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8-27

 パルマ職人の朝は早い。
「いや、好きでやってる訳じゃないけど」
 最近はパルマの回数をカウントされていると口をこぼした。
 まず、最近添い寝から同衾になりつつある居候先の娘さんのパルマから始まる。
「やっぱり一番驚くのは朝っぱらからこなたの胸に手がいっている自分の手癖の悪さだな。
 なんで毎朝、手がそこに行ってるのかな、と」
「毎日毎日手触りとこなたの身じろぎ方が違う。奇怪では説明できない」

 今日はNoパルマ日。
 彼は周囲を警戒しながら、今日はパルマを発動させまいとこなたさんと学校に向かう。
 基本的な型は決まっていないが、周囲の女性陣の胸囲に合わせ、多種多様のパルマが
発動してしまうのが辛いところ、と彼は語る。
「やっぱり発動後は気まずいよね。愚痴っても自分のしでかしたことだから仕方ないけどさ」
「でも、自分がしたことだから、ちゃんと責任は取らないと」
 パルマ鑑定士のこなたさんとはもう2ヶ月来にもなる付き合いです。
「いや~、朝から生パルマとはね~。まあ、暑くてパジャマのボタンを緩めてた私も悪いんだけどね」
 彼女の目にかかれば、見るだけでパルマの出来不出来がわかってしまう。

 技術立国日本、ここにあり。
 今、一番の問題は被害者の女性へどう責任を取るべきかわからないことであるという。
 床に就いたシンさん。 いっしょに布団にもぐりこんだこなたさんの胸を手に取りモミモミ!
「またやっちまったよ。本当にわざとじゃないのに……」
 パルマに自己嫌悪してしまうと、その日の営業をやめてしまうという。

 シンはほとんど毎日といっていいほど、私の胸を揉む。
 まあ、元はといえば、こっちに来た頃に毎晩毎晩うなされていたシンを安心させたくて、
私が添い寝をしていたのが原因なのだ。
 シンは護れなかったご家族や、知り合いや、仲間や、友達や、帰るべき場所を数多く失ってきた。
 それが自分の手から離れて行くのを極端に恐れている。逆に言えば、触っていれば安心できるのだ。
 だから、私はシンに側にいるよ、大丈夫だよ、と安心させたくてシンの手を取ってぎゅっと抱きしめた。
 そうやって寝るのが日常化して――現在に至る。

 シンはすっかり明るく、歳相応に笑うようになった。
 まだ、元軍人としての硬さと慎重さは残っているけど、以前と比べるとまるで別人だ。

 そして、私も別人になった。我ながらその変化には驚いている。
 最初の頃は私の着替えを見たりして、普段の硬さとはかけ離れた慌てふためくシンの姿を面白おかしく
見ていたものだ。ついつい面白くて、わざとシンが入ってくるであろう時間を見通して、
先にお風呂に入って待ち構えてたりもした。シンをからかって、遊んでいたのだ。
 前述のシンが私の胸に触れる事故の多発も、私にとってはからかいの種でしかなかったのだ。

 いつからだろうか――
 シンが私以外の女の子の胸に手を触れるのを見るたびに、胸の奥がちくちくと痛むようになったのは?
 シンの一挙一動を目で追い、学年の違うシンと別々の教室で授業を受けているときもシンのことを
考えてばかりいるようになったのは?
 シンが私の胸に触れるパルマが嬉しいはずなのに、事故で触れられていることを寂しく思うようになったのは?
 シンに自分の意志で触れて欲しい、シンに求められたい、シンに好きだって言って欲しいと思うようになったのは?

 私は居候先の娘だから、もし告白してそれを受け入れなかったら――
 シンは気まずくて、私に気を使って家を出てしまうかもしれない。そう考えると告白もできない。
 シンにとって、私は姉のような存在なのか、ゆる~く遊び相手なのか、妹みたいなものなのか、
それとも女の子とも思われてないのか?それを考えるのも怖くなってしまった。
 好きだから動けない袋小路にはまってしまった私は、今日もシンと同じ布団に寝て、彼に触れられるのを
じっと待つのだろう?私に触れることで、彼が安らぎを覚えてくれるのなら、それが私にとっての救いになるから。

 本当はパルマなんかしたくはない。

 俺を信頼してくれてるこなたを裏切るような真似はしたくないのに、俺の右手はこなたのぬくもりを求めて、そこに伸ばされている。

 こなたに会って、笑い方とか、なにも起こらない平穏で退屈な日常のありがたみとか、人を傷つけないで
いられずにいる世界の素晴らしさとか、遠くに置き忘れてきたことをたくさん思い出せた気がする。
 しあわせってどこにでもあって、それを分かち合える人が側にいれば、そのしあわせは相乗効果を起こして
どんどん膨れ上がることを教えてもらった気がする。

 でも、気づいたらどうもギクシャクする。俺らしくないけど、こればかりはしょうがない。
 こなたのことが好きなんだと気づいたのはいいけど、それを伝えていいものか考えてしまう。
 俺はいつまでこっちにいられるんだろう?それはあまり考えたくない。
 俺は人並みのしあわせとは縁遠そうだし、きっとある日突然ここからいなくなってしまうそうな気がするからだ。

 本当にささいなしあわせでいい。こなたといっしょにいて、いっしょに笑えて、いっしょに楽しく過ごせたら――
 でも、俺はこなたといられればしあわせだけど、こなたは俺といっしょにいてしあわせになれるのか?
 しあわせにできるのか?それを考えてしまう。
 俺は何度も護りたかった大切な存在を、ちいさなしあわせをこの手からこぼしてしまってきたのだから――

 こなたのことが好きだから、こなたを護れる自信を持てないのに想いを伝えるのはためらってしまう。

 だから、今日も俺はただの居候のまま。
 だけど、俺の右手は隣で眠るこなたへと勝手に伸びている。


 パルマフィオキーナ、イタリア語で『掌の槍』の意。
 その重い槍は相手を想う思いやりに隠れた気持ちを乗せて、今日もそっと伸ばされる。

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最終更新:2007年11月25日 12:19
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