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dear -Section14「苗木を守る人達~田村ひより~」




dear -Section14「苗木を守る人達~田村ひより~」



「ホッホッホッホッ……」

……元々は体力をつけるために始めた夜のジョギングだけど……

「ホッホッホッホッ……」

まさかこれが役立つとはねぇ~、三ヶ月前の自分が知ったら驚きっすね

「ホッホッホッホッ……」

駆け落ちかぁ……
あの日……泉先輩に釘を刺されたけど……
こんな良いネタ、ほって置く訳にはいかないっすよ~

dear -Section14「苗木を守る人達~田村ひより~」

でも……あの時の泉先輩は怖かったなぁ~

●

「……ひ~よりん。ちょ~っと一緒にあっちに行こうね~」

泉先輩に呼ばれた私は、素直に後を付いて行った。
……多分、怒ってるっすね……
そんな事を考えながら歩いていると、少し離れた場所で不意に立ち止まりこちらを向いて小声で話しかけてきた。

「……ひよりん……さっきさぁ『ネタ』って……言ったよね」
「は、はい。確かにそう言ったっす……」
「まぁ、漫画を書いている人からしたら、今回の事はかなり良い『ネタ』だよね~」
「……」
「素直に答えてよ。ね、ひ~よりん♪」

そ、その最後の『♪』がとても怖いんすけど!
何か今までに見たことのない笑顔だし!

「……で、ど・う・な・の・か・な?」
「……とても……良い……『ネタ』……っす……」
「うんうん、そうだよね~。こんな事、普通に生活してたらまず巡り会う事なんてないもんねぇ~」
「……そうっす」
「そりゃぁ、『ネタ』にもしたくなるよね~」
「そりゃぁもぉ、こんな事有り得ませんからね!」

この時に、ちゃんと自重してればよかったんすよね~

「両親によって恋人と会えなくなった娘!それを助け出そうとする恋人!もぉ、王道っすよー!」
「ふぅ~ん」
「恋人を助け出すために策を練り上げ、それを実行して恋人と駆け落ちする!……はぁ……ロマンチックっすね~」
「ほぉ~」
「そして、駆け落ちした先での数々の試練!……それを乗り越えた二人はさらに愛を深め、そして……えへへ……」
「ひよりんは、そんなさきのことまでかんがえているんだね~」
「はい!……って、なんで棒読みな感じで言うんす……はっ!」

思わず勢いで色々と話してしまった私を、泉先輩はとても清々しい笑顔で見つめていた。
……目は笑っていないけど……。

「……あ、あのぉ~」
「な~に?」
「す、すみません……でした……」
「何が~?」


……これは怖い、てゆーかかなり怒ってるっす~

「えと、その……『ネタ』にした……事っす……」
「別に~、『ネタ』にするのは仕方ないよ~」
「え!?じ、じゃぁ……」
「でもさ」

そう言うと、泉先輩は急に真面目な顔でこんな事を言ってきた。

「私は……真剣なんだよ……だからさ……」
「は、はいっ!」

ビビりまくる私を見た泉先輩は、表情を一転させて満面の笑みでこう言った。

「『自重』しよ~ね~」
「す、すみませんでしたぁぁぁぁーーーー」
「そんなに謝らなくてもいいよ~。……ただし『罰』は受けてもらうけどね」
「……はい、どんな『罰』でも受けるっす……」

はぁ……自分が蒔いた種だし、仕方がないっす……

「それじゃぁねぇ……、うーん、どうしようかなぁ~」
「あ、あのぉ……出来ればそんなに厳しくない感じで……」
「そう言われてもねぇ……。あ、そうだ!……良い事考えた♪」

だからその『♪』が怖いんすよぉ!

「あのね~、『計画』には役割分担があるんだ~」
「役割……分担?」
「そ。私が動かない代わりに、みんながそれぞれに仕事をするんだよ。……どんなのかは知らないけど……」
「はぁ。……で?その……役割分担と『罰』の関係は……」

この時、物凄くテンパってたんすね~
少し考えりゃわかる事なのに……

「そりゃ勿論有るよ~。えっと、ひよりんは『罰』として、一番大変な仕事を担当する義務をあげよう」
「……頑張るっす……」
「さ、それじゃ二人の所に戻ろっか~」
「……はい……」

「ゆーちゃ~ん、みなみちゃ~ん。ひよりんが『一番大変な仕事をやってあげるよ』って言ってくれたよ~。うぅっ、こんな先輩想いの後輩を持って、わたしゃ幸せだよ……」

そんな!私自分からなんて言ってないし!!

「た、田村さん……本当なの?」

あぅ……小早川さんと岩崎さんが心配そうに見つめてる……
でも……仕方がないっすね……

「あ、えと、うん。が、頑張るっすよぉー!!」

●

「ホッホッホッホッ……」

でもまぁ、最初は辛そうに感じたけど……以外と楽そうっすね~
大変は大変だけど、そんな言うほどとてつもなく大変って感じはしないし……
やっぱコミケその他で鍛えられてるからっすね!流石は私!!


……コミケかぁ……
……泉先輩とヲタ話するの……楽しかったなぁ……
でも……
それももう無理なんすね……

はぁ……
こればかりは小早川さんや岩崎さん相手に話す事は出来ないからなぁ~
……って、あれ?……待てよ……
確か泉先輩が見せたから、二人とも私が書いた同人誌がどんな物かを知っているっすよね……
……じゃぁ……さらにディープでカオスな……

『ひよりん!自重しよ~ね~♪』

「ひぃぃぃぃ!」

い、今のは気のせい?
それともテレパシー?
……はい……自重します……

☆

「ホッホッホッホッ……」

コースの半分通過っす!
……そういや、岩崎さんが言ってたな……

『私は……ゆたかが笑顔でいられるように……支えつづける』

うひゃぁ~!か~っこい~!!
こんな事をサラッと言っちゃうあたり、流石岩崎さんって感じっすね~
う~ん、やっぱりこの二人は絵になるなぁ~

頼りにしていた従姉妹……いや、この場合は姉って事にしておいて……
突然姉と離れ離れになった娘
その娘からは以前のような笑顔が失われていた
その笑顔を取り戻すべく、心の支えになろうと懸命に頑張る……

「あぁぁぁぁー!ダメダメダメダメ!!……自重しろー!自重するんだ!私!!」

……はぁ……
なんで私ってばすぐにこんな風に考えちゃうんすかねぇ……
いくら締め切りが迫っているからって……こんなんじゃ……

「友達、失格っすね……」

……ちょっと休憩しよっかな……

☆

「はぁ……ヒンヤリしてて気持ち良いっす……」

自販機でスポーツドリンクを買って、公園のベンチで一休み……
流石にこの時間ともなると、歩いている人も殆どいないっすね……

「駆け落ちかぁ……」

未だに実感が湧かないっすね……
……やっぱ『当事者』とは言え、結構ギリギリなところでそうなってるから……なのかなぁ


「はぁ……」
「どうしたの?ため息なんかついて……」
「ぬぉふわぁっ!?」

……だ、誰!?
……あ!

「峰岸先輩……」
「田村さん、こんばんは」
「ど、どうしたんすか?こんな所で……」
「ん……、ちょっとした夜のおさんぽってとこ……かな」
「はぁ、そうっすか」
「田村さんこそ、どうしたの?こんな所で」
「あ、私は日課のジョギング中にちょっと疲れたんで一休みしてる所っす」
「そう……」

峰岸先輩はそう言ったきり、夜空を見上げている。
……そういや、おさんぽって言ってたけど……

「あの……『おさんぽ』って……よくされるんすか?」
「うん……たまにちょっと気分転換したい時とか……ね」
「気分転換っすか……」

再び訪れた沈黙。
辺りは時折車の音がするだけ。
静かな空間を、久しぶりに見せた満月が照らしている。

「……『計画』の事……かな?」

その沈黙を破って峰岸先輩が声をかけてきた。

「へっ!?」
「田村さんがため息ついてた理由。そうでしょ?」
「……はい」

はぁ……やっぱバレバレっすかね~

「で?どんな事で悩んでいるのかな?」
「あ、いや……そんな言うほどの事でも……」
「言うほどの事じゃないのに、ため息なんかつくの?」
「あ、いや、えと……」

……どうしたら良いっすかね……
ちゃんと話すのが良いのかなぁ

「……無理に理由を話せなんて言わないわ。……でもね、一人で抱え込んでも……何も解決しない時もあるわよ……」
「……そうっすね……」

いいや!ここでウダウダとしてても仕方がないっす
ここはキッパリサッパリと全てを話した方が後腐れないっすね

「実はですね……」

☆

「……そうなんだ……」
「はい……だから……私なんかがこの『計画』に参加する資格があるのかなって……『理由』も明確じゃないし……」
「うーん……」


あ、考え込まれちゃったっす……
まぁ、難しい問題だから仕方ないっすね……

「すみません……変なこと言っちゃって……」
「ううん、変なことじゃないわよ。……だって、その考えでいけば私達……みさちゃんと私も同じ立場になるから……」
「……同じ?」
「えぇ、私達だって元々は妹ちゃんや泉ちゃんととても仲が良かった訳じゃないし……」

えっ!?

「そう……なんすか?」
「うん。中学の頃からずっと、遊ぶのは柊ちゃんだったからね、妹ちゃんとはあまり遊んでないの」
「それは……以外っす」
「そうかしら?だって……妹ちゃんには妹ちゃんの友達がいたし……それにクラスも違ったからね」
「成る程、それならわかるっすね」
「だから……今回の事も、田村さんの理論からすれば私達もギリギリの所で関わっているのよ」

うーん……でも……

「でも……峰岸先輩も日下部先輩も、泉先輩やつかさ先輩と仲が良いっすよね」
「『今は』ね。泉ちゃんなんか以前は全く話したことないし」
「でもそれはまだ友達になっていなかったから当たり前じゃ……」
「そうね……でも、今は友達だから……友達が関わっている事だから……友達のために協力するのは普通の事、でしょ?」
「まぁ、そうっすね『友達が困っていたら助ける』。それは人としての常識っす

私は腕を組んで頷きながら答えた。

「そっか~、常識か~」
「そうっす!常識っす!!」
「じゃぁさ……田村さんと泉ちゃんや妹ちゃんは……友達じゃないのかな?」
「……友達というよりも……大切な先輩っすね」
「……じゃぁ、その『大切な先輩』が困っていたら……どうするの?」

……あ、そっか……

「勿論、助けるっす!」
「……ね、ギリギリな所じゃなくちゃんと関わっているでしょ?それに……今回の『計画』で、あなたの『大切な友人』が辛い目に会うでしょ?」
「……小早川さんっすね……」

『計画』が成功した暁には、一人ぼっちになっちゃうんすよね……

「田村さんは……小早川さんの『支え』にならなくても……良いの?」
「そんな!『支え』にならない訳無いっすよ!」
「それなら……充分に『資格』があるし……それが『理由』になるんじゃないのかな?」

あ……

「そっか……私……ちゃんと『資格』も『理由』もあったんすね……」
「そうよ。だからそんなに考え込まないの。あ、それと……何でも『ネタ』にしちゃう事についてだけど」

……やっぱ、それはまずいっすよね……

「別に構わないんじゃないかしら?」
「……へっ!?」

なに……ゆえ!?


「あのね、前に高良ちゃんのおじさんが『作家は自分を切り売りして作品を作る職業だから、今回の件で作風が拡がるんじゃないかな』って言ってたの」
「……つまり、泉先輩のお父さんも、今回の『計画』を小説の『ネタ』にする可能性がある……と」
「多分ね。実際、こんな『ネタ』を体験することなんてこの先まず無いだろうし……フェイクじゃなくてリアルを書けるんだから」
「そうっすね、やっぱナマの体験は貴重っす。想像では限界があるっすから」
「そーゆーこと。だから、田村さんもあんまり気にしなくて良いと思うわよ」
「そうっすか?」
「そうよ」
「そうっすか!ありがとうございます!」
「そんな、お礼を言われる程じゃ無いわよ~」

峰岸先輩はそういうけど……私からしたらいくらお礼を言っても言い尽くせ無いっすよ……

「あ、でもね、書くのならある程度時間を置いてからの方がいいと思うわ」
「あー、それはそうかもしれないっすね~」
「う~ん、そう考えると……」

考えると?
……何をっすか?

「今度の『冬コミ』くらいかしら?」
「……はぃぃぃーーー!?」
「ま、あんまり焦らなくて大丈夫よ~。それじゃね~」
「ちょちょちょっとー!!峰岸せんぱーーーい!!!」

私の絶叫も虚しく、峰岸先輩は手を振りながら公園を出て行った。
てか、峰岸先輩……冬コミ知ってるんすね……とても意外っす……

「はぁ……世の中って……狭いっすねぇ~。……ジョギング再開しますかね~」

☆

「ホッホッホッホッ……」

……ま、最後の言葉はアレっすけど……峰岸先輩と話せて良かったなぁ~

「ホッホッホッホッ……」

……小早川さんの『支え』、か……
私一人じゃ多分無理だけど……岩崎さんと一緒なら、やれる気がするっす!

「よーし!頑張るっすよー!」


小早川さんの『支え』になる

それが、私の理由。


Section14「苗木を守る人達~田村ひより~」 End


……あとは漫画のネタとしても……
『ひ~よりん♪』

「うひゃぁぁぁぁ!!!」


実行日まで
あと二日





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最終更新:2011年01月30日 20:53