「よかったな、たいした事なくて」
「だから、ただの風邪だって……けほっ……言ったじゃない……」
「ああ、答えなくていいぞ。タクシー使って帰るから寝てろ、
こなた」
いつもだったら、シンにおんぶをされているのを気恥ずかしく思うかもしれないけど、今日は頭がぼ~としてそんな余裕はない。
身体がだるくて、目を開けているのも億劫だ。そんな状態でも律儀にシンに返事する自分に苦笑せずにいられない。
風邪なんだから仕方ないよね?そんな大義名分を盾に、私はシンの広い背中に顔を埋めた。
茹だるような暑さから一転、今週はちょっと涼しくなって過ごしやすくなった。とはいえ、季節の変わり目は体調を崩しやすいともいう。
夏休み最後の週を惜しむように遊びまわった疲れもあってか、私は新学期そうそう学校を休んだ。
夏休みボケでなかなか起きない私をシンが起こしに来て、顔が赤いのを見て熱を測ったら、38.5度。敢え無く私は欠席を余儀なくされた。
仕事で昨日から家を空けているお父さんの代わりに、シンが学校を休んで看病を買って出てくれたのは本当に感謝の言葉もない。
だけど、熱を測るのにおでことおでこで測るのは反則だ。たぶん、あれで0.5度は熱が上がったと思う。不意打ちでやられると、ダメージが大きい。
あと、体温計をお尻に挿そうとするのは反則とかいうレベルの話じゃない。あれで1.0度は熱が上がったと思う。流石にそれは恥ずかし過ぎる。
シンは私をおんぶして、そのまま病院へと走り出さんとする勢いだった。ゆーちゃんがタクシーを呼んでくれなかったら、きっとそうしたんだろう。
いつもは私よりも年下のくせに落ち着いてるのに、こんな時には焦りの色を見せるシンがちょっとかわいいと思ったのは秘密だ。
だって、シンは私を心配してくれて、焦ってくれたんだから。私はそんなシンが愛しくて、そっと背中にキスをする。ありがと、シン……
「あれ……もう家?」
「こなた、起きたか?腹減ってるんなら、飯持ってくるぞ?」
気がついたら私は自室のベッドで横になっていた。時計を見るともう昼過ぎ。病院に行ったのが診察開始直後の9時だったから3時間は寝たのだろうか?
シンの言葉にちょっと空腹感を覚える。熱はあっても食欲はあるみたい。そういえば、今朝は何も食べてなかったんだ。道理でお腹が減るはずだね。
「ほら……口開けろ」
まさか、シンに『あ~ん』をさせられるなんて……いつもの私だったらノリノリだったかもしれないけど、今日はちょっと恥ずかしい。
おずおずと口を開けて、シンの突き出すスプーンをくわえる。シンの作ったおかゆは梅の酸味が利いてて美味しいかった。でも、やっぱり恥ずかしい。
「汗かいてたから、水分補給しとけ、こなた」
シンがストローを挿したコップを渡してくれた。冷えたポカリが喉を通して身体を冷やしてくれる。
ご飯を食べた後なのにコップ一杯の分のポカリを飲めたのは、それだけ汗をかいたということなのだろう?
それならパジャマが濡れててもおかしくないはずなのに、私のパジャマはまるで着替えたばかりのように乾いている。
私が目を覚ました時、シンがシワだらけのパジャマと洗面器とタオルを持っていたのと、一本の先で繋がりそうだけど――今はあんまり頭が回らない。
飲んだ薬が効いてきたのか、眠くなってきたから私はそこで考えるのをやめた。
「まだ、熱は下がってないな……」
「ん~、そう?」
体温計を振りながら、シンが難しい顔をしてる。今日一日寝てたのに、熱は下がってないみたい。夏風邪は長引くというし、これは明日も休みかな?
「仕方ない……これを使うか……」
シンが処方箋から何かを取り出す。なんかまだ薬を飲まないといけないのかな?
「こなた、ちょっと背中丸めろ」
なんだろ?汗でも拭いてくれるのかな?でも、今日の私、風邪を引いてる割にはあんまり汗かいてないと思うんだけど?
「じゃあ、力抜け……」
言われなくても、今日は力入らないよ。そう答える気力もないんだから、こりゃ重症かな?
「――そりゃ」
あれ、なんかおしりがすーすーする?と思った瞬間、何かがつぷっ、と入っていった。
それを押し込むシンの指が私のおしりに触れた瞬間に、私はそれが何なのか気づいた。えっ?えっ!?えぇぇぇ~!?
「シ、シン!?もしかして、今!?私のおしり……見た?」
それよりも、シンに見られたかの方が気になった。いや、シンは私のためにやってくれたんだろうけど、恥ずかしいよ、やっぱり。
「こなた、いいたいことはあるだろうけど、今は寝ろ。文句は熱が下がってから聞くから。
そうじろうさんは明日には帰ってくるらしいし、それまでには直しておかないと、な?」
ずるいよ、シン。お父さんをここで盾にするなんて。
お父さんはお母さんのこともあって、私が熱を出すとすごく心配する。それこそ心配性って言っていいくらいに。
シンはそれを知っているからこそ、私にあの薬を使ったんだろう。
頭ではわかるけど、やっぱりずるい。おしりを見られちゃったら、恥ずかしくて明日からシンと顔を合わせづらいよ。
「……ん~」
「どうした、こなた?トイレか?」
目を覚ますとシンがタオルを絞っておでこに乗せてくれてる所だった。時間は……夜中の2時くらいかな?
今日一日、シンのお世話になりっぱなしだね。ずっと私の傍についてくれてたのかな?……あれ?
「シン、寝ないで大丈夫なの?」
「気にするな、そんなヤワな身体はしてないよ」
考えれば、朝からずっとシンは私の看病をしてくれていた。目を覚ますといつも私に声を掛けてくれた。
そもそも、シンは今夜、寝たのだろうか?もしかして寝ないで私の看病をし続けてくれていたのだろうか?
「シン、私のそばにいたら、風邪……うつっちゃうよ」
「たいていの病気とは無縁だから気にするな」
こともなげにシンが答えながら、私のおでこにタオルを乗せてくれた。あれ、シンの手……冷たい。もしかして、タオルを絞りすぎて?
「シン――」
「言いたいことがあるなら、熱が下がってから聞くぞ。だから、もう寝ろ」
そんな心配そうな顔されたら……私何も言えないよ。本当にずるいよ、シン。
「37.0度か……今日一日寝てたら治りそうだな」
シンが体温計を見ながら呟く。どうでもいいけど、私のパジャマの胸元を開けたままにしておくのはどうかと思うよ、シン?
……まあ、そのくらいの文句が浮かぶぐらいには治ってきたのかな?シンの看病のおかげで。
シンとしては私が熱を出して本気で心配してくれたんだと思う。だから、あんなに一生懸命につきっきりで看病してくれたんだろうね。目の下にクマできてるし。
でも、やっぱり、おしりを見られちゃったのは許せない。せめて一言、言って欲しかった。シンに見せるのはそーゆー時にして欲しかったし。だから復讐。
「シン……シンは風邪引かないって、本当?」
「ああ、俺はそういう身体なの」
「じゃあ――」
「こな――?」
感謝の気持ちをこめて無理矢理、口移ししてもうつらないよね?まあ、うつったら今度は私が看病するよ、シン?
最終更新:2007年11月24日 17:39