クウェンヤ(Quenya /'kwɛnja/)とは、1910年~1911年ごろ、ジョン・ロナルド・ロウエル・トールキン(John Ronald Reuel Tolkien, 1892年1月3日 - 1973年9月2日)によって創案された芸術言語である。
審美的コンセプトは、「古風と屈折」であり、フィンランド語、ラテン語、ギリシャ語、古代ゲルマン語などの、動詞や名詞の屈折の多かったころの古風な印欧語族の言語を思わせる作りである。
この言語の背景として、話者やそれが使われる世界の設定が必要となったため、エルフ族や後に中つ国と呼ばれる人工世界が誕生することとなった。
彼の人工世界、中つ国の住民たるエルフが古くに用い、アマンに渡った上のエルフ(High Elves)によって保存され、太陽紀第一紀ごろには、もっぱら儀式と詩に使われる古典言語となっている。
テンプレート
2014/02/23
クウェンヤ |
Quenya |
発音 |
IPA: /'kwɛnja/ |
発案者/作成者 |
John Ronald Reuel Tolkien(1892年1月3日 - 1973年9月2日) |
創案時期 |
1910年ごろ。1973年に逝去するまで使用 |
設定と使用 |
中つ国の作中言語 エルダール(上のエルフ)の言語。 ラテン語のように古語として扱われる |
母語話者数 |
不明 |
表記体系 |
ラテン文字 tengwar, cirth salati |
目的による分類 |
人工言語 |
・芸術言語>架空言語 |
参考言語による分類 |
音声:フィンランド語 語彙:音象徴、フィンランド語、語形だけ古英語から借用 文字:アプリオリ 文法:フィンランド語、ラテン語、ギリシャ語、古代ゲルマン語 語法: |
名称
トールキンによってelfin, Qenya(1915年ごろ)など変遷があったが、最終的にQuenyaとなった。
Quenyaの意味は「言葉」である。
エルフの元々の名称Quendi(話す者)と関係する単語である。
作製史
J.R.R.トールキンが、バーミンガムのキング・エドワード学校時代、1910年~1911年ごろに創案した。1973年に逝去するまで、発展を続けた。
作りたての人工言語によくあるように、何度も実験的な文法改定が行われた様である。
Elfin, Qenya(1910-1920)
1910-1920年 英語でElfin, Qenya語(初期クウェンヤ語)でEldarissa
絶え間ない改定作業の最中であり、主に屈折と代名詞のシステムが絶えまなく変動した。ただ、語彙に関しては、意味の変動はあっても、あまり語形の変動がなかったという。
対格形が違っていたり、後期では廃止された子音連続などがあったとされる。
後期では消滅したanatarwesta(crucifixion 十字架による磔)や、evandilyon(gospel 福音)などのキリスト教を暗示させる単語が含まれていた。
フィンランド語の影響があって、後期の屈折語的な言語とは違い、膠着語的な言語だったとされる。
1930年代初期
1930年代初期、ヴァラール語(Valarin)を祖語とし、エルフの言葉はそこから派生したものだという設定ができる。
そして、音声対照表に従って、音韻変化させ、多数の派生言語を作成した。アルカで言う方言爆発(2008年11月)を思わせる事例である。
初期クウェンヤ語(Qenya)、その方言であるリンダール語(Lindarin)、テレリ語(Telerin)、古ノルドール語Old Noldorin (or Feanorian)、ノルドール語(Noldorin)、イルコール語(Illcorin)、オスシリアンドの人間語、東の人間語、タリスカ(Taliska, 後のドゥネダインになる人間たちの言語)、西リンベール語(West Lemberin)、北リンベール語(North Lemberin)、東リンベール語(East Lemberin)など、多数のヴァリエーションが発生した。
古風な屈折形である双数形も存在したとされる。
1940年ごろ?
エルフ諸語の起源は、ヴァラール語ではなく、エルフが自ら作った言語であるクウェンディ語(Quenderin)が起源であるという設定になった。
エルフ語族は、クウェンヤ、テレリ語、シンダール語、ナンドール語から構成される。
クウェンヤはmbなどの語頭音がmなどの鼻音に変化したグループという設定になった。
例:ndore→nore (国)
テレリやシンダール系統では、鼻音でないところが残ったとされ、国はdorである。
後期クウェンヤ(late Quenya,1954-1973)
1954-1973年 後期クウェンヤ(late Quenya)
『指輪物語』出版後は、僅かな変化しかなく仕様が確定したと見られる。
作中設定
エルベレスによって、星が誕生し、エルフが目覚めた後、エルフを見に行ったヴァラールのオロメが彼らに話しかけた言語であるヴァラール語(Valarin)を元にして発達した。
アマンへ移住した上のエルフ、エルダールによって話された。
一方で、中つ国にとどまったエルフであるシンダール族は、これからシンダール語を発展させた。
上のエルフ、ノルドール族が中つ国へ帰還した際、圧倒的多数であるシンダール族に混ざって生活するための利便や、シンダール族の王であるエルウェ・シンゴルロ、シンダール語でいうシンゴル王からクウェンヤの使用を禁止されたため、クウェンヤは、もっぱら古語、伝承、詩、儀式などで使う非日常的な言語になっている。
音声
ラテン語よりもフィンランド語に近いとされる。
しかし、フィンランド語に見られる子音交代や、第一音節拘束アクセントは採用されていない。
子音
中つ国に伝わったノルドール族のクウェンヤであるノルドール語の子音。
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両唇 |
歯唇 |
歯 |
歯茎 |
後部歯茎 |
硬口蓋 |
軟口蓋 |
口蓋垂 |
声門 |
破裂音 |
p[p] b[b] |
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t[t̪] d[d̪] |
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c[k] g[g] |
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鼻音 |
m[m] |
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n[n] |
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ñ[ŋ] |
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ふるえ音 |
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r[r] |
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摩擦音 |
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f[f] v[v] |
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s[s] - |
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hy/h[ç] |
ch[x] |
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h[h] |
接近音 |
hw[ʍ] w[β̞] |
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y[j] |
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側面接近音 |
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l[l] |
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- t, dの発音がスペイン語式の歯音
- フィンランド語の影響でvを除き、有声摩擦音がない。
- アマンのヴァンヤール語(Vanyarin)では、無声歯舌摩擦音th/θ/とz/z/が現れるが、中つ国に移住したノルドール族のクウェンヤでは、rとsに置換される。
- 有声破裂音は鼻音と流音の後(例:/mb, (lb,) nd, ld, rd, ŋg/)と、母音と母音の間にしか現れない。
母音
5つの短母音、i[i], e[ɛ], a[a], o[ɔ], u[u]
5つの長母音、í[i:] é[e:] á[a:] ó[o:] ú[u:]
を持つ。
e, oは短音では広めに発音しe[ɛ]、o[ɔ]になるため、7つの母音をもつ。
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前舌 |
後舌 |
狭 |
i[i] í[i:] |
u[u] ú[u:] |
半狭 |
é[e:] |
ó[o:] |
半広 |
e[ɛ] |
o[ɔ] |
広 |
a[a] á[a:] |
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二重母音
以下の6つの二重母音を持つ。最初の母音を強く読む。
ui, oi, ai
iu, eu, au
iuは第三紀ではyuのように発音される傾向。この場合はuの方を強く読む。
上以外は二音節で発音すること。
ëa, ëo, oë
アクセント
アクセント法則
1. 二音節の単語では、第一音節にアクセント
※dûn(西)から派生するannûn(日没)、rhûn(東)から派生するanrûnなど、接頭辞+本体の場合は例外となる。
2. 三音節以上の単語かつ、最後から二番目の音節が長母音、二重母音、二つ以上の子音を伴う母音の場合、最後から二番目の音節にアクセント。 isIldur elentÁri periAnnath pelArgir silIvren andÚne
3. 三音節以上の単語かつ、最後から二番目の音節が短母音、後に伴う子音がないか1つしかない場合は、最後から三番目がアクセント。 Orome, erEssëa, fËanor, ancAlima, dEnethor(thは1子音でカウント) , ecthElion
音素配列論
- 次の二重子音のみが現れる。pp, tt, cc (kk); mm, nn; ss, ll, rr, þþ(ノルドール族のクウェンヤではssになる)。これらは語中のみで現れる。破裂音の二重子音は帯気音になる。
- 語末の子音は歯音のみである。n, r, l, s, th (þ), t, z。þとzはノルドール語では、sとrになる。
- 語頭の子音は次の子音のみである。p, t, c (k); f, þ, s, h, hy, hw; m, n, ñ; v, l, r, y, w
- 語頭の二重子音は次のもののみである。hl, hr; x (ks), ps; ty, ny, ly; qu (kw), ñw(ノルドール語ではnwになる。)
- 語中の二重子音は次の者のみである。よく使うものは太字。ht, lc,ld, lf, lm, lp, lqu, lt, lv, lw, ly,mb, mn,mp, my,nc (ñc),nd,ng (ñg),nt,nw (ñwは語頭のみ), ny,ps, pt,qu (kw), rc, rd, rm, rn, rp, rt, rs, rv, rw, ry, sc, st, sw,ts, tw, ty,x (ks)
- クウェンヤは三重子音以上の子音連続は存在しない。c(k), h, gのあとに、h, t, þ, dのあとに、yがある場合は例外である。よって、次の12の三重子音が存在する。
nqu(ñqu)[ŋkʷw], lqu, rqu, squ, ngu(ñgu)[ŋgʷw], rhw; nty, lty, hty [çc](ヴァンヤール語では[ʃt͡ʃ]と発音), rty, sty [sc] (ヴァンヤール語では[ʃt͡ʃ]と発音), lhy。それ以外の組合せでは、y, wがiとuになる。
- クウェンヤは、二つの異なる閉鎖音の連続を認めない。
- シンダール語同様、ftの組合せは避けられる。
文字
ラテン文字転写
中つ国の諸言語共通のラテン文字転写法を示す。
c[k] celeb[keleb] 銀
ch[x] ドイツ語のbachとかachtみたいな感じ。
dh[ð] thisとか、theseのth音
f[f] 語末で[v]
g[g] gil[gil] 星
gh[ɣ]有声軟口蓋摩擦音。黒の言葉とオーク語で使われる。
h[h]
ht[xt]
I[i/j] 後に母音を伴う場合[j] Iarwain ヤールワイン
k[k] エルフ諸語以外でもちいる。
kh[x]
ドワーフ語では帯気音のk
l[l]
lh 無声化したl
hl 無声化したl
ng[ng]
ph[f] p音が音韻変化してf音になった時に現れやすい
qu[kw] quenyaで仕様頻度多
r[r] 震え音。ゴルァ音
rh 無声化r
hr 無声化r
s[s]
sh[ʃ] シャ行
th[θ] thinkやclothなどの音。
ドワーフ語では帯気音のt
ty チューンとか、トューンみたいな。
v[v]
w[w]
hw 無声化したh
y[j]
i e a o u yの六種類。yはだいたいラテン語読みでOK。ゴンドールではyはiで発音されている。
ë
目立つように点を置いているのみ。英語と違って語末でもちゃんと発音することを目立たせるために使われることが多い。
í é á ó ú ý
伸ばして発音する。
ホビット庄ではéを[ei]、óを[ou]と発音する傾向がある。粗野で不正確な発音とされた。
î ê â ô û
さらに長く伸ばして発音する。
すべて、二重母音の最初の母音にアクセントをつけて発音すること。
ui, oi, ai
iu, eu, au
iuは第三紀ではyuのように発音される傾向。
上以外は二音節で発音すること。
ëa, ëo, oë
ae[ai], ai, ei,
oe[oi],
iu, au
aw 語頭におけるauの別字体
上以外は二音節で発音
éa éo
語彙
アプリオリ言語として、音象徴や展開分類法の流派の手法を用いたとされる。
シンダール語など、この言語の派生言語を作る時、現実でもみられるような音韻変化の法則を用いた。
また、Earendir(偉大なる美)など、古英語の詩から語形だけ借用し、意味を「海の愛」に
変えるパターンもある。
少数の語彙は、tul-(来る)、anta-(与える)など、フィンランド語の語彙に由来している。
推定語彙数
文法
動詞、名詞、代名詞、限定詞、形容詞、前置詞などの品詞がある。
統語
ラテン語同様屈折語であるため、語順は比較的自由である。
とはいえ、一般的にSVO語順が好まれる。
形容詞は修飾する名詞の直後または直前につく。ラテン語のように離れていても大丈夫ということはない。感覚としてはエスペラントに近い。
類型
膠着語であり、接尾辞を用いる。
名詞
格と数で屈折する。
代名詞
前置詞
動詞
否定
時制
相
法
命令
受動態
使役
敬語
形容詞
名詞の直前または直後につく。ラテン語のように修飾する名詞から離して配置して大丈夫ということない。
副詞
接続詞
感嘆詞
関係詞
数詞
挨拶
語法
方言
使用例
参考資料
最終更新:2014年08月18日 21:31