東條操『分類方言辞典』「はじめに」


「全国方言辞典」の序言の中で、辞典の利用価値を倍加するために、部門別索引と標準語から方言を求める索引とをやがて補いたい希望を述べておいたが、今回漸くその索引を改編した標準語引分類方言辞典と「全国方言辞典」の補遺篇とを合せて公刊する運びになった事は、まことに本懐の至りである。
 辞典本来の性質からいうと、方言辞典としては俚言を五十音順に排列した「全国方言辞典」式のものが最も本筋のものであるが、使用者の側からいうと、その用途に従って部門別分類のものも標準語引のものも、時には地方別のものも必要となるわけである。この中で、地方別のものには従来、各地で出版されている方言集の類ー巻末の方言集書目抄参照1をそのまま利用する事ができよう。
 本辞典の第一部ともみるべき標準語引分類方言辞典は、第一次分類を意義に基づく部門別とし、次に各部門内を標準語による五十音引としたもので、いわば部門別と標準語引とを併せたものである。部門の分け方は必ずしも世間一般の例にならわず新規準を立て、全語彙を意義に従って分類した。新規準による分類体系の詳細と引き方とについては別に説明するところによって承知されたい。


 なお、利用者の便宜のために、二種の一覧と全語彙の標準語索引とを附載した。もちろん標準語索引は、標準語の確立を見ない今日、いわば共通語または東京語による索引である。分類方言辞典は、その性質上その俚言の分布や用例等をも掲ぐべきであるが、既刊「全国方言辞典」との重複を考えこれを省いた。参照の労をとられれば幸である。
 第二部ともいうべき補遺篇は「全国方言辞典」に漏れた主要な俚言を集めたもので、最近刊行の方言集などを主材とし、特に資料不足の地方の俚言を補充するに努めた。また南島語彙については、島袋盛敏氏の稿本疏球語辞典から同氏が親しく選択した重要な語彙を同氏の好意によって収録することを得た。
 前年「全国方言辞典」を出版した際全国の熱心な読者諸賢からいただいた激励や教示は、著者をいたく感激させたが、これらの中の貴重な資料は、国立国語研究所地方調査員各位から寄せられた増補語彙とともに、その主要なものを本篇に収めることを得た。都竹通年雄氏の好意により助詞助動詞などに関する同氏の研究を本篇の終りに載せたことも、その方面の資料の多くき割愛した本辞典・としては、読者のためにこれを喜びたい。
 巻頭のアクセント分布図は、本辞典のために平山輝男氏が最近の踏査に基づいて作図したもので、これによって全国各方言のアクセントの性質の大観を得ることができる。教授の好意は謝するに余りがある。
 本辞典の出版には、東京堂の増山、石井両氏の尽力のほか、国立国語研究所の岩淵悦太郎氏及び柴田武、林大の両氏の配慮によるところ多大である。上記の諸氏に対して深厚の謝意を表したい。
例によって千葉大学助教授大岩正仲氏は、分類の企画を初め編集から校正に至る一切の仕事を担当した。協力者というよりは共編者としての同氏と、氏を助けた大橋弘子、野口伸子の両君に感謝する。
     昭和二十九年文化の日
                      学習院大学にて東條操

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最終更新:2020年07月04日 01:07