1.
全てはこの忌々しい暑さのせいだ。ぼくはそう決めた。何もかもがいつも通りだっ
たら、ぼくはこんなことを考えはしなかったに違いない。
いま、この家にはぼくと、小佐内(おさない)さんしかいない。誰の目を憚る(かばかる)こともない、ということだ。
これまでにだって、二人きりになることが全然なかったわけでもない。だけどぼくは、
小佐内さんに手を出そうなんて考えたことはなかった。今日までは。
クーラーが涼しい風を送っていてくれるはずだけど、とてもそうとは思えない。
夏の熱気を溜め込んだ体の中で、ぼくは自分の気分が果てしなく高揚していくのを感
じ、一方で頭の芯みたいなところがすうっと冷えてくのを感じた。汗が滲んで(にじんで)いるような気がして、ハンカチで耳の下を押さえる。緊張で、喉が渇いてきた。小佐
内さんが注いでくれた麦茶を、ほんの少し口に含んだ。