はざっと目を通し・・
「ボツ」
さらっと死刑宣告なさった。
「ええええ!なんでっすか!?」
「急展開すぎでしょ・・実際こんなになることってありえないっしょ?」
「うう・・」
「そいからさあ・・実在の人物そのまんまはまずくない?へたしたら訴えられるよ。このキャラシンちゃん先輩でしょ」
「な、なんでわかったんすか!まさかこうちゃん先輩超能力に・・」
「目覚めてない。だいたい飛鳥進なんて名前つけといて気付かないほうがおかしいっつの。ほれほれ、書き直しといで~」
涙目のひよりを追い払うと、こうは再びさっきの体勢に戻る。
(シンちゃん先輩・・か)
こうの脳裏に、一つ上の先輩の姿がよぎる。頭脳明晰、容姿端麗、運動神経抜群、それでいて鈍感、天然、シスコンでツンデレのフラグメーカー&フラグブレイカー、シン・アスカ。
固有結界らき☆すけを武器に、友人のほぼ全員が女子というハーレムを形成している元ザフトレッドである。キラ様もびっくりさ。
それを相手に、たかが
誕生日イベント一度で急接近なぞあるわけがないのだよ、ひよりん。
彼女がよこしたのは、どちらかといえば疎遠だった二人が誕生日イベントで急接近!とかいうやつだった。
その急接近する二人は双方男なのだが、この際気にしないでほしい。俺は気にしない。
はぁ~・・こうは盛大にため息をつく。誕生日か・・
こうの誕生日は2月3日。あと僅かで17歳である。
わかっている。ひよりのさっきのネタみたいな急展開はありえないと。しかもその相手がシン・アスカとなると、ますますありえない。
ま、腐女子は恋愛より同人だよね。こうが自虐的な結論に達すると同時に、始業のチャイムが・・
「あり、誰もいない」
「生物、解剖だよ・・」
親友、永森やまとの声で我にかえる。
「解剖て・・」
「そう。だから教室移動。」
やまとの淡々とした言葉に、こうは現実の辛さを思い知らされた気がした。二人は遅刻の罰として放課後の後片付けをおおせ付かった
アニ研の活動と後片付けを終え、こうは帰路にあった。うー寒い
ゲーセンに寄っていく気もしないしなあ・・コンビニで肉まんでも買っていくか。
「いらっしゃいませぇーっ!」
こうが店に入るなり、夢を抱きしめてソルジャーの誇りを忘れない声が飛んでくる。
「・・って、こうじゃないか。」
ザックスさながらの声を飛ばしてきたのは、昼休みにこうが思いを馳せていたシン・アスカその人である。
「シンちゃん先輩・・何やってんすかいったい。」
「何ってバイトだけど。」
「バイトって先輩、あんた受験生でしょ・・」
「まあな~。でも俺は居候だし、それにバイト終わったらちゃんと勉強するつもりだから。」
「なら・・いいですけど。」
釈然としない、といった表情のまま、こうは曖昧に頷く。
「ところで、何を買いにきたんだ?」
「あ、肉まんを・・」
シンはケースから肉まんを取り出すと
「110円ね。ありがとございましたー」
硬貨を手渡すと、レジの中にそれをおさめるシン。こうはその仕種をじっとみていた。
「ん?どうした?まだ何かあるのか?」
「はっ!」
我に変えると目の前に怪訝そうな顔をしたシンが。こうは僅かに顔を赤らめる
「あっいや・・なにも。」
「ふーん?ならいいけど・・」
歩きながら食べたその肉まんは、ちょっぴりほろ苦かった
1月31日、放課後
こうが廊下をあるいていると、なにやら真剣な表情で語り合う男女の姿が
(ん、あれは・・やまと?それからシンちゃん先輩?学校きてたんだ。)
親友と先輩。二人はそこそこ交流があるため特に不思議なことではないのだが・・こうはとっさに物影に隠れ様子を伺う。
(何を話してるのかな?バカっぽい話じゃないだろうし。)
とぎれとぎれに聞こえてくる会話から推察するに、シンはやまとに何かお願いしてるらしい
(何を頼んでるんだろう・・)
そう思った瞬間、とんでもない言葉が、ここだけなぜかはっきり聞こえて来た
「・・というわけでつきあってくれ」
まだ会話は聞こえてきているが、こうは聞かずにさっきのシンの言葉を反芻していた。
(付き合ってあげます・・てことは、シンちゃん先輩がやまとにコクって、・・)
そこまで想像して、こうは自分の周囲に闇が下りるのを感じた。
覚悟してなかったわけじゃない。シン・アスカの周囲をとりまく女性陣には自分より魅力ある人ばかりで、正直勝ち目がうすいのもわかってた。だけど・・
(よりによって、やまとが・・)
シンが彼女をえらんだのだ。彼女に罪があるわけではない。
こうはやまとがシンに好意を寄せてることを知ってたし、親友としてはむしろそれを祝福してあげるべきで・・なのに
(なんで涙が止まらないんだろう・・)
こうは二人に背を向けると、脱兎のごとくその場から逃げだした
親友にもシンにも、みられたくない一心で。
「ん?」
かすかに足音を聞いて、シンはふりかえる。しかしそこには誰もいない。
「どうかしました?」
頭に疑問符をうかべるやまと。
「いや・・気のせいだ。気にするな。俺は気にしない。」
「そうですか・・じゃ、明日の10時に駅でいいんですね。」
「ああ、頼むぜ。お前だけが頼りなんだ。俺が思い付くのはどうしてもMGデスティニーか、オタク系のグッズだけで・・」
「ふふ・・少しこうがうらやましいです。」
「ん?何か言ったか?」
「いえ・・じゃ」
「ああ、またな!」
微笑みを浮かべながら去っていくやまとが見えなくなるまで手をふると、シンはふうっと息を吐き出した。
「よし・・とりあえず第一段階は成功か・・あと三日か・・気合いいれてかないとな・・」
まあ、第2も第3もすっ飛ばすことになるのだが
2月1日 日曜日
こうはずたずたになった心をひた隠しにしながら、アニ研のための画集を購入すべく街にきていた。
「・・ここか。」
デパートの上の階にある大型本屋にむかうべく、エスカレーターへ・・その途中にて
「あ」
あれは・・昨日もみかけたあの組み合わせ
シンちゃん先輩とやまと・・
楽しそうに話しながら、アクセのショーケースを覗き込んでいる。
こうは既に細切れになった心がさらに剥がされるような痛みを覚えた。
自分にとっての大切な人である笑顔がこんなにも痛い。二人の仲はもうわかったから。もうこれ以上みせつけないでよ・・
どうやら購入する品が決まったらしい。
シンが諭吉を店員に手渡すのがみえ、やまとがラッピングされた商品を受け取る。そしてその振り向いた視線がこっちに・・
やまとと目が合うか合わないかといった瞬間に、こうはまた走り出していた。
しかし人気のない場所求めて夢中で走っていると、不意にこうの手が誰かに掴まれた。思わず振り返ると
「・・なんで逃げてんだ?」
そこにいたのは自分が逃げ出した相手だった。
「シンちゃん先輩、なんで・・」
「こう、俺は・・」
「なんで私なんか追ってきてんですか?!先輩はやまとを選んだんでしょ?」
「は?お前何を言って・・」
シンは首をかしげている。
「だってやまとがつきあいますって・・今日だってデートでもしてたんでしょうが?ラブラブっぷりを周囲に見せ付けてくれちゃって!」
「・・こう、それは誤解」
永森さんちのやまとさんが、シンの後ろから現れた。その手にはさっきシンが買った商品入りの箱が。
「誤解?なにが?」
やまとはやれやれと首を横にふった。
「まずね・・私と
アスカ先輩はつきあってないよ。」
は?こうはやまとの言う意味を理解できなかった。
「え?でも昨日つきあうって・・」
「それはただ単に今日の買い物につきあうってだけよ。交際、って意味じゃない。」
そういうやまとの表情からは、嘘は感じられない。どうやら自分のはやとちりだったらしい
「それにね、いまさら隠しても意味ないからいうけど、私達が今日買いにきたのは・・」
「おっとやまと、そっからは俺が言う。」
やまとを制し、シンがこうの前に立つ。心なしかその顔は赤い
「ほら、お前、3日誕生日だろ?だからその誕生日プレゼントを、な。」
やまとがシンに例の箱を手渡す。
「今更隠す必要もなくなったしな・・ほれ、2日はやいけど・・誕生日おめでと。」
こうはぽかん、とした表情でそれを受け取った。だけど麻痺した頭は急速に解凍され、同時に引き裂かれた心も修復されていく。
「ありがと・・シンちゃん先輩。やまとも」
「気に入ってもらえるといいんだがな・・帰ってから開けてみてくれ。」
「はい・・あ、一つ聞いてもいいですか?」
こうはいつもの笑顔でシンを見据える。シンは頷いた
「なんでやまとに選定の手伝いを頼んだんですか?」
シンは僅かに赤らんでいた顔をさらに少し赤くした
「ほら・・俺センスないから、女の子の誕生日に何プレゼントしたらいいかわからなくて・・それにさ」
シンは顔の赤を深めながら、でも真っすぐにこうを見据えたまま、爆弾を投下した
「好きな娘の誕生日に、へたなもん渡せないじゃん・・」
2月3日 こうの誕生日
放課後、アニ研部室にて彼女の誕生日パーティーが開かれていた。
主賓以外の出席者は隈だらけのひよりをはじめとするアニ研部員に、顧問の桜庭ひかる先生、やまとに・・
「悪い!遅れた!」
がらりと扉を開けて入ってきたのは、晴れてこうの恋人になったシン・アスカである。
「シンちゃん先輩遅い!」
「悪い!
こなたを撒くのにてこずった!」
そういいながら、こうの隣の席に座る。・・と、その視線はこうの胸元に。
「・・意外に似合ってんじゃん?」
「意外にはいらないって・・」
シンが誕生日プレゼントとしてあげた、深紅の石が光り輝くネックレスである。
赤はシンにとって特別な色だ。彼の瞳な色でもあり、彼がかつて纏っていた服の
色でもあり、デスティニーの翼の色でもある。
だから自分にとっての特別な存在であるこうにこの色を贈ったわけだが・・
やまとがいなけりゃMGデスティニーになっていたかもしれない。いや、確かに赤いけど、翼とか。
というかその可能性は非常に高い。
「さて主賓その2もきたところで・・」
ひよりが先程までのぐったりはどこへやら、隈をうかべながらも目を爛々と輝かせ、それでいてニヤニヤしながら二人を見比べている。想像したら非常に奇妙だ
「なんだその2って・・」
「なんか嫌な予感がする・・」
「二人には誓いのキスでもしてもらいましょうか。私としては是非その現場を絵に、あ、痛っ何するんスかやめ・・ウボアぁぁぁあ」
アニ研部室には先輩二人にフルボッコにされるひよりの悲鳴が、しばらく鳴り響いていたとさ。
最終更新:2010年02月02日 21:11