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有坂秀世『音韻論』序

 謹んで此の書を恩師藤岡先生の尊靈に捧げ奉る。
先生御在世の日の御教訓に,「これからの學徒は,言語を扱ふのに,あたかも動植物を扱ふやうな氣持で單なる皮相な觀察や分類にのみ終始するやうなことがあつてはならない。基礎たる事實調査は飽くまで徹底的に行はなければならないが,それと同時に,特に言語の本質に對する哲學的考察に力を注ぐべきである。」と承つた。その後十年の私の研究生活の歩みは,此の兩方面に關し,果して先生の御遺志に幾分なりとも沿ひ得たことであらうか。自ら省みて深く懼れるのである。
 本書は私の處女作であつて,未だ不完全な所も少くないことと思ふが,淺學菲才の身を以て兎も角も此の稿を成すことを得たのは,偏に諸先生の平素の御指導の賜として,まことに感謝に堪へない所である。參考書類を御貸與下さつた方々,印刷や出版に御盡力下さつた方々,又いろいろと激勵の御言葉を賜はつた方々にも,厚く御禮申し上げる次第である。
 昭和十五年十月
                 有坂秀世

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最終更新:2015年01月31日 23:19