終わりのないネタ

 終わりのないネタ~性別を偽った姉妹~

(流石に今回は、登場人物の使用許可を取りに行く勇気はありませんでした。ある種、前回よりも大惨事なので)

 丘の上の小さな家には、美しい姉妹が住んでおりました。
「おはようございます、A子さん」
「B子さん、おはようございます」
 取り分け仲の良い双子の姉妹は、今日も部屋を出るタイミングまでぴったりでした。
「B子さん、B子さん、昨日は良い夢を見たの」
 ダイニングに向かう途中で、A子さんは楽しそうに話し始めました。
 A子さんが嬉しそうだと、B子さんの心も一緒に嬉しくなります。
「どんな夢だったの?」
「私達、姉妹が皆で小さな会社をやっている夢なの。でも私やB子さんは、同じ女性だったけれど、他の姉妹の方の中には、男性になっている姉妹もいたわ。……ああ、でも、きっとそんな夢を見たなんて知られたら、男の方になっていた姉妹が怒ってしまうでしょうね」
 言葉の終わりの方は少し悲しげであった。
「そんなことないわ、A子さん。夢のことだし、怒られないと思う」
「そう?」
「そうよ。C子さん、D子お姉さまだって、ちょっと男性っぽい所がある方じゃない。今だって、見た目から男性と言っても通じる方のほうが」
 B子はフォローしたつもりだったが、A子は見る間に青ざめた。
「A子さん?」
 顔を覗き込んだB子をまっすぐ見ながらA子は、
「私達は、姉妹よ。B子さん、姉妹なのよ!」
 A子の強い声に驚きを隠せなかったB子だが、その声に込められた悲痛な叫びを感じとり、思わず小さくなった。
「あ……ごめんなさい、A子さん」
 今にも泣きそうな顔でA子は、
「見た目がちょっと男の方っぽくても、姉妹なのよ! 家族である私達が信じなくて、他の誰があの子達やお姉さまを姉妹だと信じるの?!」
 A子は信じたかった、B子以外の他の姉妹を。
 B子はちなみにそこまで考えているわけではなかったが。
「それは……近所の方にC子さん、D子お姉さまは男性のように扱われているように見える時もあるけれど、きっと姉妹よ! 顔も似ていないし、体格も違うから、A子さんもそんなに心配するのよ」
「B子さん、E子さんのようなことを」
「E子さんだったら、『全部気の所為、気の迷い』で終わらせると思うわ!」
 とりあえず、A子からE子までの5人姉妹という設定である。
 年齢とアルファベットは順不同なので、
「ところで、今日もE子さんは見当たらないけれど……」
 朝食の時間が近いのにE子の姿はなかった。
「未知のウィルスを探しに行くと、体がグレーっぽい方と昨夜出かけたきりだと」
「もしかして、E子さん、デート?」
「え? え? あれ? あっ! デートだったのね!」
 きゃいきゃい騒ぐA子とB子だが、E子はその後、家に戻ってくることはなかった。
 余談として、時折E子から届く写真を使用した葉書には、地球ではない光景が必ずバックに写っていた。



 とん、とん、とん。
 包丁がまな板を叩く音が規則正しく聞こえてくる。
 一足早く食卓についていたC子さんは、静かに話を切り出すタイミングを探しながら、朝食を作っているD子お姉さまの背中を見ていた。
「何かしら、C子さん?」
 やはり相手は気が付いていたか。
 視線を感じていたD子は、振り返ることなく声をかけた。
「私に惚れたのね……」
「それだけは断じて違います、D子お姉さま」
「そう、C子さんは照れ屋さんね。最近の子は思春期を過ぎても照れ屋が多くなったわ」
「申し訳ありませんが、私のどこに照れがあったのでしょうか? そこら辺が全く分かりません」
「じゃあ、流行りのツンデレね。ふふふ……何でも流行に乗ればいいと思うなんて、若いわね」
「Eお姉さま……本題に入らせていただきたいのですが」
「告白タイム? ちょっと待ってね。今、味付けを」
「そこから離れてください、全力で」
「味なし朝食なんて、私はいただけないわね」
「話をかみ合わせてください!」
 ここまで来ると流石にC子さんも、D子お姉さまが話をわざと滅茶苦茶にしているのに気付く。
「私は、真面目なお話がしたいんです!」
 ピーっと、笛吹きケトルがお湯が沸いたことを知らせる。
 朝食の準備はほぼ整った。
「分かったわ、C子さん。朝食後、校舎裏体育館倉庫脇準備室で」
「そこは一体どこですか?!」
「朝食後に覚えていたら、その時にそこで詳しくお話しましょう」
「お、覚えててください!」
 ほとんど泣きながらC子さんが懇願していると、そこにA子さん、B子さんがやってきた。
「おはようございます、C子さん、Eお姉さまも」
「お二人とも、おはようございます」
 A子さん、B子さんの前では何もなかったような顔に戻ったC子さんとEお姉さまは、
「おはようございます、A子さん、B子さん」
「私の可愛い妹達、おはよう。さあ、ご飯にしましょう」
 和やかな食事が始まった。


「D子お姉さま、私、変な夢を見ました」
 食事後の紅茶を楽しんでいるときに、A子が口を開いた。
「あら? 夢占いの本でも持ってきた方がいいかしら」
 立ち上がりかけたD子お姉さまを止めるように、
「そこまでのことではありませんわ。他愛のない夢ですわ」
 そして、A子さんはB子さんの方を見たので、B子さんは先程の夢の話だと気が付いた。
「私達がA子さんの夢に出てきたそうですの」
「ということは私も?」
「ええ! 楽しかったですわ。ただ、B子さんとE子さんは女性でしたけど、C子さん、D子お姉さまは……そこでは男の方でしたわ。ねえ、おかしいでしょう?」
 先程、B子に対し陰鬱に感じたと話していた夢の内容をおかしいことと言ったのは、A子がそれを笑い話にして不安を吹き飛ばしてほしかったからで、A子と察したB子は笑ったが。
 かしゃん、とC子さんのカップが指先から落ち、テーブルに叩きつけられた。
 静かに、D子お姉さまは紅茶を啜っていた。
「……どうかされましたの?」
「いや……うん、おかしいよね。おかしいよね……」
 と、おかしいよね、を何度も繰り返すC子さんの様子の方があからさまにおかしかった。
 不安になった双子が、D子お姉さまの方を見ると、
「私達は姉妹よ?」
 にっこり断言されたが、
「本当ですか?」
 そう言ったのは、C子さんだった。
「私達は、本当に姉妹なのでしょうか?」
 常々思っていた、C子だった。
「D子お姉さまは……D子お兄さまではないのでしょうか?」
「C子……D子と付いているのに、お兄さまはないでしょうに」
「でも、その足のすね毛……」
「美しく女らしい女性を前にして、すね毛を見るなんて、C子はマニアックね」
「もう何でもいいですし。そろそろ諦めましょう、D子お姉さま。私達は、姉妹じゃないです」
 A子、B子は強い、世界が揺さぶられたと感じるほどの衝撃を受けた。
「私達、姉妹じゃない……?」
 そんな気は薄々していたけれど……。
「いいえ、A子、B子。私達は姉妹よ」
 ショックで今にも倒れそうなA子とB子に、D子お姉さまは言い切った。
「D子お姉さま……」
「私達は、たまたま異父異母の姉妹なのよ」
「異父異母……確かに、それなら似ていなくても」
 思わず双子は納得しかけたが、
「いやいや、異父異母なら共通の親がいないから、他人です」
「黙らっしゃい、C子。いざとなったら、全員スールで解決な話題です」
 何も解決していない――
 D子お姉さまを見つめる3人の目が、雄弁にその心を語っていた。
 ごほん、と咳払いをし、
「A子、B子、C子……真実を告げる時が来たようですね」
 直前まで誤魔化す気満々だったとは、思えない変わり身の早さであった。
「真実……」
 A子、B子はお互いの手を取り、C子は先程ひっくり返したカップの片づけをしている。
「私達は、姉妹ではありません」
 ふらり、とA子は気が遠くなるのを感じた。
「しっかりして、A子さん!」
「ああ、B子さん。私の……私の努力は何だったのかしら?」
 C子さんもD子お姉さまも、女性だと、頑張って信じようとしていた。
「元々設定的に無茶だったのよ! A子さんはそれでも頑張って、職務を全うしたのよ」
「B子さん……」
 二人は涙ぐんだ。
 無茶苦茶過ぎる。
「でもね、A子、B子。私達が姉妹なのは、貴女達の為だったのよ」
「そんな変な設定を矢継ぎ早に言わないでください!」
 思わず心の声が漏れてしまったB子だったが、D子お姉さまは華麗にスルーし、
「A子とB子が幼い頃、両親が亡くなって……私は、貴女達を育てるために姉になったのよ!」
「……お父さん、お母さんとか、別にそのまま、お兄さまでも良かったのではないでしょうか?」
「この素晴らしい美貌の私が、何故父や母なのです。お兄さまだったら、ときめきな乙女ストーリーが始まるだけです」
「私達は後者の方が断然良かった気がします」
 小さく双子は言った。
 恐らくも何も、姉を選んだのは、D子お姉さまの趣味だろう。
「はい、D子お姉さま。私まで女性を騙る必要があったのでしょうか?」
 手を挙げたのはC子さんだった。
「C子、貴女……自分だけ男性のハーレム物語をやろうとしていたのね。かなりマニアックな」
「私はマニアックじゃないですよ?!」
「そんなにも私のフラグを立てたかったのね……私も罪な女性よね」
「女性じゃないって話が出た直後でしょう?!」
「BとLでもいいけれど?」
「全て辞退させていただきます。私達は姉妹でもなければ、血も繋がってません」
 C子は、男に戻るタイミングが来たことを喜んでいたし、これで面倒なことからは解放されると思っていたが、
「分かったわ、C子……」
 黒い霧が辺りを覆う。
 A子とB子も驚いたが、二人には何もなかった。
「ほほほほほ……女の園に入り込んだ虫は、退治しないといけないわね」
「ちょ……!」


 丘の上には美しい双子の姉妹が、住んでいる。
 女装のお兄さん達も住んでいるので、怖がって近隣住民は怖がって近付かない。

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最終更新:2009年05月31日 23:05
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