ブラウン管に映る景色。
それをみて一人の少女が泣いていた。
少女の目の先に映っているのは一人の少年。
明るく優しく振舞ってくれた自分の好きな人。
だが、今 その少年はブラウン管の中で絶叫していた。
国を焼かれ、家族を奪われて。
『アアァァァァ!!』
妹の形見という携帯電話を握り締め、テレビの中の少年。シン・アスカは魂が千切れるほどの慟哭を発していた。
少女……
みゆきは画面の向こうのシンに謝った。泣きながら、めがねを外し、何度も涙を拭いながら。
テレビを消した。これ以上は見ることが出来ない。見てはいけない。
それと同時にデッキからDVDディスクが排出される。
『機動戦士ガンダムSEED Destiny』
みゆきは思う。こんなはずではなかった。自分はただ、『ガンダム』というものを……シンのいた世界を少しでいいから知りたいと思っただけ。だが……物語の最初から、みゆきは残酷な真実を知ってしまった。
いや、それは本来、自分が知ってはいけないことなのだと、そのシーンを見た瞬間に理解してしまった。
思えば気づくべきだった。友人である、泉こなたが自分にこのDVDを貸そうと言い出さなかったときに。わざわざレンタルビデオでこれを借りた己を、みゆきは強く恥じた。
そして彼女は罪悪感と泣きすぎて喉を痛めた結果、床に伏せった。
翌日
学校からの帰り道、シンは見舞いの品と今日出されたプリントを持って高良家へとやってきた。
「あら、いらっしゃい」
人のよさそうな笑みを浮かべてみゆきの母
ゆかりが出迎え、シンはみゆきのいる部屋へと通される。
「高良。風邪 大丈夫?」
「……アスカさん」
普段、可愛らしいみゆきの声はガラガラにひび割れていた。眼鏡の向こうの瞳は泣きはらしたように真赤。シンはみゆきの容態に焦った。自分が会いに来たので無理して応対してくれているのではないかと思ったから。
「大丈夫か、高良? あまり悪いなら無理しない方が……って」
「アスカさん! 私……」
みゆきはいきなり、シンの服を掴んだ。
いきなりの事態に動揺するシン。
みゆきはシンに懺悔した。
自分が知ってはならないことを知ってしまったこと。
許してもらえるとは思っていないがせめて、一言でいいから詫びたいとおもったこと。
「高良」
「ごめん…さ…ゴホッゴホッ」
枯れた喉でしゃべり続けたため、咳き込むみゆき。
シンは、そんな彼女に……言った。
「大丈夫だ、高良。気にしてない」
「で、でも……」
シンは彼女の許可を得て、ベッドの脇に腰を下ろす。
そして話した。確かに自分は家族を失ったけど、みゆきがそこまで気に病む必要はないと。
「正直、この世界に来たばかりの俺ならキレていたかもしれない。でも、高良が俺の過去を知ろうとしたことに悪意はない、って分かっているから」
「で、でも私は……!」
まだ何かを言おうとしたみゆきの口をシンは手で塞いだ。
「高良、聞いてくれ。俺はこの世界に来て変われた。
こなたやお前、柊たち――大切なお前らが俺に毎日を楽しむことを教えてくれたんだ」
「アスカさん……」
「だから、俺はお前を怒っていない。それにおまえにそこまで背負い込まれると俺の方がつらいんだ。もし、俺のことを思うなら明日から、また笑ってくれないか?」
みゆきは再び泣き出した。
許してもらえた嬉しさと、自分がシンにとって大切な存在であると言ってくれたから。
翌朝、みゆきは喉を少し痛めた状態であるが登校した。
席につき、こなたとつかさと挨拶を交わし、シンにもいつもどおりに接する。
「おはようございます。アスカさん」
「ああ、おはよう、高良」
みゆきは思う。こんな日常がいつまでも続けばいいと。そして願わくば、シンが元の世界に帰るとき、自分のことを忘れないでほしいと。
FIN
最終更新:2008年01月31日 04:31