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旅立ちの朝

旅立ちの朝

 鳥がさえずる声と、窓から差し込む朝日が俺の目を覚まさせる。
 清々しい朝、普通ならそう思うシチュエーションかもしれないが。今の俺にとっては最悪な一日の始まりでしかない。
 今日で俺は16歳になる。
 おめでとう、とか祝いの言葉は掛けないでほしい。俺にとっては、まったくうれしいことじゃないんだからな。
 俺にとって年を取ることは、悪夢へのカウントダウンだったんだからな。
 そして、そのカウントもゼロになった。ついに、悪夢が現実になる日が来たってことだ。
 部屋の外から階段を軽快に駆け上がってくる音が聞こえてくる。悪夢の中から出てきた悪魔が、姿を現そうとしてるようだ。
「おはよう、アレン!!!! 今日はあなたがついに旅立つ日よ!」
 ドアを蹴破るようにして俺の部屋に入ってきたのは、今年三十路を迎える母親だ。
 逃げ出したい。そんな思いを必死でこらえて、重い身体をベッドから起こす。
「早くおきなさい! 早く着替えて国王様のもとに行かないと!」
 そう言って、起き上がる途中だった俺の身体を無理矢理に引き上げると。着ていたパジャマを脱がして、どこから持ってきたのかマントとか大層なベルトがついた服を着せえる。
「さあ! 早く行ってらっしゃい!」
 最後にそれだけを聞かされて家を放り出される。
 そして、そこで待ってるものを見て俺は、さらに深いため息をつきたい気持ちになった。
「アレン16歳の誕生日おめでとう!」
「ついにお前も旅立つ時が来たんだな!!」
「私信じてるから! きっと戻ってきてね!」
「親父さんの敵を討ってこい!」
 そう、家の前で待っていたのは俺の旅立ちを見送る為に集まってきた近所の連中だった。
 とにかく適当に返事だけを返して、逃げるようにしてその場を立ち去る。さすがに顔見知りがいるあたりを離れると、さっきほど声をかけられることはなかったが、変に目立つ服装のせいで何人かにはがんばれとか声をかけられるはめになった。俺は、できるだけ人気の無い道を目立たないようにして、城に向かうことにした。

 そういえば、なんで俺がこんなことになったかを説明しとかないといけない。
 俺の父親は勇者とか言うものだったらしい。らしいと言うか、実際そうだったようだが、何年も前に魔王とか言う輩と戦って死んだらしい。これもらしいと言うだけで、聞き回ったところ討伐に行ったまま帰ってこず、特に音信もないから、そうなっただけのようだ。
 しかし、一体勇者って何なんだ?
 勇気のある者でと書いて勇者と言うが、実際働いてないし職業ですらない。勇気しかないなら、俺は戦士の方がよっぽど強く感じでしまう。だが、世間一般の人間は勇者と言う者に激しく憧れを抱くらしい。
 親父は当時十四歳と言うまだ少女と言える年の俺の母親を、勇者と言う名の特権のもと孕ました。しかも、その直後に旅に出たからその後産まれた俺の顔すら見てない。
 しかも母親も母親で、俺が勇者の息子だからといって産まれた直後から、勇者になる為の訓練を課し始めた。
 そんなわけで、俺は勇者の息子と言うレッテルを貼られ、毎日日が暮れるまで剣を降らされ、字が読めない頃から小難しい魔導書を子守唄代わりに聞かされてきた。そして、周りも周りで、俺に勇者の息子、むしろ二代目勇者としてあれこれプレッシャーをかけてくる。
 俺が自我を持った頃には既に、勇者になりたいと言う思いよりも、なりたくないと言う思いの方が強かったぐらいだ。だってそうだろ? 周りから妙なプレッシャーと憧れを毎日掛けられて、母親に徹底的に管理された生活はプライバシーなんか無いに等しい状態。そこまでされたら、逆に勇者に憧れも期待も抱けるハズがないに決まってるだろ?
 たしかに、この世の中、世襲制は当たり前と言うことは認める。実際、国王も世襲制だし貴族たちもみんなそうだ。だが、勇者が世襲制と言うのはおかしくないか?
 俺は勇者の息子だが、俺が勇者であると言う保証はどこにある? もし俺の血に何か高尚な血が流れたとしても俺は勇者に何かなりたくないね。 
 それに、まず国が魔族とか言う輩に攻め込まれているのにその対処策として、勇者を含めわずか数人の人間をその総大将の魔王とか言う奴を討伐しようと言うのが間違っている気がしてならない。
 この国には軍隊は何をしてるんだ?
 こういう場合は、個々の質より量で攻めた方が手っ取り早いに決まってる。勇者なんて者は、無駄に兵力を削りたくない国が兵力削減の為に行う生け贄にすぎない気がしてならない。
 実際、滅ぼされた他の国は、既存兵力が魔族の軍より少なかっただけで、他の国は攻め込まれても、兵力・物量・その他で魔族を上回って退けるどころか、近隣の魔族の砦を攻め落としているほどだ。この国も例外じゃない。
 しかし、それでも世間は心のよりどころとして、勇者と言うスケープゴートを必要としているらしく、父親がそうであったように、めでたく俺も選ばれてしまった、ということだ。
 ちなみに、何故十六歳の誕生日まで待ってたかというと。この国の法律で、町から出る許可をもらえるのが、その歳からと決まってるからだ。そこは例外が無いらしく、勇者の俺もこの歳まで待たされた訳だ。
 待ちたくもなかったが・・・
  
 まぁ、そう言う訳で俺はできるだけ目立たないように、城へと続く道を歩いている訳だが。無論、外に出る許可をもらって、町を出たら、魔王とか呼ばれるやつのところなんかには向かわず。どこか平和な村で、誰にも変な憧れを抱かれることもなく、ゆったりと暮らすつもりだ。このこっぱずかしい衣装も、それまでの我慢と決め込んでる。
 やっとついた城の前に着くと何も言ってないのに、俺の姿を見た城兵が妙に堅くなって、
「ご足労おつかれさまです勇者様!」
と言って、俺を門の中に導く。
 まったく、俺も有名になったもんだ。しかし、勇者様か・・・
 昔からそう呼ばれてたが。俺はそんな妙ちきりんな名前じゃなくて、アレスと言う名前がある。だが、俺が場内を進む度に城兵や城使いの人たちは、「勇者様」「勇者殿」と言ってくる。
 恥ずかしい。
 早く国王とやらにあって、ここからでていきたい。その思いだけつのってくる。 
「勇者殿のおな〜〜り〜〜〜」
 無駄に仰々しい従者の言葉に導かれて、俺が玉座の間に入ると、無駄に豪勢な玉座の上に、これまた無駄に偉そうなひげを生やした爺がふんぞり返って座っている。
「よく来た、勇者アレス。其方が・・・・」 
 その後はよく覚えていない、とにかくわかったのは、ここに来て初めて本名を呼ばれたことぐらいだ、前に勇者と言う文字が入ったのは無駄だがな。
 とにかく、長い長い我らが国王閣下の御講説を傾聴して、大臣らしい人物から、当面の旅の費用と地図・町からの外出許可証をもらう。
 外出許可証・・・
 これでやっと俺も平凡な生活を手にすることができる。諸手を上げて喜びたい気持ちをぐっと押さえ、最後にもう一度、体面だけじじい、いや国王に一礼をして、玉座の間からでようとした時、じじ・・国王が何かを思い出したように声を上げた。
「おぉ、忘れておった勇者アレスよ」
 そう言うと、じじいは従者に指示を出す。従者はそれを聞くと俺が入ってきたところから出ていった。
「おぬしの年で一人旅、しかも初めてとなるとは心細かろう。そこでだ、我が国でも一・二を争う魔法使いをおぬしの旅に同行させようと思う」
 じじいがそう言った直後に、俺が入ってきた入り口からフードをかぶった奴がさっきの従者に導かれてやってきた。顔はよく見えないが歩き方や雰囲気を見ると結構若そうだ。
「おぬしとあまり年は変わらぬが、幼き頃より諸国を旅して回って、旅にも慣れておる。おぬしの良き協力者となろう」
 そう言うと、糞じじい、もとい国王は玉座からおりると後ろの出口へと消えていった。 
 俺はただ、自由への計画が早速頓挫した現実を突きつけられて、後ろにいるフードをかぶった魔導師を気にすることもできず。突っ立ってることしかできなかった。

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最終更新:2007年06月05日 11:40
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