雨が降る。当然だ、何故なら今の日本は梅雨なのだから。
陰鬱で、押しつぶすような圧迫感を持つ灰色の雨雲を見上げて、小早川ゆたかは少し困ったような溜め息を漏らした。
委員会の仕事で放課後遅くまで残っていて、いざ帰ろうとしたら傘を忘れていたことに気づいたのだ。
雨の勢いは時間を重ねる度に強くなる一方だ。男子みたいにカバンを雨除け代わりにして走るのは、体の弱い
ゆたかには酷だった。
おまけに、携帯もない。これまたどこかの天然な先輩のお株を奪うかのように、華麗に忘れてしまったのである。
「……どうしよう」
また溜め息が漏れる。よく世話になり、知り合いとも言える天原先生に送ってもらおうかな。
そんな考えが浮かんだ時、唐突に背後、生徒玄関の中から言葉がかけられた。
「あれ、ゆたか?」
「あ、シンお兄ちゃん」
泉家にて同じ居候の身分であり、何かと面倒を見てくれる兄貴分の少年、シンが不思議そうな表情を浮かべて、上履きからローファへと履き替え彼女の隣りまで歩いてきた。
「どうしてまだ学校に残ってるんだ?」
「私は委員会だよ。そういうお兄ちゃんは?」
「あ~俺も似たようなもん、かな?」
そういって顔を背け、苦笑いを浮かべるシン。
ゆたかはそれで、ああ、また厄介事に巻き込まれたんだなぁ、理解した。
伊達に同じ屋根の下で暮らしているわけではないのだ。
「あ、そうだ。シンお兄ちゃん傘持ってる?」
「ああ、いつも
こなたの真似して置き傘してってるからな」
傘立て置き場にいき、そこから一本の成人男性が使いそうな大きめの傘を取り出すシン。
そのことにほっとし、ついでこれから自分が何を言おうかと想うと、必要事項とはいえ顔が羞恥心で紅潮してきた。
「あの、シンお兄ちゃん…私、その、傘忘れちゃったから…えっと、一緒に入れてくれませんか?」
最後の言葉が無駄に丁寧語になってしまったが、しっかりと伝えた。
それに対しシンは。
「何だ、傘忘れてたのか。じゃ、一緒に帰ろうか」
傘を広げて、その中にゆたかの小さな体をすっぽり入るように掲げた。
ゆたかはシンの優しさに笑みを浮かべて、歩幅を合わせてくれるシンと、肌と肌が触れ合うような状況で我が家へと帰って行った。
最終更新:2010年03月16日 15:38