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彼岸の淵

彼岸の淵

僕の腕が彼女の細く白い首を締めつけている。
首の上にのっている顔も同様、いやそれ以上に白く、その表情は苦しんで死んだとは思えないほど穏やかであり美しい。
僕が握っている首からだんだんと体温が奪われてゆくのが分かる。
しかし、それでも僕の手は首を絞めるのをやめない。
やがて鈍く音を立てて首の骨がくだけるのが聞こえる。
それと同時に口からその白い頬に赤い血が細く流れ落ちてゆく。
だが、それでも僕は首を絞めるのをやめない。どれくらい時間が経っただろうか。
僕が締め続けている首はいつしか皮膚が腐ったように剥がれ落ち中から紅い血が細く流れ落ち始める。
その腐敗は美しかった顔にも上りほほの肉が溶け出すようにドロリと解け始めどす黒い血が溢れ出る。
やがて彼女の身体が同様に皮膚が腐り崩れてゆく。
しかし、それでも僕は彼女の首を絞めるのをやめない。
それが僕に最後に頼まれた唯一できること。
だから僕は彼女の美しくも無邪気だった顔が崩れても、何度も見とれた均整のとれた身体が腐敗しても両手で首を絞め続ける。
その時、彼女の動かないはずの腕がゆっくりと動く。
その手は私の首をなぞるように触りそしてゆっくりと締めはじめる。
彼女の声が聞こえる。


君と一緒にいきたい・・・・


僕の締める手の力が弱まるにつれて彼女が首を絞める力は強くなる。
だんだんと目の前が白く染められてゆく。
僕はそれをゆっくりと受け入れようとする。
けどその時、僕の中に小さな恐怖が生まれる。
それはだんだんと大きくなり僕の心は死への恐怖と苦しみに襲われてゆく、


死にたくない


そんな言葉が脳裏をよぎる。
だけど僕の首を絞める彼女の手は弱まることはなく、力はなお強くなってゆく。
苦しさと恐怖から逃れようと締められている自分の首へ手をもってゆく。
その時、ズルリと何かが滑り落ち締め付けていた彼女の手が力なく首から離れる。


ゲホッ


締められて苦しみから解放され自分の手を首におく。


ヌルリ


嫌な予感がする、手を見たくない、だが僕の手は何を触ったかを確認するためにまるで意思に関係なく目の前に上がってくる。


いやだ


目の前にある僕の手は赤い血がべっとりと輝いている。


いやだ
いやだいやだいやだ


今度は恐怖でその手で顔に触る。


ズル


顔の皮膚がはがれるのが手を通して伝わる。


いやだいやだいやだいやだ


腕を抱え込むと手のひらで触った場所が、頭お抱え込むと髪の毛ごと皮膚がさっきの彼女のように腐り落ちてゆく。
死への恐怖で発狂しそうな意識を保ち最後の意識を彼女にやるとそこには腐った身体は既になく美しい骨しかない。
僕もああなるのか・・・
彼女の骨にみとれ気がつけば自分の身体は既に腐りきり骨へとなりかけていた。
どうやら何時しや僕の意思は身体を抜けていたようだ。
やがてその意思すらも薄れ世界がまた白く染まってゆく。
だけど今度は恐怖も苦しみもない。
恐怖を感じる心も苦しみを感じる身体も今の僕にはもうないのだから。
消えつつある意識の中で僕が最後に見たのはまだ幸せだった頃の無邪気な笑顔を浮かべ笑い僕の傍らに付き添っている彼女だった。

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最終更新:2007年05月22日 17:27
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