みなみの誕生日の数日前。シンと
ゆたかは学校の帰りに町に来ていた。
「プレゼントを買うにあたって聞いておきたいことがある。みなみって、読書のほかに好きなものあるか?」
「犬・・・とか。あ、鍵盤楽器もかな」
「犬は・・・無理だろ。楽器は俺の金(ちから)じゃ手が出せないし・・・やっぱり本が妥当か」
シンはズボンのポケットの財布を見て呟いた。
「うん。でも何買えばいいのかな。読書好きなんだから下手に有名なの買ったら持ってそうだよね」
読書家ならばマイナーな作品にも手を出してるかもしれないのが難しいところである。
「そうなんだよな。・・・よし、そこの本屋で探してみるか」
「ゆたか~、なんかいいのあったか?」
本屋に入ってから数分。
本を探している途中、プレゼントに適したものを別に考え付いたシンは手ぶらでいた。
「うん。一応、何冊か選んでみたんだけど」
ゆたかの手には小さめの単行本が三冊あった。
「なになに『明るくなるための方法』、『ぶっちゃけるための活路』、『無口でも伝わる~彼に振り向いてもらえる百の秘儀~』か。
変わったラインナップだな」
「そうかな?お兄ちゃんは?」
「俺、やっぱり本じゃなくてMG運命をあげる( ゚д゚)」
「へぇ~」
それは喜ぶかどうか微妙だな。と内心思いながらも笑顔を崩さないゆたか。
優しい子である。
と、そこでシンはゆたかの異変に気づいた。
「そんなことより、ゆたか。ちょっと顔色悪いんじゃないか?」
先ほどよりも血色を失ったゆたかの顔はどこか辛そうに見える。
「え・・・大丈夫だよ」
「いや、いいから休むぞ」
シンはゆたかを連れ、通りで見かけたベンチまで戻った。
「もう大分良くなってきたから、シンお兄ちゃんはさっきの本買ってきちゃって」
「本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ」
平気そうなふりをしているが、明らかに無理そうに見える。
実際に顔色も大して良くなっていない・・・気がする。
一分程度迷っていたシンであったが
「ん~、分かった。でも、すぐ終わらせるから」
と言って、全力で本屋へと駆けて行った。
「ふぅ・・」
シンがいなくなって数分。気が抜けたのか、安心するゆたか。だがそこに
「お、小早川じゃん」
と、背後から声が聞こえてきた。
「え~と・・・確か中学校で同じクラスだった・・・」
ゆたかの答えに満足したのか声の主である他校の男子生徒は笑った。
「そうそう。覚えててくれたんだ。あれ・・・その征服どこのだっけ?」
「陵桜だけど・・・」
中学ではけっこう休みがちだったことと、その控えめな性格もあってか、ゆたかはあまりこういった軽いノリの人物には慣れていない。
「へぇ・・・・・・・・・・お前さ、中学のころ休んでばっかだったけど、勉強とか付いていけるかよ?
てか、また休みまくってるとか・・・高校は単位制なんだからヤバいぞ」
一見心配されてるようで、なかなか思いやりを感じない。実際、相手の元クラスメイトは暇つぶし程度にゆたかに話しかけているのだろう。
とりあえず話題もないので話しているといったところである。
「うん・・・その」
なんて答えよう?とゆたかが必死で考えているあいだに、元クラスメイトは追い討ちをかけた。
「てかさ、なんでこんなとこいんの?お前の家こっちだっけ・・・もしかして彼氏と待ち合わせか?」
「え、それは違う・・・かな」
ゆたかが即座に否定したのを見て元クラスメイトは安心したような表情になった。
「だよな~。よく考えたらお前、その小さい身長って、頑張ったって中学一年生くらいにしか見えないもんな~!」
こういったことをストレートに言うのはけっこう・・・いや、かなり相手のことを考えていない。ゆたかもこれには少しばかりショックを受けた。
と、そこへ
「ゆたかは何にだって一生懸命だし、学校だってちゃんと行ってる。
友達と毎日楽しくやってるし・・・彼氏だってそのうち出来るだろ」
本を購入し終わったシンが二人のあいだに割って入った。恐らく、最初のほうから聞いていて、
二人の再会を邪魔しないように配慮していたら話の内容がおかしな方向に向っていきそうだったので止めに来たのだろう。
「何だよ、お前」
「俺はゆたかの・・・・・兄(仮)か?まぁ、いいや」
「は・・・?」
「それはどうだっていい。さっき言い忘れたけど、あんまり人の過去を掘り返すのは良い趣味じゃないぞ。
それと、何気ない一言で人は傷つくことだってあるんだ。ちゃんと考えて発言しろ」
普段とは打って変わって攻撃的な態度のシンを呆然と見るゆたか。相手もシンの軍人だったころオーラにやられたのか、そそくさと去っていった。
元クラスメイトが去ってすぐ、シンはゆたかに全力で謝っていた。
「ごめん、ゆたか。俺がすぐお前と帰ってれば・・・お前が嫌な思いせずにすんだのに」
申し訳なさそうにするシンに反して、ゆたかは頬を朱にそめて首を横に振った。
「いいよ、シンお兄ちゃんは悪くないし。
それに・・・さっきのこと確かにショックだったけど、シンお兄ちゃんがちゃんと助けてくれたから全然平気だよ」
「ゆ、ゆたか」
こなたにもこの子のような純粋さがあればな、などと失礼なことを考えているシンであったが、ゆたかの体調が悪いことを思いだして、慌てて帰路についた。
「でも、やっぱりさっきのは俺のミスだ。速く会計済ましてたのに・・・あんなこと言う奴だって分かってたらもっと先に割り込んでた。もしこれが任務だったら死刑だな」
「もういいのに。それに・・・あの人もそんなに悪い人じゃなかったと思うよ」
相手を庇うゆたかに不満そうな態度のシン。
だが、そこでよし、とひとり頷いてゆたかの前に立ちふさがった。
「どうしたの?」
「ゆたか、この借りは必ず返すッ!・・ってこれじゃ敵キャラみたいだな。うん ・・・まぁ、簡単にいうと、近いうちにどこか連れてってやるってこと」
でもあんまり遠くは駄目だぞ、金あんまりないからな。シンはそう小さく言い足して再び泉家へ歩き出した。
一方、ゆたかはシンの大胆な発言に石化。さらにシンが気づかず放置されたままだった。
ゆたかが後ろにいないことにシンが気づいたのは泉家に到着してからだった。
シンはそれを誘拐だと勘違いし、スピード覚醒したかのような速さでゆたかのとこまで戻ってきたとか。
ちなみにみなみにプレゼントしたMG運命はあんまり喜ばれなかった・・・らしい。
最終更新:2009年04月19日 02:38