親友

by東京都

どこをどう間違えたんだろう。私の周りはこなちゃんのあの一言から何かおかしくなってしまった。
いつもと変わらない授業、いつもと変わらない休み時間。その筈だったのに。
こなた「ねぇ、最近つかさって調子乗ってるよね?」
つかさ「へ・・・?こなちゃん、何の冗談なの・・・?ねー、ゆきちゃん・・・こなちゃんが・・・」
みゆき「・・・」

最初は冗談だと思ったんだよ。だってこなちゃんってばいきなりそんな事を言ってくるんだもん。
でも冗談じゃなかったんだ。後になって考えてみると、あの時教室の空気がいっぺんに変わったから。
その日は「今日のこなちゃんは何だか変だな」ぐらいに思ってなかった。
でも次の日に学校に行ってから、こなちゃんの言ってた事の意味が分かった。

つかさ「おはよー、みんなー」
みゆき「・・・あっ、おはよう・・・ございます」
クラスの子「・・・」
誰も挨拶に答えてくれなかった。
その日から、私はクラス中の人から苛められるようになった。ゴミが机の中に詰められてたり、
教科書とか靴が見当たらなくなったりとか・・・。

こんなことおねーちゃんには絶対に言えなかった。だって心配を掛けたくなかったから。
そんな嫌がらせが始まってから2・3日たったぐらいだったかな?
放課後に、私はこなちゃんに呼び出された。
こなた「ねぇ、あんだけ嫌がらせされて何か感じないの・・・?」
つかさ「な、何かって・・・?」
こなた「何か言うことあるでしょ?こっちが聞いてるんだから質問で返さないでよっ!」

ドン

こなちゃんのキックが私のお腹に命中した。思わず倒れこんでしまった。
つかさ「ゲホッ・・・ゲホゲホ・・・、い、痛いよぉ・・・何でこんなことするの?」
こなた「決まってるじゃん。つかさがムカつくからだよ」
つかさ「お願いだから、もうやめてよ!何かこなちゃんを怒らせちゃったなら謝るから!ごめん!」
こなた「んー、許してあげなーい」

何回も何回もこなちゃんに蹴られた。痛くて辛くて、私は声をあげて泣いた。
次の日から、放課後にこなちゃんに呼び出されて蹴られるのが私の日課になった。
おねーちゃんもお母さんも、傷を作って帰ってくる私を不審に思ってたと思うけど、
私は笑いながら誤魔化した。

かがみ「ちょ、ちょっと!どうしたのつかさ?こんなに傷だらけになって・・・。あんたまさか・・・」
つかさ「へ、平気だよ!転んだだけだったから」

こなちゃんの暴力はどんどんエスカレートしていった。

つかさ「痛い!痛いよぉっ!お願いだからもうやめて!」
こなた「・・・あんたさえいなければ、かがみんは・・・」
つかさ「へ・・・?おねーちゃんがどうしたの?」
こなた「五月蝿い!五月蝿い!五月蝿い!」
傷だらけになって帰るのが私の日常。もうどれぐらいの時間が経ったんだろう。
ある日、堪らなくなって私は道端で泣き出してしまった。道を歩いていく人たちはきっと変な目で私を見ていたと思う。
傷だらけでボロボロの女子高生が道端で泣いていたから。
だけどそんなの関係なかった。そのときの私は、つらくてつらくて我慢できなかったの。

女の子「・・・もしかしてつかさ?どうしたの?こんなところで?」

懐かしい声に呼び止められた。とっさに名前が出てこないけど、誰だったっけ?
確か中学時代の友達だったような・・・。
女の子「久しぶりだね!ほら、私!かなだよ!かな!」
つかさ「・・・かなちゃん?」
中学時代の数少ない私の友達の名前だった。かなちゃん、私の一番の親友。中学時代はどんなときも彼女と一緒にいたっけ。
つかさ「う、うわあああああああああああん!」
かな「ちょ、ちょっと!つかさ!?どうしたの?落ち着いてって」
あれだけ泣いたのに、かなちゃんに会った途端に涙が溢れてきた。懐かしさ、嬉しさそんな物が沢山混ざった気持ちと共に。
かなちゃんに宥められながら、私は彼女にこれまでの経緯を全部話した。
おねーちゃんには相談できなかったことも、かなちゃんになら簡単に話せたんだ。

かな「・・・そんな事があったんだね」
つかさ「こなちゃん、前はすっごく仲良しだったのに・・・それなのに・・・それなのに・・・」
かな「ほら、落ち着いてよ。・・・うん分かった。私がつかさを守ってあげるから」
つかさ「かなちゃんが?」
かな「うん、本当に困ったら私を呼んで!絶対につかさの事を助けに行くから」
次の日もそのまた次の日も私はこなちゃんに苛められた。かなちゃんに再会できたからって
特にそんな日々に変わりはなかった。私だって分かってる。すぐに助けにくるなんて絶対に無理だって事。

こなた「・・・あんたさぁ、天然キャラで男受けでも狙ってんの?ムカつくんだよね。そういう態度が。
    それにこんなリボンもいっつも付けて・・・。本当に目障りだって」
つかさ「もうやめてよぉ・・・」
こなた「かがみんも、何にもしてないのにあんたには優しいし。正直目障りなんだよ!」
そういってこなちゃんは私のリボンを引っ張った。
おねーちゃんから貰った大切なリボン。

つかさ「やめて!これは大切なリボン・・・」
こなた「五月蝿い!こんなの・・・こうしてやる!」
引っ張られたリボンは簡単に解けた。こなちゃんは地面に落ちたそれを踏みにじる。

かな「・・・あんた、いい加減にしておきなよ?」
こなた「い、いきなり何よ?」
つかさ「かなちゃん!」
かなちゃんだ!かなちゃんが助けに来てくれたんだ!
かな「あんた、つかさに嫉妬してるんでしょ?かがみがいっつもつかさに優しいから。自分に振り向いてくれないから」
こなた「て、適当なこと言わないでよっ」
かな「そんなあんたにプレゼント。いいもの聞かせてあげる・・・」

かなちゃんはポケットからテープレコーダーを取り出した。いったい何をするつもりなんだろう?
テープレコーダーからは、雑音交じりで多少聞きづらかったけれど、よく知った声が流れてきた。おねーちゃんの声だ。
誰かと電話をしている時の声みたいだけど、どうやって・・・。

『かがみ「・・・でさー、最近つかさの様子がおかしいのよね。なんかいっつも傷だらけで帰ってくるし。何かあったのかしらね。
    こなた達の教室に行っても、最近はいつもつかさがいないのよね。どうしてかしら・・・。
    あー、こなた達の教室?よく行ってるけどそれがどうしたの?・・・へ?私がレズ?・・・誰と?
    こ、こなたと?冗談止してよ!あんなの唯の友達よ!」』

いったい誰と話してるんだろ?ふとこなちゃんの顔を見ると青ざめていた。

『かがみ「そりゃー、前は仲良かったけどね。でも最近は妙にベタベタしてくるって言うか正直なところうざいっていうか・・・。
    女の子同士で引っ付いても気持ちわるいだけよね。・・・あー、こなたの方はレズって言われても仕方ないかもー。
    だって彼氏とかできなさそうだしー?・・・いやぁ、確かに気持ち悪いって言えば気持ち悪いわよね。
    ヲタクだし、何だか変なにおいもするし」』
かな「どうしたの?何だか顔色が悪いわよ?こ・な・ちゃん?」
こなた「・・・こんなの聞かせてどうするつもり?」
かな「まーまー、最後まで聞いてよ」

『かがみ「あ、あたしにはちゃんと彼氏がいるじゃない。レズじゃないわよ!・・・それじゃバイかって?そんな訳ないでしょ!
    あんたのこと、ちゃんと彼氏だと思ってるわよ。・・・聞こえない?は、恥ずかしい台詞なんだからこれ以上言わせないで。
    うん、もうすぐ勉強始めなきゃ。うん、それじゃあまた明日、学校でね」』

かな「かがみって彼氏いるんだねー。ってもしかして知らなかった?まぁこなちゃんには彼氏できないよね?」

そう言いながら、かなちゃんは写真を取り出して見せた。何の写真だろう?よく見るとこなちゃんと、こなちゃんのお父さんが
写っているけど。

こなた「そ、その写真は・・・」
かな「こなちゃんも大変だよね。こんな変なお父さん持っちゃってさ。随分と“ひどい事”されてみたいだよね?
   いつから?小早川さんを心配させちゃ駄目だからって一人で抱え込んじゃって・・・。本当に健気だね~」
こなた「・・・やめろ。やめろやめろやめろ!」
かな「毎晩、毎晩こんなことされたら彼氏なんか作れないよね?私だったら男嫌いになっちゃうかもなー。
   さすがにこんな状態で彼氏なんか作れないよね?だから女の子に走っちゃったのかぁ?本当にこなちゃんて可愛いねぇ」
こなた「っ・・・!」

こなちゃんの顔が歪んだ。いったい何の話をしてるんだろう?あの写真はそんなに大事なものなのかな?

かな「ゆきちゃんとか、クラスの皆も言ってたよ。そろそろこなちゃんの事がウザいってさ。大体いっつも空気読まずに
   アニメの話ばっかりしてるもんね。それなのにちょっと腕っ節が立つからってクラス全員脅してイジメとかないんじゃない?
   みんな、こなちゃんが居ないところだと結構酷いこと言ってるみたいだよぉ?臭いとかさ・・・。
   本当にこなちゃんって可哀想だねぇ。誰にも必要とされてない。煙たがられてばかりで・・・・。
   あっ、ごめーん。こなちゃんの変態お父さんはこなちゃんの事をちゃんと必要としてくれてるよね!」

こんな辛そうな表情のこなちゃんは初めて見た気がする。青ざめて目には涙が溜まってて・・・。今にも泣いてしまいそう。
そんな事を思いながら、私は二人のやりとりをボーっと見ていた。

かな「こなちゃんどうしたの?いっつもあんなにつかさの事を苛めてたのに・・・。まぁ無理もないかな。
   つかさを苛めてもかがみんはきっとあなたの事を見てくれないもんね。アハハハハハ!本当に笑えるわ」

あんまり言われたので耐えられなかったのかな?こなちゃんはその場から走り出してしまった。

つかさ「こなちゃん!」
かな「ほら、つかさ!追いかけよう!」

かなちゃんが私の手をつかんだ。こなちゃんに散々蹴られたから、咄嗟には動けなかったけど、それでも何とか
こなちゃんを追いかける。走りながら私はかなちゃんに話しかけた。

つかさ「ありがとう!かなちゃん!何だかよく分からなかったけど、これでもうこなちゃんも酷い事しないよね?」
かな「気にしないで。みんな自分のためみたいなもんだし」
つかさ「それにしても、あのテープとか写真とかどうやって撮ったの?ん・・・?そもそもかなちゃんって、
    こなちゃんと会ったことって無いはずだよね?中学は違ったし。それにゆきちゃんとも・・・」
何かおかしい。かなちゃん・・・そもそも私にこんな名前の友達なんて居たっけ?何か変だ。

かな「あーあ、とうとう気づいちゃったか」
つかさ「どういうこと?」
かな「私はあなた。あなたは私ってこと。さ、こなちゃんを追いかけようよ。こなちゃん自殺するかもよ?」

そっか。そうだっけ。やっと気づいた。私に中学校時代の友達なんかいなかったんだ。
ずっとおねーちゃんと一緒にいた私。気が弱くて友達が作れなかったんだっけ。
かなちゃんは私の想像の中の友達。気が強くていつも私を守ってくれて明るくて・・・そんな理想の友達。
高校に入って、こなちゃんとかと仲良くなったから要らなくなったんだっけ。

こなちゃんは屋上にいた。

こなた「・・・あんな写真とって、どうするつもりなの?」
つかさ「別にどうこうしようなんて思ってないよ?私、こなちゃんの事が好きだし。ほら、あたしにとっての初めての友達だから」
こなた「私、あんたにあれだけ酷い事したのに、それでもいいの?」
つかさ「いいよ。本当にこなちゃんの事が大好きだから」

そう言って、私はこなちゃんに近づいた。私の初めての友達。
高校に入って周りと溶け込めずにビクビクしてた私、こなちゃんが話しかけてくれた時は本当にうれしかったなぁ。

つかさ「こなちゃんも本当は辛かったんだよね・・・。誰にも頼れなくて一人でそれを抱え込んでさ。私はこなちゃんの味方だよ」
こなた「つかさぁ・・・、私、私・・・」
つかさ「いつものこなちゃんに戻ってくれたね。やっぱこっちの方が私は好きだな」
こなた「ほ、本当に許してくれるの?」
つかさ「うん、もちろんだよ。
だからさ、死んで?」
こなた「へ・・・?」
つかさ「死んでって言ったの。聞こえなかった?」
こなた「な、なんで・・・?」
つかさ「許してほしいんでしょ?こなちゃんは大切な大切な友達“だった”けど、もう要らないや。かなちゃんに会えたしね」
こなた「か、かなちゃんって誰なの?」
つかさ「かなちゃんは私の親友だよ。ほら、こなちゃん。ここに剃刀置いていくからさ。あー、あとね、あの写真だけど、
    おねーちゃんとかゆきちゃんとかクラスの皆のところに送っておいたから。じゃあね!こなちゃん」

「・・・春日部市の私立陵桜学園で同校生徒の高校三年生の泉こなたさんが倒れているのが発見されました。
 現場の痕跡などから警察は自殺と判断して遺書などがないかを調べています。では次のニュースです。糖武動物公園では・・・」

おしまい めでたしめでたし
最終更新:2022年04月18日 18:17