文學の進歩を徴するには、種々、あるべしといへども、我が國に於ては、先づ、言文が一途に歸するを以て、其第一特徴と稱すべし。抑も、我が國、古來、言文を二途にして、筆語を、ロ語と同じうせす。ロよくいへども、筆、よくかゝざるものあり。筆、よくかけども、口、よくいはざるものあり。しかのみならす、目にみる、文字、耳に聞く、言と、異なるが故に、讀て、すなはち、悟ること、能はざるものあり。これを、彼の、書くと、言ふと同じく、見ると、聞くと異ならぬ、泰西諸邦に、くらぶるときは、文學の艱難、實は、霄壤も、たゞならざるなり。こゝに、物集高見、言文不同の、因を推して、これを、一途に、出すべきを論じ、また、古文を改竄して、今體に、變じたるをみて、これを、ロ頭にのせて誦し試むるに、能く、其なしうべきを信ぜり。當時、文運の盛なる、寒郷僻地も、學校の、設けありて、而して、就學の子弟、おほかた、字句の間に逡巡し、教師も、また、多くは、字句に、任ぜらるゝが如し。教師の、多數を要して、却て、實學の起らざるも、實に、こゝに、職由すといふべし。今や、當局、其人を得て、虚飾の、故軆をのぞき、實學の新樣、まさに、大に起らんとするに、當りて、たまノ\、此新手段の、いでて應ぜんとするあり。時を減じ、勞を省くは、ひとり、蒸滊と電滊とのみには、止らず。教科書の如きも、また、其筆鉾を一變せば、徒費を減じて、民力を養ふに於て、蓋し、其功少々ならざるべし。余が、此説を悦び、此書に序するも他なし、心、ひそかに、其偶然ならざるを感すればなり。
明治十九年三月
特命全權公使正四位勳三等子爵 品川彌二郎 花押
最終更新:2015年01月22日 22:20