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くろねことしょうじょ

くろねことしょうじょ その1

今じゃないいつか、ここじゃないどこか、カノンと言う少女とシロと言う白い大きな犬がボールで遊んでいた。
「シロ、行くよ!」
 カノンが力いっぱいボールを投げるとシロはうれしそうにボールを追いかけて行った。そして、程無くしてボールを加えて戻ってきた。カノンはシロからボールを受け取ると、頭を撫でた。
(はやく、はやく、もう一回、もう一回!)
 シロは尻尾を振りながらそう吠えていた。
「もうそろそろ帰らないと。」
 カノンはボールをしまおうとした。
(え?、もっと遊ぼうよ!)
 シロはさらにそう吠えた。
「仕方ないなぁ……」
 しまおうとしたボールをもう一度遠くのほうへ力いっぱい投げた。結局、暗くなるまでカノンはシロと遊んでいた。
「今までどこに行ってたの!?」
 カノンの母親は声を荒げて言った。
「だって、シロが……」
 彼女は言い訳をした。しかし、そんな言い訳が通るはずもなく母親の説教が長く続いた。途中から話が変わり、動物と話せるのは異常だ等と言われた。彼女は物心付いたころから動物と話すことができたのだった。
「だいたいあなたはいつも……」
「まぁまぁ、その辺にしておいてあげなよ。」
 終わりの見えない説教に助け舟が渡された。カノンの父親が帰ってきたのだった。
「あなたはこの子に甘すぎるのよ!」
 カノンにとっていつもの口論が始まり彼女は自分の部屋に逃げ込んだ。いつものようにすぐに口論も終わり、父親が彼女の部屋に入ってきた。
「ねぇ、お父さん。動物と話せるのはおかしなことなの?」
 カノンは入ってきた父親に聞いた。
「そうだね……でも、カノンのその動物と話せる力はきっといつか君の力になるはずだよ?」
 父親は優しい口調で言った。
「?」
 まだ幼いカノンには意味がよくわかっていないようだった。
「今はわからなくても、きっといつかわかる日が来るはずだよ……」
 カノンと父親の会話はこれが最後となってしまう。なぜなら、次の日、彼女の父親は不慮の事故にあい、亡くなってしまったのだった。

……あの日から11年の歳月が過ぎ去った……

 いつしかカノンは17になっていた。彼女はいつしか動物と話すどころか、話せていたこと自体忘れてしまっていた。
「へぇ……ここにも石畳が敷かれるんだ……」
 この11年間で彼女の住んでいた村は大きな街になっていた。家は増え、道には石畳が並び、店もたくさんでき、より住みやすくなった。つい最近母親も亡くし、母の営んでいたパン屋を一人で切り盛りしていたが、彼女は豊かではないもののそれなりに幸せな日々をすごしていた。
 そんなある日、彼女は道で奇妙な赤い点を見つけた。それは、一定の間隔で裏路地の方に続いていた。
(何だろう……?この紅い点……)
 彼女は気になりその点を追って路地裏の方へと向かった。その先で見つけたのは怯えるように小さくうずくまっていた黒いネコだった。よく見ると怪我をしているようで、先ほどの赤い点はどうやらそのネコの血だったらしい。
「大丈夫?」
 優しい声で彼女はネコに近づいたが、ネコは毛を逆立てて、
「フゥ????!!!」
 っと威嚇してきた。しかし、彼女はおかまいなしにネコを抱き上げると、家につれて帰った。家に帰るまでにネコは彼女の腕の中で大暴れし、至る所を引っ掻かれた。彼女はそのネコの傷の手当をし、暖かいミルクをあたえた。
(誰がこんなひどいことを……)
 誰がやったのかはわからなくとも、どうしてこんなことをしたのかは彼女には見当がついていた。黒いネコはその姿から、「悪魔の使者」や「魔女の使い」など、不幸の象徴とされていた。おそらく、そのためにこんな目にあったのだろうと彼女は思っていた。そして次の日、いつものように店を開けた。
「やぁ、元気かいカノン……ってどうしたのその腕。」
 彼女の腕に巻かれた包帯をみて入ってきた少年は言った。少年の名前はフェイト。彼女の幼なじみで、よくこのパン屋にも来ていました。
「ちょっとパン焼いてるときにへまやっちゃって……」
 彼女はとっさに嘘をついた。まさか黒猫をかくまっているなどということは幼なじみといえども言うことはできなかったからだった。
「珍しいね、君がそんな失敗をするなんて……」
 その言葉に対して彼女は苦笑した。
「今日は何を買いに来たの?」
 話をそらすように彼女は言う。
「今日はお客じゃなくて、材料を持ってきたんだ。」
 外の馬車を指差し言った。
「ああ、そうだったんだ。」
「事前に連絡してただろ?」
 彼はいつもと違う彼女に彼は首を傾げながら言った。
「そういえば、そうだったね。」
 彼女は頬をかきながら「あはは……」と苦笑して答えた。
「まぁいいけど……いつものところに運べばいいのかい?」
「うん、お願い。」
 すると彼は馬車の方に行き、小麦粉やクルミなどの材料を運んでいった。すべて運び終えると、いつも買っているクルミパンを買って次の配達先に向かった。
「ふぅ……なんとかバレずに済んだ……」
 彼女はほっと胸を撫で下ろした。その後も彼女は熱心に黒いネコを看病し続けた。彼女はそのネコに「クロ」と名付けた。熱心な看病にクロも少しずつ心を開いていった。そんなある日の夕方……
「そろそろお店閉めようかな……」
 彼女は店の看板をしまおうと外に出ようとした。
「カノンおなか減ったよ。」
 ドアに手をかけたときにそんな声が聞こえた。振り返った先には誰もいない。
(気のせいかな?)
そう思い、彼女は再び外に出ようとした。
「ねぇ、カノンってば!」
 やはり声が聞こえた。振り返った先にはやはり誰もいない。
「誰かいるの!?」
 不安になり、彼女は叫んだ。
「もっと下だよ?」
 足下を見るとクロが足下で行儀よく座っていた。よく聞いてみると、「にゃ?」とネコの鳴き声が混じって聞こえていた。
「もしかして、クロが喋ってるの!!?」
 彼女は驚いてクロに言った。
「うん、そうだよ?」
 彼女は混乱した。目の前で、動物がしゃべれば、子どもならともかく驚かないはずがなかった。彼女は飛び出すように、店を出た。
「ちょっと、カノンどこいくの?」
 クロは追いかけようとしたが、ドアが先に閉まってしまった。
(まさか、黒いネコって本当に悪魔の使者なんじゃ……)
 店の前でそんなことを考えていたものの混乱していてい考えは一向にまとまらなかった。
「ちょっと、お嬢さん、そこをどいてくれないか?」
「あ、すみませ!?」
 そう言われて、声の方を向くと、そこには大きな馬がいた。彼女は驚いて壁に張り付くように道をあけた。この時間、この辺りは街の中央と比べると比較的人が少ないにも関わらず、騒がしいことに彼女は気がついた。その声の主は他ならぬ動物たちでした。そこで彼女は初めて、ネコがしゃべったのではなく、自分が動物たちの言葉を理解することができるようになったことに気がついた。彼女は深呼吸をしてあたりの動物たちの声に耳を傾けてみた。
「ポチ、お前の好きな肉だぞ。」
 近くにいた少年がポチという犬にエサをあげていた。
「いつもいつも同じ肉よこしやがって、たまには違うものよこせ!」
 と犬は吠えた。
「心配しなくてもすぐあげるから。」
 そういうと、肉を犬の前においた。
「やっぱりまた同じ肉か……」
 もちろん、ポチと呼ばれる犬の声は少年には聞こえない。ここまで人間と動物の話が食い違っているというのを知って彼女は苦笑してしまった。落ち着いたところで店に戻ってみた。クロはさっきと同じ場所に座って彼女を待っていた。
「おかえり?。どこに行ってたの?」
 クロは彼女に飛び乗った。彼女はとっさにそれを受け止めた。
「ただいま、クロ。お店を片付けないといけないから少しの間どいててくれる?」
「うん、わかった。」
 クロは彼女から飛び降りると奥の方に消えていった。その日から、彼女はまた、動物と話すことができるようになった。それと同時に少しずつ、動物たちが彼女の周りに集まりだした。
「はい、今日はどうしたの?」
 彼女は日が暮れた頃に近くにある森で、動物たちの相談にのっていた。今話しているのは古傷が目立つこの森の主らしき熊だった。
「最近弓矢で背中を打たれてしまってね、昔は放っておいてもたいしたことなかったんだが、最近年のせいかな……」
 と熊は長々と話していた。
「背中の矢を抜けばいいのね?」
(銃を使ってないということは、趣味で狩猟をやってる人がやったのかな……?)
 彼女は熊の後ろに回り込み、背中に上ると矢を力一杯引っ張り、引っこ抜いた。抜いた後に、止血をして背中からおりた。
「はい、これで大丈夫だよ。最近、人を襲ったりしてるって話を聞くけど本当?」
「気をつけてはいるんだが見つかるとあちらから襲ってくるからな……趣味で殺されてはたまらんよ……」
 と熊は肩を落としながら言った。どうやら、人間との食い違いで、誤解が生じているらしい。
「そうね……これからはできるだけ、街の方には近づかないように気をつけてね。次は……」
 こんな調子で、毎日店を閉めた後に森に足を運んでいた。日が経つごとに動物に彼女のことが伝わると同時に、人間たちにもその噂が広まっていった。しかし、その噂は決してよいものではなかった。夜に森に入っていく姿を見られ、そこから魔女ではないかという噂が飛び交っていた。黒猫を飼っていることもバレてしまい、彼女は少しずつ孤立していった。それからそれほどたたないうちに周りの重圧で家から追い出され、彼女は森に住んでいた。
「ついに、家も追い出されちゃった……」
 切り株に座りため息まじりに彼女はつぶやいた。
「カノン、大丈夫?」
 クロが彼女の膝の上に乗り、顔を見上げながら言った。
「大丈夫だよ。きっといつか、みんなもわかってくれるよ。」
 彼女はそう信じていた。
「カノン!」
 大声で呼ばれて驚いて振り返ると、そこにはフェイトがいた。
「フェイト!?」
 彼は彼女の方に駆け寄ると、包みを渡した。中にはパンやミルクが入っていた。
「ここにきちゃだめだよ、フェイトまで立場が悪くなっちゃうよ。」
「気にしなくていい。そんなことより、遠くの街に逃げよう。」
 彼は彼女の方をつかみ真剣な目で言った。
「だめだよ、みんなをおいてはいけない。」
 彼から目をそらし彼女はそう答えた。
「それに、森に居れば街のみんなも、何も言ってこないよ。そのうちきっと、みんなもわかってくれる。」
 そういう彼女に彼は仕方なくあきらめ、何も言わずにかえっていった。それから、彼女は森の奥の方で平和に暮らしていた。動物たちが居たおかげで寂しくはなかった。
 しかし、そんな日々も長くは続かなかった。狩猟にきた人たちを動物たちがかわいそうだといって、何度も動物を助け続けていた。そのために、街の人たちへ悪いイメージばかりが浸透していった。それから、魔女狩りと称して何度も彼女に銃口が向けられたものの、彼女は逃げ続け、生き延びていた。そんな中でも、幼なじみであるフェイトだけは彼女に味方していた。そんなある日、彼はもう一度彼女が追い出された最初の日に言ったことをもう一度言ってみることにした。
「カノン、一緒に街を出よう。このままじゃ本当に殺される。」
 彼は彼女の目を見て言ったが、彼女は目を背けて答えた。
「前にも言ったけどそれはやっぱりできないよ……もし、私だけが逃げても、ここにいるみんなが殺されちゃうかもしれない。ここにいるみんなは私にとって家族みたいなものだから、気持ちは嬉しいけど私だけが逃げるわけにはいかない……」
 それでも彼はなんとか説得しようと前よりもしつこく説得を続けた。しかし彼女が首を縦に振ることは無かった。
「フェイト、もうここにこない方がいいよ。今はいいけど、このままじゃいつか見つかってしまう……今までありがとう……さよなら……」
 そういうと彼女は立ち上がって彼に背を向けた。彼はまだ、説得を続けようとしたものの、もう言葉が出なかった。彼女に何を言っても首を縦に振ることは無いと感覚的にわかったからだったのかもしれない。震えた声で言われた「さよなら」という言葉に一瞬で何を言っていいのかわからなくなってしまっただけかもしれない。しかたなく、彼は黙って立ち上がり、そのまま立ち去ろうとした。
「さよならじゃない。僕は絶対に諦めない。いつか君が帰って来れるようになるまで絶対に諦めないから……」
 彼は立ち止まり振り返らずにそう言い、それ以上は何も言わずに立ち去った。彼の気配が消えてから、我慢していた涙が雪崩のように押し寄せてきた。

 その後、彼が彼女の前に現れることは無かった。

 それから月日が流れたある日、ついに最悪の事件が起こった。
「カノン!カノン!」
 深夜、熊の作った穴で寝ていた彼女はクロが自分を呼ぶ声で彼女は目を覚ました。
「ん?……どうしたの?」
「いいから外みて!」
 彼女は穴の中から出てみると、森が燃えていた。まだ、火は遠いもののそこには人の影が見えた。ついに街の人々が、魔女狩りという名目で、森に火を放ったのだった。彼女はクロを抱き上げると、無我夢中で動物たちとともに逃げた。どれほど走ったかもわからなくなるほど夢中で走った。立ち止まったときにはもう夜があけようとしていた。彼女がその森に戻ったのはそれから2日後のことだった。彼女は動物たちを残して、クロとだけで戻った。戻ってきた彼女がみたのは真っ黒になった森と、動物たちの死骸だった。彼女は呆然と立ち尽くしていた。
「カノン、人が来るよ。」
 彼女はクロの声で我に返り、とっさに身を隠した。幸い、歩いてきた二人の男は彼女の存在に気づかなかった。
「どこにいったんだ?」
「奴は魔女だからな。逃げた可能性の方が高いだろう。」
奴とはおそらく自分のことで、自分の死体を探していることがわかり彼女は今までに無い恐怖を覚えた。
「ところで、魔女をかくまっていた男は?」
「ああ、あいつなら、もう死んだんじゃないか?生きてたとしても、そのうち死ぬだろ。離れの小屋に監禁されてからもう一週間も放置されてるんだしな。」
「まぁ、魔女のために森に火を放つのを反対し続けたんだ、当然といえば当然だろう。」
 彼女はそれを聞いて、一目散にその小屋に飛んでいきたかったが、男たちがいなくなるのを待った。二人の影が消えると大急ぎで、その小屋に向かった。その小屋は鍵もかけられておらず、簡単に中に入ることができた。彼女は恐る恐る、部屋の中を見回したが、小屋は昼間にもかかわらず薄暗く、よく見えなかった。
「カノン、あそこに誰かいるよ。」
 クロは、奥のほうに見える人影を見てそう言った。彼女はそっちの方へ手探りで歩いていった。目がなれ、人影らしい影を見つけ、彼女は呼びかけてみた。
「フェイト、フェイト。」
 よく見えなかったものの少し反応が返ってきた。彼女は彼を何とか担ぐと、外に逃げた。そこで初めて彼が大怪我を負っていることがわかった。体中あざだらけで、切り傷もいくつかあった。人気のない場所まで、彼を運ぶと彼を一度座らせた。
「フェイト、大丈夫!?」
 そう聞いてみたものの、大丈夫なはずがなかった。彼の命の灯し火は、今にも消えてしまいそうだった。
「 ・ ・ ・ 」
「え、何?」
 彼が何かを言ったものの、小さすぎ、彼女には聞こえなかった。
「ご……めん……止め……な……った」
 それが彼がいえる精一杯の言葉だった。
「ごめんなさい、ごめんなさい……私がいなければ……」
 彼女は泣きながら言った。
「君……る……ない……」
「え、何?」
 彼は微笑みながら何かを言ったものの彼女には聞き取ることができなかった。
「フェイト?フェイト!」
 そのまま彼は動かなくなった。
「こんな力がなければ、こんなことにならなかったかもしれない……そもそも、私がいなければ、誰も不幸にならなかったのかもしれない……私が死んでしまえば……」
「そんなことない、カノンは悪くない!」
 そう叫んだのはクロだった。彼女は何も言わずに少し黙り込んだ。
(……そもそも人間がいなければ、動物たちも生き場を失わずに済んだんだ……?フェイトも死なずに済んだ……?身勝手な人間がいなくなれば……)
 彼女は心の中で人間に復讐することを誓った。


……今じゃないいつか、ここじゃないどこかであったおはなし……

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最終更新:2007年05月22日 17:44
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